滅んでしまった王国の元騎士は自由気ままな暮らしを満喫したい

川村直樹

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奔走 8

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 鉱山都市へと続く街道から離れた場所にポツンと大きなテーブル状の岩があった。

「へえ、あれを集合場所の目印にしたのか」

「・・・」

 何も話そうとしないシルクを連れて目印の岩に近づくと、傍には既に四人の仲間が集まっていた。身を隠す様にフードとマントを纏う彼等だが、遠目からでも全員人間族だと分かる。

 シルクが見知らぬ男を連れて来たので、警戒する四人は腰の剣を抜き身構えた。

「貴様、裏切ったのか? そいつは、誰だ」と、リーダー格の男は眉をひそめた。

「この人は・・・」と、シルクが話し出そうとした時、クリスは彼女の肩を掴んだ。

「割り込んで悪いな、お前達は此処で何をしている?」

「何も・・・、一人でのこのこやって来て俺達の邪魔をする奴は死んでもらうだけだが」

「ほお、始末した方が早いと言うのか。それじゃあ、悪い事をしている証拠だな」

「ふっ、裏切り者と一緒に直ぐ楽にしてやるよ」

 リーダー格の男は、躊躇する事無く切っ先をシルクに向けて剣を突く。

 覚悟していたのか、シルクは動かず目をつぶった・・・が、騒めく声に目を開けると剣を掴むクリスの手が目の前にあった。

 皮手袋の裂け目からポタポタと違滴り落ちる。

「馬鹿か、素手で剣を掴むとは、指を失いたいのか」

「確かに、素手で掴むもんじゃないな。痛いし・・・、でも、お前の非力な力で剣を引き抜けるのか?」

「何を!?」、掴まれた剣は微動だりしない。

 体格では同等、もしくは、それ以上だと思っていたのに掴まれた剣を引き抜く事が出来ない。歯を食いしばりながら顔に血管が浮き出るほど力を入れるが、逆に剣を奪われてしまった。

「さあ、次はどうするんだ? それと、シルク。君はこんな奴らを仲間だと信じているのか」

「同じグランベルノ王に忠誠を誓った者達です。私は・・・」、シルクは悲し気に仲間を見つめる。彼等を信じたいが、獣人族である彼女には自信が無いのだ。

「仲間だと、笑わせるな。獣人族のお前は、王に忠誠を誓ったんじゃなく居場所を恵んで貰っただけだろ。俺達、人間族と同じ身分じゃないんだよ」

「はあー、あいつ等あんな事を言ってるけど、仲間として守るのか?」

「は・・・、い、いえ・・・、もう、分かりません」

 流石はグランベルノ王国だ、人間族が一番だと言う洗脳(おしえ)に抜かりない。同じ人間族として種族に優越を付ける考えにクリスは腹立たしくなった。

 そんなやり取りをしている隙にリーダー格の男は、他の三人の仲間に目で合図を送った。

 一斉にクリスとシルクに襲い掛かって来る。

「シルク、死にたく無かったら自分の身は自分で守れ!」

 クリスはシルクにそう話すと、手にする剣を一回転させ柄を持つ。

 素早く切り込んで来る男の剣を後ろに退き避けると、すれ違いざまに男の首を落とした。

 頭を失った胴体から勢いよく血しぶきが上がる。

 それを見た仲間の男が足を止め躊躇すると、クリスは容赦なく男に目掛けて剣を投げつけた。クルクルと宙を回転しながら突き進む剣は、見事に男の胸を貫く。

 あっという間に二人の敵を倒したクリスがシルクの方を見ると、彼女は短剣で戦っていた。

 リーダー格の男が居ない。そう思ったクリスが周囲を見渡すと、仲間を見捨てて逃亡する男の背中を見つけた。

「威勢が良いのは最初だけか、残念な奴だな」

 剣を掴んで怪我をした右手が光に包まれると、流れていた血が止まる。

 首を二度三度回したクリスは、目を閉じ両手を天に掲げサーシャが使っていた上級魔法ナパームボムを思い出していた。

 創造神から与えられた力だ、思い描くだけで実現できるはず・・・。今までしっかりと力の検証をしてこなかったので、確証はないが大丈夫だ。クリスは落ち着いてゆっくり、そして大きく息を吸い込んだ。

長ったらしい詠唱は、どうせ必要ないだろう。

「くらえ、ナパームボム!」

 大声を出したのに何も起こらない。リーダー格の男が、どんどん離れて行く姿だけが見える。

 じっと手を上げて立つクリスは、出来ると信じていたのに何も起こらないじゃないかと考えると、少々恥ずかしくなってきた。

 はあー、腕を下ろしため息をついたクリスは空に小さな黒い点を見つけた。

 黒い点はもの凄いスピードで落ちて来るのか、直ぐにそれが真っ赤に燃える岩石だと気づいた。それは、火の玉の様に燃える鉄球だったサーシャのナパームボムとは別物だ。明らかに落ちて来る勢いと大きさから隕石に近い物体に見える。

「ちょっと待て、ヤバい物を出してしまったような気がする」

 地面に衝突すると同時にリーダー格の男は蒸発してしまった。

 あまりに眩しい光を放つので、クリスは腕を顔にかざした。

 大地は抉れ激しく揺れる。転ばないように足を踏ん張ると、爆音で鼓膜が破れたかと思うほど耳の奥が痛くなり爆風で吹き飛ばされそうになった。

 ああ、神の鉄槌と言いどうして力を使うと桁外れの攻撃になってしまうのだろうか。これだと力を下手に使えないじゃないかと、クリスは残念な気持ちになった。

 身を屈め爆風を耐えたクリスの後ろで、戦っていたシルクは仲間もろとも吹き飛ばされてしまった。劣勢だった彼女にとって、このクリスの引き起こした失敗は、逆転する切っ掛けとなってくれた。

 そのまま、まともに戦っていたら、彼女は確実に仲間に殺されていただろう。しかし、爆風を背中で受けたシルクは、戦う相手の懐に入る様に飛ばされ手にする短剣が相手の喉に突き刺さったのだ。

 偶然とは言え、幸運な一撃が決まった。

 何が起こったのか理解出来ず、地面に座り込むシルクは短剣を両手で握りしめていた。

「おい、大丈夫か?」

「・・・はい、自分の身は守れましたよ。それより、何をしたのですか?」

「ははは、ちょっと魔法の真似事をしたら失敗してね。気にしないでくれ」

「魔法ですか・・・、なんか凄かったですけど」と、シルクが話している途中で今度は閃光が走った。

「何だ、眩しい光が・・・」、遅れて雷撃音が轟く。

「鉱山の方で雷が落ちたようですが」

「雷・・・、サーシャの魔法か? ゴーレムと戦ってるミツヤとサーシャに何かあったかもしれない。急いで戻るぞ」

 鉱山の方に向かって走り出すと、空を覆っていた雲が消えて行く。

 無事でいてくれれば良いが、二人の事だから大丈夫だろうと思っていてもクリスは心配になった。
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