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山を越えて 4
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馬車に揺られる双子の娘たちは、安心したのか眠ってしまった。
荷台から顔を覗かせたリリカは、手綱を握るタムルの横に座った。
「獣人の国は、初めてか?」
「はい、初めてです」、もちろん獣人族と話をするのも初めてだった。
「なら、獣人族の事は、あまり知らないね」
「うん、本の知識だけだから、直接話を聞いた事は無いですよ」
タムルは、目尻を下げて笑顔を見せる。そんな彼の姿から、リリカは獣人族が見た目と違い優しい心を持つ種族だと知る。
タムルは、リリカに獣人族について説明を始めた。
「獣人には猫族と犬族がいる。見て分かる通り、私は猫族だけどね。猫族は大柄な人が多くてね、平均身長は3メートルぐらいになる。犬族は、猫族と対照的に体の細い人が多いよ。身長は2メートルぐらいの人が多いかな」
「へえー、同じ獣人でも違うんですね」と、リリカは相槌を打ちながら答えた。
「まあ、色んな種族が居て、みんな見た目が違うからな。マラガの城下町には、獣人だけでなく人間やドワーフも一緒に暮らしているよ」
「ふーん、マラガには、違う種族の人も居るんだね。あのねタムルさん、本で読んだんですが、獣人化って何ですか」
「獣人化は、身体能力を上げる技だよ。通常時の10倍ほどになるな。しかし、・・・」
手綱を握りなおしたタムルは、さっきクマに襲われた事を思い出した。
そうだ、獣人化すればクマを倒し、娘達を怖がらせずに済んだかも知れない。しかし、怒りが力の根源となる獣人化は危険な技だ。
獣人化してしまうと、怒りで理性を失い、クマだけでなく娘達にも危害を与えたかもしれない。
「あのー、獣人化もやっぱり十の法則が関係してるの?」
「そうだ、獣人化は神から与えられたギフトだから、十の法則になるな。まあでも、獣人化は訓練された兵士でなければ、安全に扱えないから。それを考えると、リリカに助けて貰えたのは幸運だったよ」
リリカに会わなければ、最悪の事態になったかも知れない、そう考えると本当に良かった思える。隣に座るリリカを見たタムルは、神に感謝していた。単なる偶然だったとしても、魔法士の少女を遣わしてくれた事に。
「それにしても凄い魔法だったな。何なのか分からなかったが、あのキラキラ光る玉は何だったんだろうか」
「氷ですよ、知りませんか?」
マラガ王国は冬でも防寒着の必要ない、温暖な気候の国なのだ。
そんな場所で氷を見る事は、滅多にない。タムルだけでなく、マラガに住む獣人にとって氷は珍しい物だった。
「あれが、氷か。初めて見たから気付かなかったよ」
「まだ半人前なの、だから魔法士になるためにアバルディーンへ行くのよ」
「あれで半人前か? 魔法士になれたら、もっと凄い魔法が使えるのか」
話をするタムルの小さな耳が小刻みに動く。彼の頭の上の小さな耳が、面白くてリリカは見とれていた。毛深いだけで顔立ちは、人族と近いのに。耳の位置だけが違うので、不思議に思ったのだ。
村に着くとココとメナに手を引かれ、家の中へ招かれた。
夕食後、子供たちを寝かしつけたタムルの奥さんが入れてくれたハーブティーを味わいながら、三人で夜の時間を過ごしていた。途中でタムルの表情が曇り、行商の先で聞いた不穏な噂を話しを口にした。
「王国には、あまり長く滞在しないほうが良いかも知れないな」
「えっ、どうしてですか?」
「それが、帝国が怪しい動きを見せていると聞いてね」
「帝国ですか?」
村で育ったリリカは、世界情勢に疎かった。
旅人の訪れない村では、情報は全くと言っていいほど入ってこない。せいぜい村人同士の噂話しで、盛り上がるぐらいだった。
旅をするには、情報は不可欠だ。これから訪れる国や異なる人種などに関する事は、正確な情報を集めておかなければならない。
