白狼は森で恋を知る

かてきん

文字の大きさ
63 / 77
第3章 白狼と最愛の人

7

しおりを挟む
両家に挨拶はしたものの、なかなかサバル国王からの連絡は無い。そしてミア自身、父であり国王であるアイバンが忙しくしており会えない為、会議の進捗を聞くことができずにいた。
結婚できるのか不安に思いながらも、ミアが頻繁にガイアスの屋敷を訪れ、一緒に過ごす時間が増えたことで、2人は今しかない婚約期間を満喫していた。


それからしばらくして、サバル国王に城へ呼ばれたガイアスとミアは、謁見の間ではなく別の豪華な部屋へ
通された。外交などで使うその部屋は、以前サバルの王とアイバンが飲んでいたアットホームな空間とは違い、豪華絢爛といった様子だ。

「2人ともよく来た。」

王に礼をする2人だが、横にはアイバンが座っており、ミアが久々に見る父に声を掛ける。

「父上、なんでここに?」
「ミア久しいな。」

「2人に知らせがあってな。」と言うアイバンに、ミアは期待の目を向ける。隣のガイアスは少し緊張した様子で、手を握りこんでいる。

「お前達の結婚についてだが、おそらく半年後にはできるだろう。」

その言葉に2人して顔を見合わせる。
アイバンは最近、連夜サバル国王と会議を重ね、王宮内でも話し合いを行っていた。そして両国ともに、同性の狼と人間が結婚するにあたっての法を新しく定めたという。

サバル国王も尽力してくれたようで、昨日の最終会議で決まった内容は、ガイアスが提示した案とほぼ変わらないものだった。そして、反発してくる者に関しては、ガイアスが遠征の褒美を使ったことを告げると、黙り込んだと言う。

ミアは話には聞いていた褒美がどれだけの効力を持っているのかを初めて知ったとともに、そんな大切なものを自分との為に使ってくれたことに嬉しくなった。

(てか、その遠征ってどんだけ辛いんだろ…)


ミアとガイアスの場合は子どももできないため、国籍が別でも問題ないだろうと落ち着き、また勤務にさしつかえがなければどちらの国に住んでもよいということに。その新しい法は年をまたいで発表するとのことで、その後であればすぐにでも結婚できるとのことだった。

王達の言葉に目を輝かせるミアと、横で嬉しそうに微笑むガイアス。そんな2人にアイバンは「今から2人は忙しくなるぞ。」と口の端を上げて笑う。

「シーバでミアの結婚のお披露目式をするからな。」
「え。」

お披露目式という言葉に、ミアが「げっ、」と顔を歪ませる。王族としてお披露目くらいはすると考えていたが、大々的な式にしようとしている父に、嫌な予感がした。

「新しい法を知らしめる良い機会にもなる。お祝いで王宮を開ければ、国民も喜ぶだろう。」

うんうんと頷いているアイバンに、また準備の日々が始まることを理解し項垂れるミア。しかし、隣のガイアスは頬を少し上気させて「はい。」と返事をしている。

嬉しそうなガイアスに、自分も結婚できることの幸せをじわじわ感じ出したミアは、父とサバルの王に改めて礼を言った。





・・・・・

「ガイアスから呼び出したぁ、珍しいな。」
「さぞかしびっくりすること言ってくれるんだろうな。」

今日もワイワイと勝手に盛り上がっている自衛隊の剣舞のメンバー。
本当に忙しい人達であるにも関わらず、「お伝えすることがある」とのガイアスの一言に、仕事の定時ぴったりに自衛隊の各部署から続々とガイアスの執務室へ集まった。

ミアの誕生日のお披露目式後、2人の関係について聞くために集合していた隊員達は、また今回も誰一人欠けることなくガイアスの元へ集まった。

今日は定時を過ぎると、この部屋には誰も入らないよう連絡をしている。なぜか部屋にいるマックスとケニーは無視し、ガイアスはここで結婚することを知らせようとしていた。

前回呼び出された時、進展があった時は必ず知らせろと約束させられていたガイアスは、少し面倒だと思いながらも、あの後どこにもミアと自分の関係について漏らさなかったメンバーには感謝していた。

口が堅く信用できるこの人達の頼みとあれば伝えないわけにはいかないだろうと、今日声を掛けたのだ。

(まさか全員来るとは思わなかったが。)

