鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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本当のボディータッチ教えます

 風呂から上がり、今は俺がお土産で持ってきたゼリーを2人で食べている。とは言っても、これはラルクが買ってきたもので、俺が今夜外泊をすると知って手土産に持たせてくれたのだ。
(ラルクさん、だんだん兄みたいになってきたな。)
 普段、父と3人で親子のように過ごしているからか、こうやって兄弟のように接してくる。俺はひとりっ子でそういった経験が無く、ラルクの兄らしい態度にどこか照れ臭さを感じていた。

「私の部屋も暖炉があったらいいのに。すごく落ち着きます。」
「君の部屋はどんな感じなんだ?前に質素だと言っていたが、まさか暖を取る物がないのか?」
「まさか!死んじゃいますよ!部屋には暖房があるんですが、やっぱり火を見ると落ち着きます。」
「そうか……いつでも来るといい。これから冷える。」
 外は風が強く、窓からは揺れる木々が見える。
 この世界で初めて冬の始まりを迎えた俺は、どこまで冷えるのか想像もつかない。
(イベント④『黒馬の王子』では、雪の上を走る描写があったからな。)
 その時の一枚絵を思い出し、相当寒くなるんだろうか……と心配になった。
「あ!そうだ。」
 俺は大事なことを忘れており、それを伝えるためにシバの方を向く。
「明日、街で見たいものがあるんです。もし良ければ付き合っていただけませんか?」
「もちろんいいが、何か買うのか?」
「自室にソファーがあるんですが、前の家から持ってきたもので色が部屋と合っていないんです。何か布を掛けたくて選ぼうかな、と。」
「それなら、知っている家具屋を紹介しよう。」
シバの言葉に、俺は不安になる。
「あの、予算的に高いものは買えないので……市場とかで良いんですが。」
「では、両方行こう。」
 その言葉にホッとし、俺は明日が楽しみになった。シバは明日行く家具屋について考えているようだったが、俺が冷たいゼリーがぬるくなると指摘すると、慌ててそれを口に運んでいた。
「今日は本を読まないのか?」
「あ、そうでした!」
(そうだよ!早く読まないと、いつまで経ってもアックスと恋できないじゃん!)
 正直、本の存在を忘れかけていたが、俺に今必要なのは恋愛における知識だ。
 シバは立ち上がり本棚へ移動し、ふいにその大きな背中に視線を向ける。
(うーん、最初は俺の方が教えてあげてたのに、最近はシバの方がマスターしてきてるからなぁ。)
 本を読んでからというもの、俺に素直に言葉を向けてきたりスキンシップをすることが増えた。
 俺が「前回の続きから読みましょう!」と気合を入れて言うと、見慣れた本を手に取ってシバが戻ってきた。
「これはもうすぐ読み終わるな。」
「絵がほとんどでしたからね。次はこのシリーズの2にします?」
「それでいい。」
 シバは俺の近くに胡坐をかいて座ると、本を俺に手渡した。中をパラッとめくってみる。
(恋に気づく…アプローチ…この次だと、ここからか。)

~~~
≪アプローチが効いてきたら、もっと先へ!≫
・相手の好きなものを贈ろう
・『さりげない』から『本当』のボディータッチへ
・2人だけの秘密を作ろう
~~~

(プレゼントとボディータッチ作戦か……。秘密の共有は意外だったけど、特に気になる部分は無いな。)
 次のページへと指を動かすと、シバが横から話し掛けてきた。
「『本当』とはどういう意味だろうか。今までとは違うのか?」
「えっと…今までは、ちょっと触ったりとか軽いものだったでしょう?それを、長めにする……んだと思うんですけど。」
「長い時間触ればいいのか?」
(ちょっと違うかも?)
 シバが俺の頭を長時間撫でている姿を想像し、少し自信がなくなってきた。
「続きに詳しく書いてあると思いますよ。」
「そうか。」
 言われてみると気になってきて、ボディタッチ編まで一気に捲った……が、イラストと共に書かれた文を読んで肩がビクッと上がる。
(こんなの、ハードル高すぎるって……。)
 そこにはーー手を繋ぐ、手の甲やおでこにキス、後ろからハグなど、到底初心者ではできない数々。
(それに、こういう行為はまだ必要ないし……。)
 アックスとのそういった接触は最後のイベントまでほとんど無い。『Love or Dead』は、バイオレンスなエンドを除けば、基本的にはピュアで健全なゲームなのだ。
(でも、こういう行動をした方が好感度は上がるのかなぁ。うーん、今後のためにもこの辺勉強しとかないと。)
 この項目は必要な知識だと判断した俺が、真剣にそのページを見ていると、シバが再び口を開いた。
「長く触るとは、書いてないな。」
「それは、私も勉強不足で。」
「なら一緒に学べばいい。……してみていいか?」
「ど、どれをですか……?」
 慌てていると、シバが下から掬い上げるように俺の手を取った。
「あ、」
「本には、手を撫でたり絡めたりすると良いと書いてある。」
 シバは説明しながら、俺の指の間に自分の指をゆっくりと差し込んできた。そのまま手のひらを合わせて手の甲を親指で優しく撫でていく。
「……ッアインラス様、」
 俺はその感触にブワッと何かが上がってくる感覚がした。
「どんな感じだ?これで合っているだろうか。」
「……えっと、なんか、その、」
 目を見ながら聞いてくるシバに、ドキドキと心臓がうるさい。
 彼の黒がかった青い目に見つめられると、言葉で自分の現状を伝えるのが恥ずかしくなり、シバの空いている手をゆっくりと持ち上げた。そしてそのまま自分の胸に当てる。
「あの……こんな感じです。」
「君は……ッ」
 俺のした事に、シバが驚いたように一瞬手を強張らせる。
「……上級者だな。」
 そう言って少し顔を背けると、俺の胸から手を離した。
(は、恥ずかしい。何この空気!)
 離れていく手を見ながら、俺はまだ心臓が落ち着かない。
 この空気に耐え切れず、「ね、寝ましょう!」と提案すると、シバは少し間があって頷いた。

