ベータですが、運命の番だと迫られています

モト

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19.フェス

 7月7日。晴れ。


 野外大型フェス。
 関係者プレートを首から下げて青空を喜んだ。
 名だたるアーティストの華やかさが目に眩しい。芸能通でもなんでもない俺も流石に興奮を隠せない。


「僕以外が気になるなんて、やけちゃうなぁ」

 仮設テントにある控室は、バース専用になっている。アルファとベータは隣接していて、オメガは少し離れた場所に設置されていた。
 テントの出入り口から顔を覗かせて通行人を見ていると、SEIが揶揄ってくる。
 出演前だと言うのに、彼は緊張を表に見せず、会話を楽しむだけの余裕はある。


「SEIが一番素敵ですよ」

 ステージ衣装を身に着けたSEIはいつもに増して綺麗で芸能人オーラを纏っていた。
 長年の付き合いで彼の容姿には見慣れているけど、その麗しさにはスター性がある。

「ありがと。今日のフェスは全力を出し切るよ。──だからフェロモンの失敗は避けたい」

「はい。警備員増員していますし、その中に俺もいますので」

 俺や横にいるマネージャーだけではなく、フェス運営側もバース対策を講じて、出演時間やスタッフの出入りを可能な限り調整している。


「頼りにしているよ。さて……そろそろかな」

 SEIの声とともに、会場側でフェスを知らせる大きな音。
 満員入りしている客の拍手と歓声。
 一気に漂う緊張感の中、SEIの出番を見守った。




 ────……◇……────

 大声援の中、SEIのステージは無事に終了した。
 徹底的に磨き上げられた歌唱力、表現力。その中でも引き立つ個性。
 バックダンサーとの息をピッタリ合わせながら、些細な手の動き、顔の表情でSEIの個性を感じる。

 テレビ越しで何度もSEIの歌っている姿を見たことはあったけれど、生はヤバい。
 しかも今回は、SEIのステージにかける意気込みとかも聞かされていたので……子を見守る親心? みたいな感じになってしまって、涙が込み上げそうになることが数回あった。

 仮にも警備として来ているので気を引きしめていたけど、控室に戻って来たSEIを見ると、一気に涙がでそうになる。

 うぉぉおおおお……majiヤバい。
 ファンです。推します。

「どうだった?」
「マジで感動しました」

 水分補給をするSEIもやり切った表情をしている。
 マネージャーも「うちのSEIは凄いんですから!」なんて興奮している。

「終わって、ホッとしたぁ」

 SEIの場合は色んな意味が込められていて、今が一番喜びが大きいのじゃないかと思う。
 その後、関係者と話すSEIに遠慮してテント外で待機していた。

 無事にやり終えた安堵に包まれる中、まだ演奏している音や賑わいをテント外で暫く聞く。

「三栗さん、そろそろ行こうか」
「え、もう?」

「そうそう。フェス後半戦、ステージの出演者はアルファになる。今後スタッフが一気に入れ替わるんだ。アルファに会わないうちに出なくっちゃ」

 オメガ出演時間は、スタッフもオメガとベータだけと性を合わせている。忙しいけれど仕方ないと笑うSEI達と一緒に帰り通路を通りながら談話する。

「今度はゆっくりとお客さんとして八乙女さんと来てよ」

 突然、彼の口から八乙女の名が出て来たので、驚く。

「なんで、俺と八乙女さんとで?」

「あは。あんな執着なアルファが簡単に離さないと思うし」

 この人……相変わらず、鋭いな。

「それに、三栗さんがさ。可愛い顔していたもんなぁ」
「……」

 ほら、その顔~! って俺の顔を彼が指さした。どんな顔だよ。揶揄わないでくれ。
ステージ後で彼のテンションが高い。

「何を迷っているのか、知らないけれど。付き合えばいいじゃ──……?」

 一人の男性スタッフが照明を持って、慌ただしく通路を走った。
 その瞬間、笑うSEIの表情が固まった。
 何事が起きたのか分からないみたいにキョロキョロ周りを見て、後ろを振り向いた。

 後には、先程通ったスタッフがいた。立ち止まって同じようにこちらを振り返っていた。

「え……」

 SEIがか細い声を上げて、ガクンと膝から崩れた。
 俺とマネージャーはSEIの様子に気を取られ、背後にいたスタッフへの反応に遅れてしまった。

「運、命……?」

 男性スタッフが息を荒げながら、そう呟き、まるで獣のように飛び掛かって来た。
SEIを守るために、俺は咄嗟に彼の身体を抱きしめた。

「まっ……」

 SEIめがけて迫るスタッフ。
 噛むために大きく開かれた口を見た時、俺は──八乙女を思い出した。


 ──あれ? 
 こんな風に、俺は噛まれたことがあった……。

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