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王宮
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「ひゃぁ、でっかいなぁ」
数刻前に到着した王宮の中は、太い円柱、高い天井、大理石の床は歩く者が映り込みそうなほど輝いている。
キレイな床を泥のついた靴で歩いては汚れてしまうと靴を脱ごうとすると係の者にそっと注意された。それから大きな部屋に通された。二人寝るには大きなベッド。模様細工の高価な家具。豪華な部屋であった。
部屋を確認しながら、窓に向かった。
窓からは街が一望できる。風通しも日の光も当たる。こんな上等な部屋に案内されたということは、自分の待遇はそれ相当のものだと理解はした。
腕の中のライを抱きしめて頬擦りする。
「これは、また、凄い部屋を用意されたもんだな」
「くぅ」
先程まで同行していたスーリャも流石に王宮の部屋までは許されず、彼とは王宮の中庭で別れたのだ。
スーリャは、王国側から今後の暮らしを約束されていて、フルゴルに住んでいるそうだ。これから職を探すなどと楽しそうに言っていた。彼に金を返す必要はもうなくなったが、あの時受けた恩を彼に返したいと彼の姿が見えなくなるまで手を振った。
「さてと」
窓の縁に腰をかけながら、腕組みをしてこれからのことを考える。その間に何人かが部屋に来て俺達に挨拶をする。俺そしてライ専属の召使いであると言った。
召使いなど不要だと部屋に来る人達に声をかけたが、首を横に振られた。
そして、ようやく自分の状況を説明してくれる者が部屋を訪ねて来た。
鋭い爪と牙を持つ黒豹の獣人だ。
軍服を着た黒豹は、王の側近で将軍のアトレと名乗った。
サハン同様に俺はすぐにアトレが以前ルムダンで出会った獣人の一人だと気付いた。だが、今度は表に出さなかった。
アトレが丁重に俺に挨拶する中、言葉を途中で遮った。
「アトレさん、自己紹介はその辺でいいよ。早めに出て行くから」
第一声にそう言った。
アトレが驚き、目を丸くした。
「は? 何をおっしゃって……? コバ様は王の番ですよ」
「それは聞いたよ。でもだから何? ここに来るまでも言ったけど、俺は王とは一切会いたくないの。王って他の人でもセックス出来るんだろう?」
アトレはきっと俺の様子を王に直接報告はずだ。
その上で、単に連れて来られただけ。王宮に留まるつもりはない。と自分の意志をはっきりと伝えた。
「お言葉ですが、貴方様は王妃様になられる方です」
「……え、無理。絶対やだ!」
「番が王妃になられない歴史もありますが、ケイネス王はコバ様ただ一人を望んでおられます」
「はは、馬鹿じゃないの。だって俺スラム街出身だよ! いくらなんでも周りが嫌がるでしょ」
真面目に話しているアトレに対し笑いが止まらない。アトレの表情は分かりにくいけれど呆れているようだ。
「じゃ、王には他の王妃を探すように伝えて。俺とライは5日ほどでここを出ていきたい。その間に行くところ探しておくから」
「……は? いえ、そうではなくて」
「そうだよね。こんないい部屋勿体ないから一日くらいかな?」
「いいえっ!!」
声を荒げたアトレは、すぐに謝罪してくれるけれど、別にアトレに怖がったわけではなく考えているだけだ。
────まぁ、あんな数の兵士を迎えに寄越すくらいだから解放してくれるわけないな。いつ逃亡しようかな?
