滅んでしまった王国の元騎士は自由気ままな暮らしを満喫したい

川村直樹

文字の大きさ
38 / 66

北の遺跡 3

しおりを挟む
 食事を堪能した女神アテーナをクリス達は呆然と眺めていた。

 小さい体でもよく食べる女性は多いが、彼女の場合は大食い選手権で優勝をかっさらえるぐらいの食べっぷりだった。そんな好奇心の目で見られているとも知らず、女神はげっぷが出そうになり、両手で口を覆い女性らしく我慢した。

「ふぅー、それで何だったかな?」

「いやいや、何だったかじゃなくて。あなたが、急に現れた理由を聞きたい」

 質問をするクリスをじっと見つめたアテーナは、顎に手をやり首を傾げた。とぼけている様に見えるが、彼女は真剣に考えている。

「えーっと、何だったっけ・・・」

 クリスと向かい合ってとんち比べでもしているかの様相に、焚火を囲む仲間達が笑い出す。

「女神様は、何かを伝えに来られたのですか?」

 カレンの言葉で何かを思い出したアテーナは、ポンと手のひらを叩いた。彼女は立ち上がると、何故か鎧を脱いだ。黒のビキニ姿になった彼女の豊満な体に男達は、思わず目を見開いたが、直ぐに残念そうな顔をした。そう彼らは、彼女の身長が小さすぎてスタイル良いドワーフにしか見えなかったのだ。

「どうしたの、この私の美貌に驚いたの。仕方が無いわよね、武と美を兼ね揃える私に誰もが夢中になるからね」、目を逸らす男達をシャイだと思い込んだ彼女は、艶めかしく体を捻りセクシーにアピールする。

 美的感覚が周りとは少し違うのか、サーシャはうっとりとして胸元で両手を合わせ、「綺麗です女神様」と、呟いた。

 ため息にも似た声を発した男達は、無言で首を振る。どう頑張っても女神アテーナが子供に見えてしまい、罪悪感を覚えてしまう。

 彼女を直視する事が、出来なかった。

 自信過剰な女神にしびれを切らしたクリスは、自分の太ももを両手で叩いた。

「はいはい、スタイル抜群の女神様。目的は何だ?」

「そうだったわ。私は、勇者カレンに忠告しに来たの」

 カレンの目つきが変わる。初めて目にする女神に驚いたが、それだけでなく彼女は忠告があると言う。彼女は、興味より先に畏怖の念を抱いた。

「忠告とは、何でしょうか?」

「簡単な話だ。今のお前では、試練に打ち勝つことは出来ない」

「そ、そんな事を言いにわざわざ会いに来たのですか?」

「そうだ、私は、お前に期待しているのだ。久々の女勇者なのだぞ。私と同様に強く美しく戦う女性を期待していたのに、なんだその様は。がっかりしたぞ」

「私は、自分なりに一生懸命に強くなろうとしています。何が足りないのですか」

「それは、覚悟だ! 勇者としての覚悟と決断が出来ていない」

「私は、いつでも覚悟しています。魔族を護るために、たとえ私が犠牲になってもやり遂げる覚悟が!」

「間違えるな、魔族を護る勇者が死んでしまってどうする。脅威に立ち向かっている途中で、お前が死んだら誰が戦うのだ」

「そ、それは・・・」、言葉に詰まるカレンは、唇を噛みしめる事しか出来ない。

「お前の弱さは、それだけじゃあない」、女神がカレンの眉間に指を当てると、カレンは虚ろな目になり動かなくなった。

 夢を見ている様な感覚の中で、目の前の光景が瞬く間に変化する。見知らぬ城に街並み、アテーナの記憶が作り出す幻影をカレンは見ていた。

 他人の思考が、頭の中を駆け巡る。彼女は誰かの中に入り込み、その人物の目を通して見ている。後ろから、その人物を呼び止める声が聞こえた。

「ランバラート、お願いだから止めて」

「こうするしか方法が無いのだ、あいつを倒すためには」

 ランバラートと呼ばれる魔族の青年は、目の前に立つ敵に向かって走り出す。彼は上段から聖剣を振り下ろすと、ゆっくりと時間が流れる。怒りと犠牲心を抱く彼の心情、鼻に付く焦げ臭い匂い、聖剣が目の前の敵の首筋を捕えるまで、まるで自分が本当に体験しているかの様に感じた。敵の首筋から勢いよく血が噴き出すと、胸に痛みを感じる。下を見ると、敵の剣はランバラートの胸を貫いていた。心臓に溜められていた血液が溢れ出し、喉を通って口から流れ出る感覚が死を意識させる。
 
ああ、ダメ。このままだと、彼は死んでしまう。そうカレンが思うと、場面が切り替わった。呼ばれる名前で、次は女性の中に居る事を彼女は知った。

「マリーナ、ここは俺達に任せろ。勇者の君は、早く城へ行くのだ」

「分かっているけど、これだけの人数の敵を相手に大丈夫なの?」

「俺達なら何とか出来るよ、さあ、早く行け」

 マリーナと呼ばれる彼女もカレンと同じ勇者、人々を守るために仲間と一緒に奮闘していた。しかし、戦闘が終わり仲間と別れた場所に戻った彼女は、累々と地面に転がる屍の中に仲間達の姿を見つけた。愛する人は、無残な姿で冷たくなっていた。

