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第四章 KOD決勝ステージ編
第120話 KOD決勝ラウンド――終戦(後)
「何ていうか……ほんの数時間の出来事とは思えませんでしたね」
「は、はい……それは、もう……」
シュガァとジミ子さんが、そう困惑混じりに会話をしている。
そう感じても仕方が無いだろう。
彼女達は、それだけ濃密な時間をこのダンジョンで体験した。
日本の探索者、その王者を決める大会。
そのはずが、未曾有の大災害を起こそうとする悪意と戦うハメになったのだ。
加えて、このダンジョンで遭遇したのは、他なら下層のボスレベルに匹敵する強靱なモンスター達。
……人によっては、一生分の危機的状況を味わったにも等しいかもしれない。
「二人とも、よくここまで戦ってくれた。立派だったぞ」
そんな二人に、俺は労いの言葉を掛ける。
お世辞では無い。
この戦場を生き抜いた彼女達は、今やこの国の探索者の中でも選りすぐりの存在になったと言えるだろう。
「そんな、私なんてほとんど逃げ回ってたばかりで……大半の敵は、影狼さんやヒバナさんが倒してくれたから」
「そ、それを言うならあたしの方が……」
「二人とも、ここでネガティブな話をしていても意味は無い」
そこで、音夜さんが前に出る。
「何はともあれ、影狼のお陰で俺達もこの地獄から生き残る事ができた。そう感謝を伝えるだけでいいだろう」
「そ……そうですよ! 私もそう言いたかっただけです!」
「あ、ああ、あたしも、です!」
ズイッと、二人が音夜さんに顔を寄せて言う。
流石の音夜さんも、一歩引き下がる。
「影狼さん……本当にありがとうございました。このダンジョンの下層に送られてからも、影狼さんがきっと来てくれる。そう思っていたから、諦めずに爆弾狂魔術師や朱雀に立ち向かう事ができました」
「あ、あたしも……あたしも、です」
シュガァが俺の手を取り、熱っぽい視線を浮かべ言う。
その後ろで、ジミ子さんがあわあわと取り乱しながら自分の気持ちを告げる。
「再三になるが、ヒバナを救ってくれたこと……そして、このダンジョンの戦いを平定してくれたこと、俺からも感謝する」
音夜さんが頭を下げる。
「影狼サン。ここでは、ほとんど一緒に戦う事が叶いませんでしたが、よろしければ今度コラボ配信をしませんか。是非とも、宝箱開封配信を通じて、影狼さんに感謝の気持ちと宝箱の素晴らしさをお伝えしたいデス」
アケオさんがサラッと配信コラボを持ち掛けてきた。
この人は本当にブレないな。
『影狼さーーーーーーーーーーーん!』
『影狼! 影狼!』
そこで、その場にスピーカーを通したような大声が響き渡った。
ジミ子さんが「はわわ!」と、手にしていたスマホを取り落としそうになっている。
見ると、映っているのはカガッチの配信チャンネルの画面。
カメラの前には、ミケさんやジュラ、カガッチがいる。
『あ! やっと気付いた! 影狼さん! さっき、トーカちゃんが無事に運ばれてきました! トーカちゃんを助けてくれて、本当にありがとうございます! 蘭さんにもお伝えして下さい! あ、トーカちゃんからも感謝の言葉が――』
『影狼! 影狼! 何だか救援部隊の奴等が大会参加者は陸地に帰るよう船で送るって言ってるぞ! どうする! まだモンスターと戦うか!? なら俺もそこまで行くぞ!』
「ミケさん、こちらこそ。途中までになったけど、ダンジョン攻略を手伝ってくれてありがとう。トーカさんにも、今は安静に体を休めるよう伝えてくれ。ジュラ、モンスターとは戦わない。俺ももう帰るからお前も帰れ」
画面の中でわいわいとはしゃぐ二人に、俺は今伝えるべき言葉だけを伝える。
「カガッチ、外のメンバーは皆無事か?」
『ああ? 何で俺に聞くんだよ……』
そこで、画面の隅に映っていたカガッチに、俺は尋ねる。
『……とりあえず、最初に船でアンノウンにやられた奴等も、上層から救出された奴等も、あの緒形とかいうウザいおっさんも先に帰ってったぜ』
「そうか」
俺は、ふっと微笑む。
「ありがとう、お前にも随分助けられた」
『……何がだよ、こっちは色々頭が痛ぇんだよ』
カガッチは、若干ふて腐れ気味に言う。
『今回の配信で死ぬほど情けねぇとこ世間に見せちまったし、今までのキャラと違う事しちまったし、ヒバナはヤベぇ状態だし、事務所も大慌てだろうし……こっちはこの先の事で大変なんだよ』
キッと、カガッチは画面越しに俺を睨み付ける。
『でも、今俺が生きてるのはあんたのお陰だ。今回は素直に感謝するが、あんたみたいなおっさん、いつか必ず越えてやるから……待ってろよ、影狼』
「ああ、いつでも噛み付いてこい」
何だろうな。
こういう生意気な小僧をどこか憎めなく感じるようになったのは、俺が歳を取ったからなのかな。
いや、まだ20代半ばだけどね。
何はともあれ、カガッチの事を心のどこかで気に入っている自分に気付く。
「………」
「………」
「……うぉ」
そこで、俺は思わず声を漏らす。
いつの間にか、俺の背後に一人の人物が立っていたからだ。
ここまで、気配を読み取れなかった。
フードを被り、完全に顔を隠したその人物は、スナイパーライフルを肩に担いで立っている。
「ゴースト」
「………」
参加者の一人――《スナイパー》のゴーストは、名を呼んだ俺に黙ったまま手を差し出す。
まるで、握手を求めるように。
「……握手、でいいのか?」
「………」
俺は、その手を握り返す。
一瞬、ゴーストはペコリと頭を微妙に下げ、そのまま踵を返して去って行った。
「……何だったんだ」
今大会、様々な探索者と出会ってきたが、最後の最後まで謎のままだったな……彼(彼女?)だけ……。
「……さて」
救援部隊も、撤収の準備を開始している。
今日は、あくまでもKOD参加者の救出が目的で、ダンジョンの調査等はまた後日別件で動くのかもしれない。
俺は最後に、救援部隊の用意した簡易式の椅子に腰掛け、項垂れている白衣の青年へと歩み寄る。
「よく頑張ってくれたな、蘭」
「……影、狼」
蘭は、満身創痍といった表情で俺を見上げた。
その顔を見れば、彼のスキル【治療室】がどれだけのエネルギーを消耗するのか簡単にわかった。
「情けない……影狼に褒められているというのに……思考が覚束ず……まともに返事も……」
「それだけ、お前はよくやってくれたということだ」
俺は、蘭に手を差し出す。
「歩けるか?」
「……申し訳ありません」
「いい。気にするな」
俺は、蘭を背負い上げる。
「………」
「このまま上まで行く。今は、体も頭も休めろ」
背中越し――蘭の体から力が抜けていくのが分かる。
やがて静かに寝息を立て始める寸前、囁くような声が聞こえた、気がした。
「影狼……俺の……ヒーロー」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
こうして、日本は救われた。
King of Dungeon Explorer――KOD、第三回大会。
その決勝ラウンドは中止という形になり――残念ながら、それ以降の続報は未だ公式から発表されていない。
しかし、ネット上のダンジョン探索者界隈を初めとして、国内外を問わず多くの人々の間では、今大会の結論は満場一致で決定していた。
世界最速レベルのスピードで、SSS難易度ダンジョンを踏破し、日本を崩壊の危機から救った英雄。
王者は――影狼だと。
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