「王はコバ様をずっと探されていたのですよ!? どれほど求められているか」
「そうなんだ。じゃ、もうさようなら?」
「コバ様!?」
その後、アトレが説得する言葉にすべて首を横に振った。なんで? どうして? 俺じゃなくていいよね? と頭から拒否する。
アトレは大きな溜息の後ライを見た。
「ライ様は正当なる王位継承者です」
「…………」
ライはずっと部屋から入ってきたアトレに牙をむいていた。馬車の中でも母を守るように威嚇していた。俺の感情を察知しているかのようだ。
腕の中にいるライのフワフワの頭を撫で、アトレから離れて座った。
「……怖がらせるつもりはありません。コバ様、色々お考え直してください」
アトレは王の許可なく宮殿から出ること出来ないと伝え、部屋から出て行った。
◇
「コバ様!! そのような格好はなりません!」
「えぇ?! 無理だよ! そんな堅苦しい服なんて着てられないもん」
「ライ様!! 柱で爪を研ぐのはやめてください~」
「あはは! のびのび出来ていいねぇ! ライ良かったね!」
王宮に来て、一か月になる。
王宮内は召使いの声で賑やかだった。
王宮の召使い達は身分がよい。これまで王族しか相手したことがなかったため、俺のような者の扱い方がまるで分からないのだろう。食事をすればガチャガチャと音を立て、皿までなめる始末。どこでも寝ようとするし、着る物を拒む。
とても人前に出せる状態ではない為、国民への王の番発表は未定だった。
「コバ様……、これは一体」
部屋に訪れたアトレは驚いた。
「あぁ、朝食の量が多かったから後で食べようと包みに入れておいたんだ」
床に朝食を置いて、ライと共に食べている。
この部屋にはテーブルがあるけれど、この方が落ち着くと床に食事を置いていた。注意はされるけれど「こんなピカピカの床、汚いわけないじゃん」と笑った。
食後、そのままゴロリと床でライと共にコバは寝ころんだ。そして、突っ立っているアトレを見上げた。
「アトレさん、何?」
「……ごほん。コバ様、そろそろ王に直接お会いになられてはいかがでしょうか。王もそれを待ちわびております」
「しつこいなぁ」
王の言葉を“しつこい”と片付けるなどあってはならない。番でなければ不届き者として牢屋にぶち込まれているだろう。
それは分かっていたけれど、態度を改めなかった。
無理に会わせようとすれば、2階部屋窓から壁をつたって下へ降りる。
今日現在まで王とは一切会っていなかった。
ケイネス王は堅物な上、ロマンチストだそうだ。
大国の王として世継ぎを望むことは当然のことで後宮がある。その後宮制度も王自身が望んだことは一度もなく、ほとんどが王のやる気が逸れたと部屋に帰されていた。
妊娠確率の低い獣人は理想ばかりを言っていられない。王は不能なのかと疑う臣下も多いが男性器には問題がない。
ケイネスは俺が見つかった後、その後宮制度を廃止させた。現在は、正室一つしかない。
「ケイネス様はコバ様の御心が開かれるのを待つと言われております」
王は寛大な心を持つ一方で俺の様子を日に何度もアトレに聞いているそうだ。
「じゃ、一生会えないね! あはは!」
「…………貴方様は王がお嫌いですか?」
「うん。大嫌い!!」
迷わず即答する。ニコニコと笑顔を作って返答していたけれど、次の瞬間、コンコンと部屋のドアが叩かれた表情が消える。
俺が返事をしないことを、不思議に思ったアトレが代わりにドアを開けに向かった。
悪い予感がした俺は、ライの身体にシーツを巻いて背負った。
「私だ。コバに会いに来た」
「……王」
その声を聞いて素早く窓から外にでた。壁をつたいながら、俺を呼ぶ二人の驚いた声が聞こえる。
