【改訂版】鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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第23話 教えて欲しいと言われたので

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 シバの部屋に帰ってきた俺達は、一緒に晩御飯を作っていた。
「これでいいか?」
「はい、完璧です。あとはこのソースを掛けるだけですよ」
「美味しそうだ」
 完璧なチキン南蛮が出来上がり俺は大満足だ。そして同時に作っていたサラダとスープもよそって二人で席に着く。早速シバが箸で上品に料理を取り分けていき、俺はその手つきを見届けて「いただきます」と手を合わせた。
「美味しい」
 口に運んだシバが感想を述べ、俺も一口食べてその出来に頷いた。
「これでアインラス様も作れるようになりましたね」
「ああ。この味が家で食べれるなら外食は必要ない」
 シバの食べっぷりが気持ち良く、俺は嬉しくなって頬が緩んだ。

「全部食べてしまった」
 シバが少し悲しげな声で言う。
「明日の分、残そうと思ってたんですか?」
「そのつもりだったんだが」
 シバは空になった皿を見ている。
「また作ったらいいですよ。それに、明日は明日で新しい料理を作ります」
「楽しみだ」
 シバは若干、口角を上げている……ような気がした。

 二人で皿を片付けた後、今日買ったお茶を淹れようということになった。
「恋茶。効能は『大胆になれる』『相手の好意に気付きやすくなる』など。本当ですかね?」
「試してみるといい」
 シバがお湯を注ぎ、良い香りが漂ってくる。
 それをカップに注ぐと俺達は暖炉の前に移動した。
「先に飲んでみて下さい」
「いや、君から飲んだらどうだ」
 軽く言い合った後、結局買ってもらった俺が先に飲むことになった。
「あ、美味しい。リラックスするお茶に似てますよ」
「『大胆になれる』というのも、そういう意味かもしれないな」
 毒見の俺が何ともなかったのを見て、シバがそれに口を付ける。
「あの、本はどうします?」
「ここにある」
 暖炉の近くの本棚から四冊取って持ってきたシバ。俺はとりあえず……と、前の本の続きから読むことにした。
「前と一緒でいい。私は横から見る」
「じゃあ、ここから開きますよ」
俺は『アプローチ編』のページをめくった。

≪さっそくアプローチしてみよう!≫
・相手の好きなものを知ろう
・さりげないボディータッチ
・とにかく褒めよう

 初心者はこの三つさえ押さえておけば良いらしい。
(うーん、この章は詳しく見なくていいな)
 アックスの好きなものは既に知っているし、狙ってはいないがボディータッチも時々している……つもりだ。 そしてアックスは素晴らしい人間なので、無理をせずとも褒めるところはたくさんある。
 俺がパラッと次のページに行こうとした時、シバが声を掛けてきた。
「これを実践してみたいんだが」
 その指はしっかりと『さりげないボディータッチ』を指していた。
「あの、これ意味分かってますか?」
「ああ。だが、どうやってしたらいい?」
(絶対分かってない!)
 恋愛面に関しては、シバより俺の方が若干知識があることに気付いてしまった。真剣な顔のシバに、俺は先輩(?)としてやり方を教えてあげることにした。
「これは、例えばこうやって座ってる時に、足に手を置いたりするんです」
 俺は自分の手を胡坐をかいて座っているシバの太ももに置いた。
「……」
「こんな感じです」
 シバが触れている部分を凝視し、俺はパッと手を退ける。
「他はあるか?」
「えっとぉ」
(俺も初心者なんだから分かんないよ! でもゲームの主人公だったら、頭を肩に預けてみたりとか? 急にするには結構ハードルが高いな)
 俺が、次のスキンシップを考えていると――…
 ドン……ッ
 大きな音がして肩が跳ねる。シバも少し驚いたのか、窓に目を向けている。
 俺は、ラルクと父との会話を思い出し「ああ!」と声を出した。
「今日、街で花火が上がるって聞きました」
「今日だったか。忘れていた」
(ん、なんか落ち込んでる? 行きたかったのかな)
「アインラス様、見たかったんですか?」
「君はどうだ?」
 花火はあちらの世界で見る機会が多く、珍しいものではない。今日も父とラルクと行けば楽しかっただろうが、シバとの約束を断ってまで見たいとは思わなかった。
「私は大丈夫です」
「そうか。私は少し、残念に思う」
「先に言えば良かったですね」
 シバがこういうものに興味があるとは知らなかった。
(でも花火って綺麗だし、いくつになってもワクワクするもんね)
 俺が納得してうんうんと心の中で同意していると、シバがボソッと呟く。
「君と見たら、楽しかっただろうと思った」
「あ、そ、それは、」
 シバの言葉に驚く。最近いろいろ言葉にして俺に感情を伝えてくるシバ。出会った頃に比べれば嬉しい変化だが、言葉がストレートすぎて恥ずかしくなってくる。
(この性格がバレたら女子達が放っておかないぞ)
「次に花火が上がる時はお誘いします」
「俺も気を付けておこう」
 シバは残念そうな顔から、いつもの表情に戻った。
「アインラス様、例えば一緒に花火を見ているとしたら」
 俺がシバの横に並ぶように座る。距離が少しあったので近寄り、シバの腕に頭をくっつける。
「こうやって、頭をもたれさせるのも良いみたいですよ」
「……」
シバは黙っている。俺はどうしたんだと見上げるが、そっぽを向いていてその表情は分からない。
「これは、その……効果がありそうだ」
「そうですか? 手とかも触れば完璧です」
 俺は足の上に置かれている大きな手に自分の手を重ねた。シバはピクッと少し反応したが、特に感想はない。
「どうですか?」
「……覚えるので、少しこのままでいいか」
(おー、学んでる学んでる)
 俺のテクニックはゲームで攻略キャラ達がやっていたものだが、シバにも伝授できそうだ。
(尊敬される凄い上司に俺が教えられることがあるって、少し良い気分だ)
 俺は上機嫌で手を繋いだまま、暖炉の灯りを見ていた。

