【改訂版】鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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第78話 緊急イベント発生!

「ん~、これどうしたらいいんだ」
「アインラス様がいたら、すぐに相談できるのに」
「といっても、他国の文官棟に電話するわけにはいきませんしね」
 朝の文官棟財政班の部屋では、俺と先輩二人が騎士棟から預かった書類とにらめっこしていた。
 シバと連絡が取れるようになってからさらに数日が経ち、文官達は上司であるシバがもうすぐ帰ってくることを心から喜んでいた。とはいっても、それはまだ何日も先の話であり、日頃はシバに助言を求める仕事も、今は他の者で解決しなければならない。
 そして今、どう考えても規模と金額の合わない表を、半ば諦めつつ三人で眺めていた。
「訓練所の一部工事をこの予算でって不可能だろ」
「一旦事務室の奴呼ぶか。セラ、友達に電話して聞いてみてくれよ。もしかしたら数字が間違ってるだけかもしれないし」
 先輩二人は並んだ数字をもう一度確認して、はぁ~と溜息をついた。
「オリア今いるかな? 聞いてみますね」
 俺は先輩がうつ伏せで下敷きにしている書類を抜き取ると、確認のために壁にある電話の方へ向かった。

 コンコン……
「マニエラはいるかい?」
「はい!」
 電話を掛ける直前に入って来たのは文官長のマクゼン・ダラインであり、うつ伏せていた先輩達はピシッと背筋を伸ばす。
「「ダライン様! おはようございます!」」
 綺麗な角度でお辞儀をする二人に、文官長は軽く手を上げる。
「マニエラを少し借りていいか?」
(え、俺に用事?)
「はい! どうとでも使ってやって下さい!」
「何時間でも、何日でも!」
 勝手にそう言って俺を差し出す先輩達に、なんなんだ……と思いつつ、俺は扉から出ていく文官長の後を歩いた。

 数えるほどしか入ったことのない文官長の執務室は、シバと同じく整理整頓されており気持ちが良い空間だ。
 文官長は自分の席に腰掛けると、にっこりとした顔で俺に近況を聞いてきた。
「マニエラ、仕事はどうだ?」
「はい。もうすぐ一年になりますし、財政班の作業に関しては一通り経験させていただきました」
「そうかそうか。シバも君の事を気に入っているようだし、優秀だとよく聞いているよ」
「アインラス様にご指導いただいている賜物です」
 文官長からの言葉に、嬉しくて頬が緩む。
 アックスに文官棟に来てもらおうと頑張ってきた仕事だが、気付けば自分のやりがいになっていた。そして、それが評価されたとなると何とも言えない喜びを感じる。
 文官長はゴホンと咳ばらいをし、立っている俺を少し見上げた。
「それで本題なんだが、君に特別な仕事というか、お願いがあるんだが聞いてくれるかね?」
(特別なお願い? しかも先に用件を言わずに言質を取ろうとする感じが怪しい)
 文官長相手にそう思う事自体間違いだが、申し訳なさそうに顎をさする姿を見ると、どうにも変なお願いをされるのではないかと身構えてしまう。
「はい。受けるつもりですが、先に内容をお聞きしても?」
「ああ、そうだな。座りなさい」
 文官長は俺が先に「受ける」と言ったことでホッとした顔になる。そのまま、向かい合う形で近くにある椅子に座った。
「実は、君に城の者の婚約相手を演じてもらいたいんだよ」
「婚約相手?」
 突然出てきたワードに、俺の頭は思考を止めた。

 それから文官長の説明を聞き、俺は頭が痛くなった。
(これ、ウォルのイベントじゃん。なんでだよ)
 今、文官長から頼まれた婚約者のうんぬんは、本来であれば攻略キャラの一人である王の側近ウォル・レイブンのルートで起こるイベントだ。
 前回この城を訪れた俺様アラブ王子ゼルは、自分を接待したウォルを大変気に入り、妹の結婚相手として国に来るよう命じたのだ。もちろんそれに従う義務はない。しかし同盟を組んだばかりであり、ここは穏便に回避したいとのことだった。
(そこで出た案が、婚約者がいるという嘘をつくってこと……?)
 ウォルのストーリーは一応動画サイトで全て見たものの、話題のゲームがどんなものかとチェックした程度であり、はっきりは思い出せない。
 曖昧な記憶が確かであれば、その妹自らがこの城を訪れた時にウォルに一目惚れして……という流れだったように思う。しかし、動画を見たのはずいぶん前であり定かではない。
(もしかしたら、アックスルートに入ってから起こったイベントだから、ちょっと話が違ってるのかな。というか、ゲームに出てきたウォルルートの当て馬の王女様は、ゼルの妹だったのか)
「レイブンは陛下の右腕と言って良い。この国を出ていかれては困ることも多いので、なんとか断りたいんだが、あっちも引かなくてな」
(ゼル、結構強引な性格だからなぁ)
 強引に十四番目の奥さんにされそうになった事を思い出す。ぐいぐいと勝手に話を進め、気付いたらベッドの上で犯される一歩手前だった。
(本当、エヴァンが薬を盛ってくれなかったらどうなってたことか)
 恐ろしい記憶が蘇り、俺は肩をぶるっと震わせた。
「今回、レイブンが会議でマニエラの名前を挙げたのでな。すまないが、ほぼ決定事項なんだよ」
「そ、そうでしたか。しかしなぜ私が?」
 この事実はゲームと同じで知っているのだが、主人公の場合は既にウォルのルートに入っており彼との親交が深い。反対に俺は最初に城の庭で話し、あとは食堂で何回か顔を見た程度だ。
「理由は知らんが、君の存在は広く知られていないので、いくらでも誤魔化せると言っていた」
「お手伝いですしね」
「レイブンは色んな理由を付けて向こうへ断りの返事を出していた。子どもを望まないので結婚は男とすると決めていることや、結婚後は相手をレイブンの姓にするという家の決まりがあるので、身分が自分より低くなければいけない……とかだな」
 ウォルも断る為にずいぶん苦労しているようだ。
「すまないが、六日後にあちらの使者が来るので、それまでにレイブンと口裏を合わせておいてくれ。身分や仕事に関しては偽る必要はない」
「分かりました」
「ただ、お互いに愛し合っており、決して離れることはできないのだと使者に証明してくれればいい」
(や、やっぱりそうなるのか……)
 ゲームの中で主人公がやっていた、使者達の前でのイチャイチャを俺がするのかと思うと気分が滅入る。そして、文官長はゲーム内でも言っていた台詞でこの話を締めくくった。
「今回の件は内密にな。誰にも話してはいかんぞ」
 俺は力なく「はい」と返事をし、文官長はさっそく明日からの予定を俺に伝えた。
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