「コバッ!!」
王が焦って窓から大声を出すと、俺はぐらりと体勢を崩した。ケイネスが窓に足をかけ、窓から飛び出そうとするのでアトレは彼の身体を抱き死に物狂いで止めた。
「王! コバ様でしたら大丈夫です!」
「離せ! コバとライが……!!」
声に驚いたが、俺は体勢を崩しただけで指はしっかりと壁の凹凸に引っかかっている。
するすると地面に降りた。その後、一度も王のことを見上げることはなく、タッタッと中庭に向かって走った。
数刻前に到着した王宮の中は、太い円柱、高い天井、大理石の床は歩く者が映り込みそうなほど輝いている。
キレイな床を泥のついた靴で歩いては汚れてしまうと靴を脱ごうとすると係の者にそっと注意された。それから大きな部屋に通された。二人寝るには大きなベッド。模様細工の高価な家具。豪華な部屋であった。
部屋を確認しながら、窓に向かった。
窓からは街が一望できる。風通しも日の光も当たる。こんな上等な部屋に案内されたということは、自分の待遇はそれ相当のものだと理解はした。
腕の中のライを抱きしめて頬擦りする。
「これは、また、凄い部屋を用意されたもんだな」
「くぅ」
先程まで同行していたスーリャも流石に王宮の部屋までは許されず、彼とは王宮の中庭で別れたのだ。
スーリャは、王国側から今後の暮らしを約束されていて、フルゴルに住んでいるそうだ。これから職を探すなどと楽しそうに言っていた。彼に金を返す必要はもうなくなったが、あの時受けた恩を彼に返したいと彼の姿が見えなくなるまで手を振った。
「さてと」
窓の縁に腰をかけながら、腕組みをしてこれからのことを考える。その間に何人かが部屋に来て俺達に挨拶をする。俺そしてライ専属の召使いであると言った。
召使いなど不要だと部屋に来る人達に声をかけたが、首を横に振られた。
そして、ようやく自分の状況を説明してくれる者が部屋を訪ねて来た。
鋭い爪と牙を持つ黒豹の獣人だ。
軍服を着た黒豹は、王の側近で将軍のアトレと名乗った。
サハン同様に俺はすぐにアトレが以前ルムダンで出会った獣人の一人だと気付いた。だが、今度は表に出さなかった。
アトレが丁重に俺に挨拶する中、言葉を途中で遮った。
「アトレさん、自己紹介はその辺でいいよ。早めに出て行くから」
第一声にそう言った。
アトレが驚き、目を丸くした。
「は? 何をおっしゃって……? コバ様は王の番ですよ」
「それは聞いたよ。でもだから何? ここに来るまでも言ったけど、俺は王とは一切会いたくないの。王って他の人でもセックス出来るんだろう?」
アトレはきっと俺の様子を王に直接報告はずだ。
その上で、単に連れて来られただけ。王宮に留まるつもりはない。と自分の意志をはっきりと伝えた。
「お言葉ですが、貴方様は王妃様になられる方です」
「……え、無理。絶対やだ!」
「番が王妃になられない歴史もありますが、ケイネス王はコバ様ただ一人を望んでおられます」
「はは、馬鹿じゃないの。だって俺スラム街出身だよ! いくらなんでも周りが嫌がるでしょ」
真面目に話しているアトレに対し笑いが止まらない。アトレの表情は分かりにくいけれど呆れているようだ。
「じゃ、王には他の王妃を探すように伝えて。俺とライは5日ほどでここを出ていきたい。その間に行くところ探しておくから」
「……は? いえ、そうではなくて」
「そうだよね。こんないい部屋勿体ないから一日くらいかな?」
「いいえっ!!」
声を荒げたアトレは、すぐに謝罪してくれるけれど、別にアトレに怖がったわけではなく考えているだけだ。
────まぁ、あんな数の兵士を迎えに寄越すくらいだから解放してくれるわけないな。いつ逃亡しようかな?