「ああああ、どうして、どうして・・・。私が勇者だったからなの、それならもう勇者何て出来ない」、血まみれで倒れていた男性は、彼女の恋人だった。

泣き叫ぶ勇者の心が音を立てて崩れて行くのが、カレンには聞こえる。息が止まりそうな苦しみ、心を黒く浸食する怒り、死んでしまいたいと思う絶望感、そんなマリーナの気持ちが、カレンの心にも流れ込んで来た。

 気が付くと、カレンは真っ白な空間に居た。何もないただ真っ白で明るい空間で、目の前には女神アテーナが剣を構えて立っていた。

「分かる、あなたが見たのは、全て過去の勇者が経験した事よ」

「実際に起こった事だったんだ・・・」

「彼らと同じ様な状況になった時、あなたならどうするの? ランバラートと同じ様に命を落とすの? マリーナの様に精神的なダメージを負い廃人となるの?」

「わ、私は、・・・分からない」、跪いて下を向く彼女は言葉が出なくなった。

「分かっているはずよ、今のあなたでは、必ず彼等と同じ過ちを犯す」

「そ、そんな事は無いわ。私は、勇者として魔族を・・・」

「本当に出来ると思っているの」、女神アテーナは指を鳴らした。

 魔法陣が浮かび上がり召喚されたクリスが、女神の隣に現れた。物怖じしない態度をとる彼は、正真正銘のクリスだと、カレンは思った。

「クリスもここに連れて来て、どうするつもりですか」

「お前の本当の力を教えて上げるわ」と、女神は巨大な黒剣を振り上げクリスの首を落とした。

 カレンの足元にクリスの頭が転がって来る。一瞬で頭と体を分断されたと思い、青ざめた彼女が拾い上げた頭は、人形のだった。

  全ては、幻なの? 

 女神が見せるリアルな幻は、カレンを動揺させる。物理的には強くなっていても、精神力も同じように強くなっているとは限らない。そんな彼女の弱さを改めて教えるために女神は、過去に起こった悲劇を見せた。

「勇者とは、心も強くないと駄目なのよ。どんな事が起こっても、惑わされずに乗り越える精神が必要なの。クリスと思った人形の首が飛んだ時、あなたは過去の勇者と同じ様に気持ちが挫けそうになったでしょ」

 パチンと、女神が指を鳴らした。

 深い眠りから覚めたような感覚、目の前には薄ら笑いを浮かべる女神アテーナが立っている。周りを見渡すと、元の場所に戻っていた。パチパチと薪が燃える音が聞こえ、仲間達が心配そうにカレンを見つめていた。

「どうした、カレン。大丈夫か?」、地面に座り込むカレンの肩にクリスは手を置いた。

 現実と幻の区別が出来なくなっていたカレンは、クリスに抱きつくと何度も彼の名前を呼ぶ。余程辛い思いをしたのだろうと、クリスは彼女を抱きしめた。それでも不安なのか、クリスの顔を両手で触れ本物か確認してくる。

「勇者としては、精神面が弱すぎる。そんな事では、先が思いやられるね」

「カレンに何をしたんだ?」

「ふふふ、彼女の精神力を確かめるために、色々と見せたのよ。でも、愛する人の死を見せたら、勇者より女性の心が強く出てしまった」

「なんてことをするんだ? 非現実的でも、それは酷過ぎないか」

「勇者なのよ彼女は。大勢の人を救う為に選ばれた存在なの。一人の命と大勢の命とを天秤にかけた時、彼女はどちらかを選ばないといけないのよ。もちろん、大勢の命を選ぶのが勇者だけどね。それは、彼女の幸せより、大勢の人の幸せを守る事を優先すると言う事なのよ」

「それは、女神アテーナの本心か?」

「そうよ、あら、私が間違っていると言いたいみたいね」

「間違っているね。俺なら全ての命を守る。彼女も大勢の人と同じ様に、幸せになる権利があるんだよ。勇者も含めて全ての人を守り幸せにする事が、正解だと思う」

「クリス、あなたが話している事は、理想論よ。でも、本当にそんな事が出来たら良いわね。もしかしたらあなたの協力があれば、実現しそうだけど」、他人事の様に嬉しそうに話す女神に仲間達は、不快感を覚えてしまう。

「俺は、種族に関係無く全ての人が安心して生活が出来る世界になれば良いと思う。勇者が活躍出来ない時代があっても良いんじゃないのか」

「面白い考え方ね! やって見なさいよ」

「ああ、挑戦してみるよ。それより、お前の目的は勇者をいたぶる事だったのか」

「違うわよ! それじゃあ、ここに来た目的を話すわね。ヒントを伝えに来てあげたのよ。勇者の試練は、彼女自身に打ち勝つことがテーマなの。それを踏まえて、頑張ってね」

 女神アテーナは、精神的な弱さを知ったカレンを残し消えてしまった。武の女神だけあって、自身が加護する勇者に対しては、スパルタ教育を施した。クリスの胸の中で泣き疲れて眠るカレンの涙を指で拭った彼は、良い方法は無いか模索する。勇者の試練をクリアするために、彼女自身の弱さを克服するために、必要な事は何だろうかと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...