イケメン社長に超口説かれるモブの受難

モト

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眠れないから、羊の代わりに君を数える

土日の休日明けの月曜日。

いつもの月曜はダル重くらいなのに、今日は心身共にどっしりと疲れている。

その原因は、ゲームのやりすぎだ。
この休日、俺はつい社長のキザな台詞を思い出しては寒気がしていた。そして、ちょっとイライラするのだ。そう。俺は悩んでストレスを感じていた。


休日何をして過ごしていたかと誰かに聞かれてみろ。「社長のことぉ、考えていました」なんてアホなことを言わざるを得ない。俺は、そんな休日は嫌だ。

——俺の休みは俺のモノなんだ。

俺は、本屋に向かった。本屋に向かい、人気の呪い漫画を大人買いして読み漁った。読み終われば、ゲームだ。
ゲームの中でイケメンキャラクターが、『君の瞳はきれいだね』と言う台詞があり、いつもは何にも思わないのに、寒気がしてコントローラーを落としてしまった。即行、そのゲームを止め、違うシューティングゲームをし、バンバンと派手に撃ちまくった。

……で、気付いたら夜中までゲームをしていた。



まぁ、自業自得だ。
会社の椅子に座ってしまえば、会社へ行く前のイヤイヤが諦めへと変わり落ち着く。
過ぎたことを後悔しても仕方ない。

PCに向かって情報を入力し始めた。ゲームのせいで朝なのに既に肩が凝っている。眼精疲労もある。
現代病に悩まされながら、一通りの作業を終え、午後からは、書類整理でもしようかと思っていると、柏木さんと小嶋さんが何やらスマホを見て楽しそうにしていた。


「ねぇ、山川君も見てみて~! SNSに面白い人発見しちゃったの」
「くっくく、これ、本人だったらウケる」
「有り得ないでしょう~」

何をそんなに面白いのか、小嶋さんが持っているスマホを見せてきた。

「…………え?」
「びっくりしたでしょう~!」
「これ、社長と同じ名前のアカウントっていうだけでフォローしちゃったんだけどね、面白いのよ~!」

彼女達が笑っていたのは、『田中清一郎』のアカウントだった。380円の人気チョコ画像……。紛れもなく、2日前に相互フォローし合ったアカウントだ。そのフォロワー数を見て驚いた。

「な、……七百六十人?!」

2日前は、35人だったのに、一気に増えていた。

実は、SNSを開くのを止めていて、田中清一郎のアカウントがどうなっているのか知らなかった。

フォローは依然として俺一人だ。

小嶋さんがスマホをスライドさせ、田中清一郎のつぶやきを見せてくる。

『道を教えて欲しいんだ。君のハートに続く道を』
『離れていても空は繋がっているんだね。それだけで僕の胸は張り裂けそうだ』
『君の鏡はなんてラッキーなんだろう。毎日、君にみつめてもらえるなんて』
『眠れないから、羊の代わりに君を数えてみたんだ。増えていく君に凄く幸せを感じた』


ぶつっ、ぶつっ。
あ、また鳥肌立った。

「おっもしろいでしょ~!!」

面白がられている。
多分、この田中清一郎はギャグやジョークのつもりで呟いていない気がする。

「……面白いっすか? こんなこと女の人は言われたいですか?」
「「全然」」

二人は、首を横にふった。

じゃ、なんで?

「でもね、もし社長が呟いていたらって妄想するのが楽しいんだって」
「あの無表情無愛想で仕事人間の社長が、実はキザで乙女思考だと考えるとおっかしい!!」

現実問題になったら、鳥肌だよ? 

「あー、社長になら言われたぁい!!」

だから。鳥肌だって。





その後もデスク周りはSNSの話題で盛り上がっていたが、俺はそれらのことを考えないように集中していた。

社長が俺のことを舞い降りたエンジェルだと思っているなら、そのうち、アプローチしてくるだろう。しかし、そんな未来のことを考えても不毛だ。悩みのタネだけが増えていくだけだろう。

俺に出来ることは、きたる社長のアプローチに平常心で迎えることだ。

そう思っていたが、月曜日はアプローチなし。火曜日もなし。水曜日もなし。木曜こそ、何かくるんじゃないかと怖がっていたが何もなし。


「……???」

ふむ。

金曜日になって、もしかして社長は超熱しやすく超冷めやすいタイプではないか思い始めた。

毎日柏木さんと小嶋さんが笑っている『田中清一郎』は俺の思い違いで本当に同姓同名の別人とか……?