「王はコバ様をずっと探されていたのですよ!? どれほど求められているか」
「そうなんだ。じゃ、もうさようなら?」
「コバ様!?」
その後、アトレが説得する言葉にすべて首を横に振った。なんで? どうして? 俺じゃなくていいよね? と頭から拒否する。
アトレは大きな溜息の後ライを見た。
「ライ様は正当なる王位継承者です」
「…………」
ライはずっと部屋から入ってきたアトレに牙をむいていた。馬車の中でも母を守るように威嚇していた。俺の感情を察知しているかのようだ。
腕の中にいるライのフワフワの頭を撫で、アトレから離れて座った。
「……怖がらせるつもりはありません。コバ様、色々お考え直してください」
アトレは王の許可なく宮殿から出ること出来ないと伝え、部屋から出て行った。
◇
「コバ様!! そのような格好はなりません!」
「えぇ?! 無理だよ! そんな堅苦しい服なんて着てられないもん」
「ライ様!! 柱で爪を研ぐのはやめてください~」
「あはは! のびのび出来ていいねぇ! ライ良かったね!」
王宮に来て、一か月になる。
王宮内は召使いの声で賑やかだった。
王宮の召使い達は身分がよい。これまで王族しか相手したことがなかったため、俺のような者の扱い方がまるで分からないのだろう。食事をすればガチャガチャと音を立て、皿までなめる始末。どこでも寝ようとするし、着る物を拒む。
とても人前に出せる状態ではない為、国民への王の番発表は未定だった。
「コバ様……、これは一体」
部屋に訪れたアトレは驚いた。
「あぁ、朝食の量が多かったから後で食べようと包みに入れておいたんだ」
床に朝食を置いて、ライと共に食べている。
この部屋にはテーブルがあるけれど、この方が落ち着くと床に食事を置いていた。注意はされるけれど「こんなピカピカの床、汚いわけないじゃん」と笑った。
食後、そのままゴロリと床でライと共にコバは寝ころんだ。そして、突っ立っているアトレを見上げた。
「アトレさん、何?」
「……ごほん。コバ様、そろそろ王に直接お会いになられてはいかがでしょうか。王もそれを待ちわびております」
「しつこいなぁ」
王の言葉を“しつこい”と片付けるなどあってはならない。番でなければ不届き者として牢屋にぶち込まれているだろう。
それは分かっていたけれど、態度を改めなかった。
無理に会わせようとすれば、2階部屋窓から壁をつたって下へ降りる。
今日現在まで王とは一切会っていなかった。
ケイネス王は堅物な上、ロマンチストだそうだ。
大国の王として世継ぎを望むことは当然のことで後宮がある。その後宮制度も王自身が望んだことは一度もなく、ほとんどが王のやる気が逸れたと部屋に帰されていた。
妊娠確率の低い獣人は理想ばかりを言っていられない。王は不能なのかと疑う臣下も多いが男性器には問題がない。
ケイネスは俺が見つかった後、その後宮制度を廃止させた。現在は、正室一つしかない。
「ケイネス様はコバ様の御心が開かれるのを待つと言われております」
王は寛大な心を持つ一方で俺の様子を日に何度もアトレに聞いているそうだ。
「じゃ、一生会えないね! あはは!」
「…………貴方様は王がお嫌いですか?」
「うん。大嫌い!!」
迷わず即答する。ニコニコと笑顔を作って返答していたけれど、次の瞬間、コンコンと部屋のドアが叩かれた表情が消える。
俺が返事をしないことを、不思議に思ったアトレが代わりにドアを開けに向かった。
悪い予感がした俺は、ライの身体にシーツを巻いて背負った。
「私だ。コバに会いに来た」
「……王」
その声を聞いて素早く窓から外にでた。壁をつたいながら、俺を呼ぶ二人の驚いた声が聞こえる。
「コバッ!!」
王が焦って窓から大声を出すと、俺はぐらりと体勢を崩した。ケイネスが窓に足をかけ、窓から飛び出そうとするのでアトレは彼の身体を抱き死に物狂いで止めた。
「王! コバ様でしたら大丈夫です!」
「離せ! コバとライが……!!」
声に驚いたが、俺は体勢を崩しただけで指はしっかりと壁の凹凸に引っかかっている。
するすると地面に降りた。その後、一度も王のことを見上げることはなく、タッタッと中庭に向かって走った。
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