滅んでしまった王国の元騎士は自由気ままな暮らしを満喫したい

川村直樹

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ダンディルグ王国領内 1

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 山の中は、鳥のさえずりが聞こえる。木漏れ日の差す長閑な空間に、クリスの気も緩む。山賊も凶暴な獣も居ない森と聞いていたので、安心感から馬上で欠伸をするクリスは、うたた寝をしていた。

 気が付けば日も暮れていたので、馬を休めて野宿の準備をした。

 昼間のうたた寝が影響したのか、夜が更けても眠くならない。
 クリスは、焚火を前に小枝を火に投げ込みながらボーとしていた。
 ガサガサと人の足音が聞こえたので、周りを見渡すとランプの灯が見える。

 他に野宿している人でも居るのかと思い、彼は灯の方に向かってクリスは声をかけた。

「こんばんわ。野宿している人ですか? 誰ですか?」

「・・・」

 返答は、無い。そのままクリスが灯に近づいて行くと、ランプを手に持つ少女が何かを探している。

 白色の頭巾をかぶる少女の瞳は赤い、白いシャツと黒いスカートの上に真っ赤なエプロンを着ている。気になったクリスは、魔族であろう彼女の後ろから声をかけた。

「何か探しものか?」

「きゃっ!!!」と、少女が振り向いた。

「困っているのなら、手伝おうか?」

「ビックリした! あなた誰なの? ここで何をしているの?」

「俺か・・・、俺は旅をしている冒険者だ。直ぐ近くで野宿している所だよ」

「冒険者の方ですか」と、少女は胸をなでおろした。

「それより、何か探し物か?」

「はい、大切なネックレスを落としてしまって。ずーっと探して居るのですが、見つからなくて困っています」

「それは、大変だな。大切な物なら探すのを手伝うよ」と、クリスは何の疑いも持たずに少女が探していると言うネックレスを一緒に探し始めた。

 こっそり身体強化をして、地面や草の中を探すがネックレスは見つからない。クリスは、全身の感覚を研ぎ澄ませると、奥に大木があり根元で何かが光るのを見つけた。

「おーい、こっちに何かある見たいだぞ」と、少女を呼び寄せた。

 クリスと少女が一緒に大木の方へ向かうと、少女と同じ服を着る遺体を見つけた。
死んでから長い時間が経ったか、気にもたれかかる遺体は白骨化している。

 遺体の首には、ネックレスが光っていた。

「あの遺体、君と同じ服を着ている様に見えるが、気のせいか? 首元には、ネックレスがあるな」

「ああああ、あれです。私が探していたのは、あのネックレスと私自身です」

「うん? 何かな、・・・私自身・・・!! あの遺体は君か?」

「そうです、私は事故で死んだのです。でもどこで死んだのか分からなくて、それに大切なネックレスも見つからなくて、夜な夜な探していたのです」

「はああ、遺体の胸元に折れた木が刺さっているけど、その赤いエプロンは血で染まっているのか」

「そうですよ、鮮血で真っ赤になってしまいました」と、くるっと一回転した彼女は、笑顔で答えた。

 初めて幽霊を見たクリスは、少女とのやり取りがあまりにも滑稽に感じられ、恐怖心が持てなかった。

「君自身もネックレスも見つかったから、もう大丈夫だな」

「そうなのですが、私の頼みを聞いてもらえませんか?」

「君の頼み? 俺に出来る事なら引き受けるけど」

「私を村に帰して欲しいの。後、ネックレスを私の両親に届けて欲しい」

「山を下りた麓にある村か?」

「はい、そうです」、彼女は冷たい両手でクリスの手を握りしめ、上目遣いで見つめた。

「君の名前は?」

「私の名前は、サーヤです」

「分かった、俺が責任をもって村に帰してやるよ」

「有り難う、これで安心できる」と、サーヤは薄明りに包まれ消えてしまった。

 クリスは、集めたサーヤの骨と丁寧に畳んだ服とネックレスをショルダーバッグから出した布の上に置き包んだ。強い思いがあれば、死んでも魂はこの世を彷徨うのだと彼は知った。

 山の麓の村の入り口で、クリスは馬から降りた。

 村の中へ入ると農作業を終えた人が、後ろから二人歩いて来た。

「すいません、聞きたいことがあるのですが」

「旅の方か、何でしょうか?」、背の高い方の農夫が答えた。

「この村にサーヤと言う少女が、居ましたよね。彼女の両親に会いたいのですが、ご健在ですか?」

 クリスの問いかけに村人は驚いた表情を見せた、「サーヤは村長の娘だが、昨年、森に入ったまま行方不明になったのに。村長ならこの先にある一番大きな家だ」

「有り難うございます」

 森でサーヤの幽霊に会ったなどと伝えたら、農夫達は恐怖し驚くだろう。クリスは、必要以上の事を彼らには話さなかった。

 村長の家のドアをノックすると、村長の妻が出て来た。

「初めまして、私はクリスと言います。お伝えしたい事があり、訪ねてきました」

「伝えたい事ですか? どんなご用件かしら?」

「村長とあなたに伝えたい事です。内容は、あなた達の娘であるサーヤについてです」

 村長の妻は手のひらで口を覆い、泣き出しそうな顔を見せると、慌てて家の奥へ姿を消した。

 暫くすると、夫である村長を連れて来た。

「私は、この村で村長をしていますイグナスと申します。そして彼女は、私の妻でサリです。サーヤの事をご存知なのですか?」

「ええ、山の中で彼女と出会いましてね。ちょっと、約束をしたのでお話ししたいのですが」

「そんなバカな、娘は行方不明になってから一年は経つのですよ。もう、生きているはずが無いのに。それでも娘と会ったと言うのですか」

「信じてくれなくても良いですが、彼女に頼まれた物はお渡ししたい」

 クリスは、ショルダーバッグからサーヤの骨と服とネックレスを包んだ布をイグナスに手渡した。イグナスは中身を見ると、布を抱きしめ泣き崩れた。

「これを届けてくれたのですか、確かに娘です・・・なんとお礼を申したら良いのか」

 村長は、娘を連れ帰ってくれたクリスを自宅に招き入れた。

クリスはイグナスとサリに、改めて森で出会ったサーヤについて詳しく話をした。

「そうでしたが、娘の魂は私達を心配して彷徨っていたのですか」

「はい、でも探し物を見つけて約束をしたら、消えてしまいました。安心したのでしょうね」

「クリスさん、娘があなたに出会えて本当に良かった」と、イグナスは涙を流しながらクリスの手を両手で握りしめた。

 娘を届けてくれた恩人をもてなしたいと、イグナスとサリに引き止められてしまったので、クリスは一晩お世話になる事にした。
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