自衛隊の中でも特別忙しい人材を前に、早めに要件を言おうとガイアスが口を開く。

「大事にしてしまってすみません。今回、ミアと婚約しましたので報告を…」

ガイアスの話の途中で「本当か?!」と声を出した第4隊隊長。その声に続いて他のメンバーも大きな声で驚きの声を上げる。
その後も結婚はいつかと聞いてくるメンバーに「決まっていません」と告げたガイアスは、式については言って良いとアイバンから許可を得ていた為、シーバ国でのみすることを伝えた。
それと共にサバル国で式や披露宴をする予定は無いと言うと、全員からブーイングが起こった。

「せめて俺達には祝わせてくれよ。」

そう言って肩を組んでくる隊長に、皆が頷いて賛成する。弟のようなガイアスを祝いたいと口では言っている隊員達だったが、ガイアスにはその魂胆が見えている。

(ミアに会いたいだけだろ…)

ガイアスは騒ぎ続ける隊員達に、仕方なく「分かりました」と祝いの席への参加を約束をさせられた。





・・・・・

「何か食べるか?」
「うーん、フルーツが入ったのがいいな。」

「そうだな…」と言って2つを指差して説明する。
ミアとガイアスは街のカフェに来ている。店の前を通った時に、ガイアスが学生時代に通っていた店であることを伝えると、入ってみようということになったのだ。

「ミアが好きそうなのは…これかこれだな。」

ミアの好みをばっちり把握しているガイアスは、クリームとフルーツを薄い生地で包んだものと、フルーツケーキを指さした。メニューをパラパラとめくり、「他は酸味のあるフルーツが入っているからミアは無理だろう」と付け加える。
2つとも魅力的で味が気になるところだが、ミアは悩んだ結果、1つに絞った。

「じゃあ、このケーキにする。」
「俺はこっちにしよう。食べるだろ?」

選ばなかった方を指差して尋ねるガイアスのさりげない優しさに、ミアは胸がキュンとする。
「食べたい、ありがと。」と言って手を握ると、ガイアスは微笑んでミアの手の甲を指で撫でた。



スイーツとお茶で満たされた2人は、先程立ち寄った店で購入した品について話す。

「本当に新しく買わなくて良かったのか?」
「うん、俺この指輪が好きだから。」

ミアが緑の石が嵌った指輪を撫でると、「そうか、」と目を細くしたガイアス。

今日のお出かけの目的は、出来上がったガイアスの指輪を取りに行くことだった。結婚となれば揃いの指輪を…と言い出したガイアスに、現在自分が付けているものと全く同じデザインのものをガイアス用に作って欲しいとお願いしたミア。
初めての贈り物を大事にしてくれるミアに心が温まるが、男としては少し申し訳ないような気持ちだった。

「お店で見た時、すっごく綺麗だったね。」
「ああ、すぐに着けたい。」

注文をして数日後、出来上がったと連絡があり2人で宝石店へと受け取りに行った。
そこで要望通りキラキラと光るはちみつ色の指輪を見て、ガイアスは嬉しそうな顔で「ミアの瞳と同じだな。」と見比べた。

ミアのものと同様、お互いの瞳の色を入れたその指輪は「俺のものだ」と主張できる唯一の物であり、それを思うとミアは顔が熱くなる。

「今つけてもいいか?」
「え、うん!」

少し照れ臭そうに言うガイアス。待ちきれないといった様子が可愛くて、ミアは口元が緩んだ。

「じゃあ、俺が付けてあげるね。」

袋から指輪を出し箱を開けると、小さい金色の石が嵌る指輪。それを落とさないように恐る恐る持ってガイアスの手を取ると、スッと指にはめた。

「ふふ、これでお揃いだね。」
「いいな。」

ガイアスが自分の指についた指輪を見ながら呟く。その時、ミアの近くに座っていたご老人夫妻が控えめに拍手をした。その音に「なんだなんだ」と周りを見渡した客も、ミアとガイアスの席を見て指輪の箱に気づくと、同じように拍手を送ってくる。

あっという間に拍手に囲まれ、「おめでとう~」と周りから声を掛けられる。突然のことにミアは顔を真っ赤にして「あ、」と口をぱくぱくさせており、どうしていいか分からないようだ。
ガイアスはおじぎを一つすると立ち上がり、ミアの手を引いてそそくさと店を後にした。

店から出ると、顔を真っ赤にしたミアが「びっくりした…」とガイアスを見る。「俺もだ。」と返事をすると顔を見合わせた2人は、どちらともなく笑いが零れてきた。

2人は手を繋いだまま、笑い合って街を歩いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...