【改訂版】鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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第79話 婚約者に求めることは

 暖かい陽気が心地よい。空は雲ひとつなく晴れており、長かった冬がようやく終わろうとしているのだと感じる。
 しかし天気の良い日には、憂鬱な事が起こることが多い。
(エヴァンのお供をしろって言われた時も快晴だったしなぁ……)
 俺は夕方必要になるであろうコートを腕に掛けると城の中へ入った。
 文官長に伝えられた部屋を目指して城内を歩く。
 迷わず辿り着けるか少しだけ不安に思っていたが、医務室横の階段を上がってすぐだと聞き、広い廊下をスイスイ進んでいく。
 今から始まる地獄の時間を恐れながら、俺はウォルの待つ応接室までやってきた。
「失礼します」
「入れ」
 冷たい声に、扉を開けて一礼する。顔を上げるとウォルが腕を組んで椅子に座っていた。
「おはようございます。文官棟から来ました、セラ・マニエラです」
「こっちに座れ」
「はい」
 指を指された椅子に座ると、目の前のウォルと目が合った。
「久しいな。覚えているか?」
「はい、レイブン様。お庭で一度お話させていただきました」
「堅い言葉遣いはよせ。これから婚約者同士だ。敬語も必要最低限でいい」
「はい」
(とにかく五日後に完璧に婚約者を演じきって、さっさとこの変な状況を終わらせないと)
 そのためにはウォルの言う通りにしたほうがいいと思い、彼の言葉に全て従うことにした。
 目の前のウォルは、指を組んでその上に顎を乗せると、挨拶もそこそこに本題に入った。
「話はダライン様に聞いたな? さっそくだが、明日から俺の婚約者として過ごしてもらう」
「はい。あの、具体的にはどんなことをしたら良いんですか?」
「俺は勤務時間は基本的に陛下の側にいる。なので、夕食から君と過ごそうと考えている。夕食時に、五日後に使者が来た時に話す内容などを決めよう」
「分かりました」
(じゃあ普通に仕事はしていいのか。今日は初日だからここに呼ばれただけか)
「仕事終わりの時間にこの部屋に来い。その後は俺の組んだスケジュールで動くように」
「はい」
(ここに来るまでは何するか分かんないのか。シバの電話、また出れないかもしれないな)
 また声が聞けない日々がやってくるのかと、さらに気が滅入る。
「お前は良かったのか? ほぼ決定していたとはいえ、ダライン様から戸惑う様子が無かったと聞いたが」
(そりゃ、ゲームで見たことあるイベントだからね)
「文官長直々に言われては断れませんし、時間外の手当も出るので大丈夫です。仕事なのできちんと最後までやります」
「お前……」
 ウォルが黙ってしまった。
(あ、しまった。堅苦しくなるなって言われたから……つい本音が)
 まずかったかと思い、取り繕おうとしているとウォルが肩を震わせていた。
「お前、やっぱり面白いな」
 ウォルはそう言って笑っていた。
(げ、別の意味でやばいかも……)
 日頃アックス攻略のことばかり考えていたせいか、他の攻略者達へ効果的な好感度アップ行動をすっかり忘れていた。
(確かウォルへは生意気な態度がウケるんだった)
 このイベントに関してはなんとなく覚えているので、会話選択でも困らないだろう。しかし、アックスルートの最終段階に入っている俺はそれを気にする必要はない。
 誰かのルートでイベント④までやりきれば、他の攻略者達との会話で間違った選択をしても大丈夫なのだ。
(だから、俺がもしウォルを怒らせたとしても、彼に嫌われたとしても、俺と父さんが酷い目に合う事はないんだ)
 今回はできればやりたくないイベントではあったが、別に嫌われても問題ないと分かっているのでリラックスしてウォルと会話をすることができる。
 つい気を抜きすぎて生意気な態度になってしまうことの方が問題だ。
(とにかく、普通に普通に)
「では、今日の夕方から頼むぞ」
 笑っていたウォルは、そう言って俺に握手を求めてきた。俺はしっかりウォルと手を合わせてから部屋を後にした。

「セラ~、昨日はどうしたんだ? 朝来てなかったから心配したぞ~」
 話が終わって文官棟へ戻ると、昨日一緒に仕事をしていた先輩が後ろから俺の肩を抱いた。
「何日でも何時間でもって、俺を差し出したじゃないですか」
「ごめんって~」
 心配しているなんて嘘だろうと俺が拗ねていると、先輩が俺の頭をぐりぐり撫でてきた。
「いや~、あれからセラが帰ってこないから結局俺が事務室に電話掛けたんだよ。そしたらセラの友達がすぐに来てくれたんだ。あいつ、凄いな」
 オリアはすぐに書類の説明をし、他の資料を持ってくると騎士棟の訓練所の修理箇所を丁寧に説明したらしい。結局数字の間違いではなかったらしい。オリアが来てからは話がトントンと進み、今日は別の先輩が下見に行っているとのことだった。
「あと、セラがいつもお世話になっています! って言ってたぞ」
「え! 何それ」
(恥ずかしいこと言うなよ~)
 すっかりお兄ちゃんモードなオリアの行動に、俺の頬はじんわりと赤くなった。

「マニエラです。失礼します」
 夕方、約束していた通りに城にウォルを迎えに行くと、彼は朝と同様椅子に座って俺を待っていた。
「レイブン様、お待たせしました」
「行くぞ」
 どこに行く気かは知らないが、夕食を一緒に取るということだけは分かっている。俺は何も聞かずに彼の後ろを付いて歩いた。
「ここで夕食を取る」
 ウォルが連れてきたのは城の地下にある一室だった。じんわりと灯る明かりと、飾りだけのシャンデリアがその光を反射している。全体的に暗くなっており、おもわず声を落としてひそひそと話してしまいそうになる。
「ここは……」
「客人用に使う部屋だ。誰も来ないのでゆっくり話せる」
(城の中ってやっぱりどこも華美だなぁ)
 俺がゴシック調の装飾をまじまじと眺めていると、ウォルが席を引いた。
「ほら、婚約者殿。こっちへ座れ」
「ありがとうございます」
 その呼び方に違和感を感じつつ、俺は言われるままにウォルの隣に座った。
「あの、なんで隣なんでしょうか」
「使者の者達と食事の席を設けている。そこで俺達は横並びだ」
「予行練習ってことですか?」
「そうだ」
 なるほどと納得し、その後は彼が説明をするのを静かに聞いた。
 彼が本番の日に求めることは多くは無かった。
『常にウォルの腕を組んで歩くこと』『座っている間はウォルを見つめること』
 あとは彼が適当に会話を振るので流れに任せろとのことだった。
(このイベントの時点で、主人公はもうウォルのことが好きだったし、自然と好き合ってる二人に見えたんだろうな……うん、俺も演技頑張ろう)
 主人公と同じ気持ちになることは百パーセントありえないが、せめてそう見えるように努力はしようと、まずは今日から下の名前で呼び合うことにした。
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