 あれから、二人で黙って座っていたのだが、俺が「覚えました?」と聞きシバが頷いたことで手を離した。腕にもたれかかっていた頭も戻し、距離を少し置く。
 シバはこっちを見降ろし、じっと俺の目を見た後で口を開く。
「君はこの本を読む必要があるのか?」
「ありますよ! 俺まだまだ初心者なので。でも、アインラス様よりは知識があるかもしれないです」
 俺が冗談っぽく言うと、シバがそれに反応した。
「私にいろいろ教えてくれないか?」
「あの、冗談で言っただけで、私もそんなには、」
「一緒に学んだらいい。だが、私が知らない部分は君に習おう……今日のように」
 断る理由も見当たらず、俺は首を縦に振った。

 花火の音が聞こえなくなり、シバはそろそろ寝る準備をしようと立ち上がった。
 交代で風呂に入り、部屋着に着替える。
 湯上りに出された冷たいお茶を飲むと、身体の火照りが治まってきて心地よい。
「ありがとうございます。今日買ったお茶ですか?」
「よく分かったな」
 言い当てた俺が喜んでいると、シバがベッドを指差した。
「君はベッドを使うといい」
「アインラス様はどこで寝るんですか?」
「布団を敷いた」
「あの……小さくないですか?」
「現物を見ずに買ってしまったんだ」
 俺はベッドの近くに敷いてある布団の小ささに、思わずツッコんでしまった。俺ならまだしも、シバであれば絶対に足が出てしまう。
「あの、私が布団で寝ます」
「客人を床で寝かせるわけにはいかない」
「いや、私は平気なので」
「気にしないでくれ」
 そう言って布団に入っていくシバを見下ろす。
 案の定、足が出てしまったが、俺にツッコまれないように折りたたんだ。
「アインラス様、無理があると思います」
「……」
(頑固だな! まったく)
 俺は広いベッドを指差して提案する。
「それなら、一緒に寝ればいいんじゃないですか?」
シバは少し考えた後、布団を捲って立ち上がる。
「君はいいのか?」
「私は別に。このベッド、もの凄く大きいですし」
 ベッドを改めて見る。俺の部屋にあるシングルベッドと違って、シバのものはかなり大きく、クイーンサイズはあるんじゃないだろうか。二人で寝ても十分な広さだ。
「では、そうしよう」
 シバはベッドに入り、布団の端を捲ると「どうぞ」といった風に俺のスペースを空けた。
 そろりとベッドへ上がる。ふかふかで触りの良い布団は、俺の部屋のものとは大違いだ。俺がベストポジションを探して動いていると、シバが急に謝ってきた。
「すまない。私の手違いでこんなことに」
「いえ。あの、布団新しいみたいですが、買ったんですか?」
「君が泊まることになってから電話で購入したんだが、まだ広げたことがなかった。あんなに小さいとは」
 若干落ち込むシバに、俺は励ますように言う。
「二人で寝た方が暖かいですよ。今日は夜冷えるみたいだし、ちょうど良かったです」
「では、もう少しこっちに寄れ」
 シバが布団の中で俺の腕を掴んで優しく引き寄せる。俺は素直にそれに従ったが、近すぎて少し緊張した。
(シバって体温高いな)
 俺が熱を確かめようと、その胸に手を当てると身体がピクッと動いた。
「本にあったことを実践してるのか?」
「あ、そんなつもりじゃ、」
「では、あのお茶のせいかもな」
(恋茶の『大胆になれる』効能が効いてるのかな)
 たしかに上司の身体を急に触るなんて部下には大胆な行為だ。
「そうかもしれないです」
「そうか」
 シバはそれ以上喋らず、俺は急に眠気に襲われた。完全に意識を失う前に「おやすみなさい」と言って、俺は夢の中へ旅立った。
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