SNSを開いて確かめる勇気はまだ持てないけれど、一週間何もアプローチがないことに淡い期待が込み上げてくる。

なみなみと入った珈琲を持ちながら休憩室に向かう。


甘い言葉、ハンタータイプ、熱しやすく冷めやすいか……。

「俺は、口にはあんまり出さないけど、傍にずっといたいタイプだから分からねぇな」

「それは、堪らなく素敵だね」
「————ひぇっ!?!?!?!?!?!?」

後から急に美声が聞こえたのでビクリと驚いて振り返った。たっぷりとカップに入った珈琲がその拍子に少し跳ねて零れてしまう。

「急に声をかけて驚かせたね」
「——————ひ、……しゃ、社長……」

目の前に急に現れた8頭身に端正な顔……田中社長だ。完全に油断していた。

だから、なんで、いつも唐突なんだよ!?

「休憩中に再びすまない」

思わず嫌な顔をしてしまった俺は、ハッとする。落ち着かせて表情を正す。

「いえ。なんのご用件でしょうか————……っ!」

用件を手早く聞こうとした時に、間近にいる社長のジャケットの茶色い点が付着しているのが目に入ってきた。
こ、この茶色いシミはぁ!?

「わぁっ! すみませんっ!! 珈琲が跳ねて社長のジャケットにぃ!!」

珈琲大好きな俺はよく二杯目を飲む。その継ぎ足す移動が面倒くさくて、今日はなみなみと注いでいたのだ。それが仇になった。

「え? あぁ、いいよ。こちらが悪いから」
「いいわけないです。とりあえず、脱いでください! 汚れは時間が経つと取れにくくなりますから」
「え、拓郎君!?」

社長のスーツを無理やり脱がせて奪った。スマホで「珈琲シミ抜き方法」と調べ、応急処置をする。休憩室には水道が常備されていてよかった。
まず、乾いた布で、コーヒーのシミが付いた部分をポンポン叩く。その次は中性洗剤を使うのだが……、この素材は中性洗剤を使っていいものか? 
明らかによい素材だ。手触りも光沢もいい。
恐る恐るスーツのタグを見ると、イタリアの有名ブランドロゴが付いている。社長はモデル体型なのでサイズ的にオーダーメイドと見て、100万以上はするだろう……。


「気にしなくていいよ」
「ひぃ……!! 気にしますよ!! こんなハイブランドスーツ汚してしまって!!」

ド庶民の俺は軽くパニックだ。

「君が気にするなら今すぐクリーニング出してくるから。この汚れならプロに任せたらキレイにとれるだろう」
「……」

ポンっと肩を叩かれた俺は、トゥクンとした。ラブコメは全く始まらないが、社長の経済力の強さに胸が高まる。
仮に俺が高級ブランドスーツを汚されたなら、冷静にはいられないだろう。

「じゃ、せめてクリーニング代をお支払いします」

そう言うと、彼はキザらしく肩をすくめた。

「驚かせた僕も悪いだろう。本当に気にする必要ないよ」
「……すみません」
「謝らなくていい」


全く気にしていない社長の様子。
彼の気持ち悪いキザな言動はどうかと思うけれど、社長として支持が高いのは仕事が出来るだけじゃなくて、気配りも上手いからではないだろうか。
流石……



「それで」

社長が声色を変えた。見上げると、社長が熱い目で俺を見ている。熱い目っていう表現が合っているのか分からないが、めっちゃ見てる。おい。見すぎ。俺みたいな平凡をそのように見ても楽しくないだろう。

今、その顔で、SNSのつぶやきみたいなことを考えているのか? おい、ゴクリと唾を飲むんじゃない!


「すまない。魅力的な君を前にして言葉を失っていた……」

「……」

この言葉から逃避したい。だが、無意識にニコリと社交辞令を返してしまった。普段の営業スマイルが身に付いてしまっている。今、俺は、笑いたくもないのに笑っている!


すると、俺が笑った顔を見て、社長は頬を染めて目を逸らした。

え……??? なんなの? 俺の笑顔があれなの? 俺の笑顔は100万ボルトなの?
どういう……? どういう目してんの?

彼はまたこちらを向いて、俺の手を取った。

「…………」

すげぇ、ヤな予感がする……。俺、今、どんな顔してる? まだスマイル貼ってる?

「今夜、一緒に食事に行かないかい?」

ほら、予感が的中した…………。

「……」

遅かれ早かれ、こういったアプローチがくるのではないかと思っていた。俺の予定では、今後全てのアプローチに対し、丁重に断るハズだった。

——……だったと過去形なのは、高級スーツを汚した後だからだ。

高級スーツを汚した俺に拒否権はあるのだろうか。社長は、全く気にしなくていいと言っている。


今週、俺は脳内で断るトレーニングを積んでいたんだ。幾度となく、脳内ではNOと言ってきた。


「……………………はい」



社長は、握った俺の手を自分の唇に持って行き、軽く押し当てた。

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