聖女様、闇ギルドへようこそ!

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●三十一話 デート?

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 等級試験を終えて二日後。

 昼下がりの、《漆黒の森》アイゼン・ヴァルト本部にて。

 ヴァルタイルを前に、メイ・シープスが言った。


「ヴァルタイルさん……今からデートしませんか!?」

「……あ? 遂にイカレたのか、お前」



 ――時間は数時間前に遡る。



   ■□■□■□■□



「いやぁ、メイちゃんも十四等級か。いきなりの大昇進だね」


 朝食の時間が終わり、後片付けをしているメイとリサ。

 食器を洗い、洗った先から布巾をかけ、棚に整理していく。

 そんな中、バーカウンターに座り、コーヒーを飲んで一服しているヴィーが、メイへと言った。


「えへへ……なんだか、自分でもまだ自覚が無いです」


 メイの首からかけられた、冒険者を表すタグ。

 冒険者協会の作成した、正式な刻印と《魔法》効果のかけられた、金属製のプレートには、きっちりとメイ・シープスの名前と、十四の位を表す表示が刻まれている。


「なんだか、冒険者として一歩を踏み出した、って感じがします」


 憧れていた存在に。

 目指すべき存在に。

 近付けた、という印。


「これも全部……ヴァルタイルさんのおかげです」

「ん? それってどういう?」


 頬を赤らめるメイに、ヴィーがニヤニヤと問い掛ける。


「あ、いえ!? 別に、あの、その」


 ヴァルタイルが不死鳥であると言う事実は、内緒である。

 メイは慌てて両手を左右に振る。


「あ、ここ数日、私の《魔法》の練習を見てくれていたんです!」

「ああ、そう言えば夜中に二人揃ってどこかに出かけてるとは知ってたけど、そんな事してたんだ。俺はてっきり――……」

「?」

「っと、純粋なメイちゃんに心の汚れた俺の妄想を聞かせるわけにはいかないな」


 ゴホン――と、咳を挟んだヴィーは、そこで、何かを思い付いたように言う。


「そうだ、メイちゃん。じゃあ、そのヴァルタイルに対するお礼にさ――あいつを、デートにでも誘ってみたら?」

「…………で」


 スルン――と、メイの手元から皿が滑り落ちる。

 リサがすかさず、それをキャッチした。


「ででででででででで、デートですか!? え、あの、私、生まれてから一度もそんな男の人と……」

「落ち着いて落ち着いて、いや、せっかく二人揃って等級も手に入ったんだしさ、色々とその効力を学んで来るのも必要だと思うし」


 慌てふためくメイに、ヴィーが説明する。


「冒険者にとって等級は、何も実力や貢献度の目安だけじゃない。等級が上がれば、それ相応の利益も色々と手に入るんだ。例えば、協会の息のかかった武器屋や道具屋で、アイテムを値引きして提供してくれたり」

「へぇー」

「後は、冒険者案内ギルドとか各支部で、重要な情報を閲覧できる権限も手に入るしね。ともかく、今まで以上に色々とできるって事」

「………」


 メイは、自身の服装……エプロンの下に纏った、《聖女》の修道服を確かめる。

 毎日、丁寧に手入れはしているが……流石に、修道院時代から使い続けてきたものだ。

 ところどころボロが出て来ている。


「前にも言ったけど、メイちゃんとヴァルタイルには今後、重要な任務を任せる事もある。だから今の内に、身形やら何やら、用意できるものは用意してきてもらった方が良いからさ」

「なるほど」

「なんなら、今日くらいは昼から休んでいいからさ、ちょっと見て回ってくれば?」

「え!? いいんですか?」


 ヴィーの提案に、メイは驚く。


「いいっていいって、メイちゃん目当てのうちのメンバー達や冒険者達には適当に言っとくからさ」



   ■□■□■□■□



 ――時間は戻る。


「というわけで……一緒に行きませんか、ヴァルタイルさん」


 もじもじと、上目遣いで、メイはヴァルタイルに問い掛ける。

 デートのお誘い……などというものではないが、ヴィーにそう言われてしまったがために、妙に意識してしまう。

 何分、メイ自身、自分から男性を誘うなど初めての事。


「あ、あの、べ、別に嫌であれば、無理矢理にとか、そういうのじゃなくて、あ、あ、やっぱりダメですよね! めんどくさいですよね! ごめんなさい、私の如きがお誘いなんて!」

「……どっちなんだよ、行きてぇのか、行きたくねぇのか」


 溜息を吐く、ヴァルタイルは――そこで。


「……リサ?」


 カウンターの影からこちらを見ている、リサの存在に気付く。


「………」


 リサは静かに、何かを訴えるようにヴァルタイルを見ている。


「……? ……」


 ヴァルタイルは少し考えて……。


「リサも、一緒に行きたいのか?」


 と、そう問い掛ける。


「んーんー!」


 しかし、リサはその問い掛けに、首を横に振るう。


「あー……」

「おとうさん、わたし、おるすばん、できるよ」


 そう、両目をキッと強めて、ヴァルタイルを見るリサ。


「………」


 リサの意図がわかったのだろう。

 ヴァルタイルは、髪を掻く。


「わかった……行くか」

「え? あ、ありがとうございます!」


 ヴァルタイルの返答に、メイはペコリと頭を下げる。

 そして、リサの方を見る。


「リサちゃん……ありがとう」


 そう呟くと、リサはにこりと笑って、グッと親指を立てた。

 いつの間にかリサも、結構逞しくなっていた。


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感想 4

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みんなの感想(4件)

ねむちゃん
2019.08.03 ねむちゃん

とっても面白かったです。続きは、ありますか?楽しみにしてます。

解除
えれな
2019.08.02 えれな

闇ギルド更新はもうないのかな……( ;∀;)

解除
a.i
2018.03.11 a.i

主人公、頑張れ!
他の世界には、丸太で戦う聖女もいるので、こだわらなければ器用貧乏でいけるはず!

解除

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