タムルからの情報を聞き洩らさないように、リリカは集中した。
「確かマラガは、帝国と自由都市共同体に隣接していますよね」
「そうだ。バルトゥン帝国と自由都市共同体ウォリス連邦国とね」
真剣に話を聞くリリカに、旅の無事を願うタムルは説明を続けた。
「第二次侵略戦争後、帝国とウォリス連邦国は不可侵条約を結んだのだが、王国と帝国は何の条約も結んでいない」
「どうして、マラガは帝国と条約を結ばなかったの?」
「それは、先王が帝国の侵略を許せなかったからだよ。だから、戦後、王国は帝国との国交を断絶した」
「国交を断絶してるなら、お互いに干渉しないんじゃあ?」
「それは違うよ。条約が無いから、帝国とマラガ王国は今も戦争状態みたいなものだよ。この国は、手つかずの土地や森林資源が多いからね。隙を伺っては、ちょっかいをかけてくるんだ」
「何年も休戦状態なのに、そんな簡単に攻めてきますか?」
険しい顔つきになったタムルは、テーブルの上に置く手を握りしめ拳を作った。
「獣人は、好戦的ではないからな。軍事力が他国に比べて弱いんだよ。今のマラガは、自国を防衛するので精一杯だ。そんなんだから国境では、こちらの状況を探る為に、常日頃から小競り合いが続いていると聞くし。まあ、強力な軍事力を持つ国は、力で周りを従わせようとするし、欲しいものは奪い取りに来るものさ」
侵略戦争後も続く不安定な情勢がもたらす争いは、今まさに小競り合いから侵略へと、その目的を変えようとしていた。
「イヤだな。戦争になったら、沢山の人が傷ついて、苦しむから反対です」と、リリカは下を向いてティーカップを見つめた。
「そうだな、平和が一番大事なのに。まあ、あくまで噂だから。万が一のことも考えておかないとね。旅の安全を祈っているよ」
噂だと軽視せず情報を収集する大切さが、そこにはあった。
危険を察知したら事前に回避する能力が、旅人には求められる。安全に一人旅をするなら、尚更その事を心に留めておいて欲しいとタムルは願っていた。
明日は、日が昇ったら直ぐに出発する予定だ。早く休みなさいと、タムルと奥さんに言われたリリカは、用意されたフカフカのベッドの温もりに感動した。
荷台から顔を覗かせたリリカは、手綱を握るタムルの横に座った。
「獣人の国は、初めてか?」
「はい、初めてです」、もちろん獣人族と話をするのも初めてだった。
「なら、獣人族の事は、あまり知らないね」
「うん、本の知識だけだから、直接話を聞いた事は無いですよ」
タムルは、目尻を下げて笑顔を見せる。そんな彼の姿から、リリカは獣人族が見た目と違い優しい心を持つ種族だと知る。
タムルは、リリカに獣人族について説明を始めた。
「獣人には猫族と犬族がいる。見て分かる通り、私は猫族だけどね。猫族は大柄な人が多くてね、平均身長は3メートルぐらいになる。犬族は、猫族と対照的に体の細い人が多いよ。身長は2メートルぐらいの人が多いかな」
「へえー、同じ獣人でも違うんですね」と、リリカは相槌を打ちながら答えた。
「まあ、色んな種族が居て、みんな見た目が違うからな。マラガの城下町には、獣人だけでなく人間やドワーフも一緒に暮らしているよ」
「ふーん、マラガには、違う種族の人も居るんだね。あのねタムルさん、本で読んだんですが、獣人化って何ですか」
「獣人化は、身体能力を上げる技だよ。通常時の10倍ほどになるな。しかし、・・・」
手綱を握りなおしたタムルは、さっきクマに襲われた事を思い出した。
そうだ、獣人化すればクマを倒し、娘達を怖がらせずに済んだかも知れない。しかし、怒りが力の根源となる獣人化は危険な技だ。
獣人化してしまうと、怒りで理性を失い、クマだけでなく娘達にも危害を与えたかもしれない。
「あのー、獣人化もやっぱり十の法則が関係してるの?」
「そうだ、獣人化は神から与えられたギフトだから、十の法則になるな。まあでも、獣人化は訓練された兵士でなければ、安全に扱えないから。それを考えると、リリカに助けて貰えたのは幸運だったよ」