「もっと近くに来い。」
「はい。」
 すっかり2人で寝ることに慣れてしまっている。
 自分の適応能力に感心しつつ、暖かい身体へ身を寄せる。シバは俺の肩に手を置き、「隙間が、」と言いながらさらに引き寄せた。
 本を読んでから少しギクシャクとした雰囲気が漂っていたが、歯磨きをして布団に行く頃にはお互いすっかり寝るモードに入っていた。暖炉の火が消され、寝室はリビングよりは少し温度が低い。
「寒くはないか?」
「はい。アインラス様は体温が高いですね。」
「君もどちらかと言うと温かい。」
 シバは俺の手をさりげなく取って、手の平を指で撫でた。
(もう会得してる……!)
 さっき読んだばかりの本の知識をもう活かしている恐ろしい男をじっと見る。
 ん?と顔をこちらに向けてきたシバは相変わらず男前で、そんな男がこんなテクニックまで覚えたらどうなってしまうのか。
(城中の女の子が惚れちゃうよ!)
 俺はそう考えると同時に、少し悔しい気もする。
 同じ時期に本を読み始めたにも関わらず、どんどん先を行っているシバに嫉妬を感じた。そして、どうして自分だけそのままなのかと考えた時、ある事に気付いた。
(待てよ……。シバはいつも習ったら実践していた。俺は知識だけ増えて、実際に行動に移していない!)
だから差が出たのか、とようやく理解した俺は、早速実践を試みる。黙ってシバのおでこに掛かった髪を指で避けるように動かすと、目線が合った。
「マニエラ?」
 俺はシバを見下ろすように上半身を起こすと、出ているおでこにちゅっとキスを落とした。
「……ッな、」
「おやすみなさい。」
 俺は素早く枕元の明かりを消すと、布団にもぐりこんだ。
 慣れないことをして、逆に自分が緊張してしまった。しかし、実際やってみるとそれは一瞬であり、そこまでハードルが高くないと分かる。
(一瞬だけど、シバの驚いた顔も見れたし。)
 俺が少しにやりとしていると、黙っていたシバが手を繋いだまま尋ねてくる。
「今のは……?」
「寝る前の、挨拶です。」
 大人が寝る時に子どもにするアレだ。俺はあちらの世界でされたことはないが、夜中に俺の様子を部屋に見に来る父シシルが、時々こうしているのを知っている。
(いや、19歳の息子にするなんてどうなんだ……とは思うけど。)
 俺が父の行動はやはり変か?と考えていると、シバが動いて俺に近づいてきたのが分かった。何だと思ってじっとしていると、暗闇の中でシバが俺の瞼に口付けてきた。
「ひゃ、」
「ん、……ずれたか。」
「アインラス様ッ……!何ですか。」
「私も君に返そうと思った。嬉しかったから。」
 寝室が真っ暗で良かった。俺の顔はきっと真っ赤に違いない。
 自分からした時は、一瞬だったしそこまで緊張しなかった。ただ、される側となると訳が違う。初めて感じる唇の感触は想像以上に柔らかく、頭が沸騰しそうだ。
「本当は額にするつもりだったが、暗くてよく分からなかった。」
「……そうですか。」
 それ以上はどう言って良いか分からず、俺は布団を顔まで被った。
 シバは布団越しに「マニエラ」と名前を呼ぶと、繋いでいる手の指をさらに深く絡めてきた。
「またしてくれ。おやすみ。」
 俺が布団から小さな声で「はい」と返事をすると、上からフッと息の漏れる音がした。
(また笑った?……顔見たかったな。もったいない。)
 めったにお目にかかれないシバの笑った姿を見てみたかったと思いながら、俺はじっと布団の中にいた。
 瞼には、さっきのシバの唇の感覚が残っている気がする。俺はドキドキとしながらも、いつのまにか眠ってしまっていた。
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