リリカに会わなければ、最悪の事態になったかも知れない、そう考えると本当に良かった思える。隣に座るリリカを見たタムルは、神に感謝していた。単なる偶然だったとしても、魔法士の少女を遣わしてくれた事に。
「それにしても凄い魔法だったな。何なのか分からなかったが、あのキラキラ光る玉は何だったんだろうか」
「氷ですよ、知りませんか?」
マラガ王国は冬でも防寒着の必要ない、温暖な気候の国なのだ。
そんな場所で氷を見る事は、滅多にない。タムルだけでなく、マラガに住む獣人にとって氷は珍しい物だった。
「あれが、氷か。初めて見たから気付かなかったよ」
「まだ半人前なの、だから魔法士になるためにアバルディーンへ行くのよ」
「あれで半人前か? 魔法士になれたら、もっと凄い魔法が使えるのか」
話をするタムルの小さな耳が小刻みに動く。彼の頭の上の小さな耳が、面白くてリリカは見とれていた。毛深いだけで顔立ちは、人族と近いのに。耳の位置だけが違うので、不思議に思ったのだ。
村に着くとココとメナに手を引かれ、家の中へ招かれた。
夕食後、子供たちを寝かしつけたタムルの奥さんが入れてくれたハーブティーを味わいながら、三人で夜の時間を過ごしていた。途中でタムルの表情が曇り、行商の先で聞いた不穏な噂を話しを口にした。
「王国には、あまり長く滞在しないほうが良いかも知れないな」
「えっ、どうしてですか?」
「それが、帝国が怪しい動きを見せていると聞いてね」
「帝国ですか?」
村で育ったリリカは、世界情勢に疎かった。
旅人の訪れない村では、情報は全くと言っていいほど入ってこない。せいぜい村人同士の噂話しで、盛り上がるぐらいだった。
旅をするには、情報は不可欠だ。これから訪れる国や異なる人種などに関する事は、正確な情報を集めておかなければならない。
タムルからの情報を聞き洩らさないように、リリカは集中した。
「確かマラガは、帝国と自由都市共同体に隣接していますよね」
「そうだ。バルトゥン帝国と自由都市共同体ウォリス連邦国とね」
真剣に話を聞くリリカに、旅の無事を願うタムルは説明を続けた。
「第二次侵略戦争後、帝国とウォリス連邦国は不可侵条約を結んだのだが、王国と帝国は何の条約も結んでいない」
「どうして、マラガは帝国と条約を結ばなかったの?」
「それは、先王が帝国の侵略を許せなかったからだよ。だから、戦後、王国は帝国との国交を断絶した」
「国交を断絶してるなら、お互いに干渉しないんじゃあ?」
「それは違うよ。条約が無いから、帝国とマラガ王国は今も戦争状態みたいなものだよ。この国は、手つかずの土地や森林資源が多いからね。隙を伺っては、ちょっかいをかけてくるんだ」
「何年も休戦状態なのに、そんな簡単に攻めてきますか?」
険しい顔つきになったタムルは、テーブルの上に置く手を握りしめ拳を作った。
「獣人は、好戦的ではないからな。軍事力が他国に比べて弱いんだよ。今のマラガは、自国を防衛するので精一杯だ。そんなんだから国境では、こちらの状況を探る為に、常日頃から小競り合いが続いていると聞くし。まあ、強力な軍事力を持つ国は、力で周りを従わせようとするし、欲しいものは奪い取りに来るものさ」
侵略戦争後も続く不安定な情勢がもたらす争いは、今まさに小競り合いから侵略へと、その目的を変えようとしていた。
「イヤだな。戦争になったら、沢山の人が傷ついて、苦しむから反対です」と、リリカは下を向いてティーカップを見つめた。
「そうだな、平和が一番大事なのに。まあ、あくまで噂だから。万が一のことも考えておかないとね。旅の安全を祈っているよ」
噂だと軽視せず情報を収集する大切さが、そこにはあった。
危険を察知したら事前に回避する能力が、旅人には求められる。安全に一人旅をするなら、尚更その事を心に留めておいて欲しいとタムルは願っていた。
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