鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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相手の好きなものを贈ろう

「おはよう。」
「あ、おはようござ、」
ちゅ……
 目を開けると近くにシバの顔。
 最初ほど驚かないものの、やはりこれだけ近いと少しはびっくりする。俺はこちらを見ていたと思われるシバに掛けられた挨拶に返事をしていた、のだが……髪をかき上げられ、露わになったおでこにキスをされた。
「アインラス様……!急にされたら驚きます。」
「すまない。今度からは声を掛けよう。」
「そうではなくて、練習なら昨夜したでしょう。」
「……。」
 シバは寝起きで乱れた髪のまま、じっと俺を見て考えている。
「まだ必要だ。昨日も失敗した。」
(いつ誰とする気だよ。)
 彼は、いつか誰かとこれをするために練習するのか……。そう思うと俺は少しだけモヤッとした気持ちになった。
(ていうか、俺が練習に付き合わないと、誰かに頼むかもしれないし……それは良くない。)
 この城の女の子を心配し、俺が練習役を引き受けることにした。
「……私だけにするって約束ですよ?」
「君にしかしない。」
 シバが即答したので、俺はひとまずは安心して、これからのスキンシップもしぶしぶ承諾した。

 あれからゆっくり朝ご飯を食べた。そして俺の買い物に付き合ってくれることとなり、街への道を歩いていく。
「先に家具屋へ行こう。私の知り合いの店がある。」
「買わなくて、見るだけでもいいですか?」
「もちろんだ。」
 その言葉にホッとして、家具屋へ向かった。

 白を基調とした壁。中には上品でシンプルな家具が並んでいるのが見える。シバはそこに迷いなく入ると、迎えに出てきた店員に声を掛けられた。
「いらっしゃいませ。おお~、アインラス様じゃないですか。」
「久しいな。」
「ベッドはどうですか?」
「快適だ。広いものにして良かった。」
 店員とシバの会話を聞き店内を見渡すと、あの部屋の家具達がここで揃えられたのだと分かった。
(あのベッドは最近買ったのか。)
 ベッドという言葉に、昨日と今朝のシバのことを思い出し、それを掻き消すように首を振った。
「そちらの方は?」
「ああ、私の連れだ。今日は彼のものを探しに来た。」
「どういったものでしょうか。」
「ソファーに掛けるカバーが欲しい。部屋は茶色が基本だ。」
「では、アイボリーか茶色ですかね。見繕ってきますので、少々お待ち下さい。」
「助かる。」
 店員はそう言って裏へと下がっていく。俺はそれを見届けると、シバの服の袖を引き、ひそひそと話す。
「あの、用意してもらったら買わなきゃいけなくなるんじゃ……。」
「実物を見せて勧めるのは彼らの仕事だ。気に入ったら買えばいい。」
 確かにそうだが、ここの家具は値段の表記がなく緊張してしまう。

 店員を待っている間、他の家具を見て回ることにした。
「あ、」
 大きな2人掛けの座椅子を見つけ、思わず立ち止まる。止まって1つをじっと見ている俺に、シバが不思議そうに尋ねる。
「座椅子もいるのか?」
「いえ、これ暖炉の前にあったらいいなって思いまして。」
「私の部屋のか?……確かにゆっくりできそうだな。」
 俺の急な言葉に、思いのほか食いついたシバは、触ってその感触を確かめている。
「掛けてみよう。」
 シバに促され、大きい座椅子に座ってみる。シバは大きく、俺は小さいのでピッタリだ。それに距離もちょうど良い。何より座った時の反発が強すぎず柔らかすぎず、なんとも気持ちが良いのだ。
「わぁ、これいいですね。」
「ああ、君と私でぴったりだな。買おう。」
「え!?」
 俺はシバの決断の早さに、思わず横を向く。
 シバは本当に買おうとしているようで、玄関と出窓、どちらから搬入するか……とブツブツ言っている。
「アインラス様、お待たせいたしました。ああ、その座椅子は一昨日入荷したばかりで、今朝店に出したところですよ。」
「そうか。これも貰おう。」
「ありがとうございます。すぐに新しい物を手配してお送りします。」
(え、本当に買うんだ。)
 俺は値段も確認せずに購入したシバに、やっぱりお坊ちゃんは違うな。……と頭の中で庶民の意見を述べた。

 シバの座椅子の件がひと段落したところで、店員が俺に何枚かカバーを見せてきた。
「こちら色と柄をお選びいただければ、大きさに合わせて裁断可能です。」
「家で大きさを図ってきたので、もし買うとなったらお願いします。」
「お部屋のお色ですが、薄い茶色でしたら、濃ゆいお色味のカバーが合うと思いますよ。壁が黒に近い茶色なら、存在感を出す為にアイボリーが良いかと。遊び心が欲しいなら、こちらの深緑も素敵ですよ。」
 広げられた様々な布。色と柄の絶妙な美しさに、どれが良いか悩んだ。
「うーん……どれも素敵ですが、一番この色と柄が好きです。」
 アイボリーで、同じ糸の色で刺繍がしてあるカバーを指差した。刺繍はよく見ると大きく植物が描かれており、部屋にある観葉植物とも合っている気がする。
「では、それを貰おう。」
「ア、アインラス様!」
 手持ちがそんなに無い俺は、焦って彼を止めようと腕に手を掛ける。しかし、お構いなしに店員に「一緒に送ってくれ。請求も私宛で構わない。」と言って、話は終わってしまった。
 俺はサイズを書いたメモを店主に渡し、彼は配達日を調べる為にもう一度奥へ下がった。

 俺は隣で店の座椅子に座っているシバに声を掛ける。
「あの、お金は払います。」
「いや、君に贈る。」
「駄目です!今日だって私の買い物に付き合ってもらってるのに。」
「これは……本の練習だ。」

(本……?あれか、昨日読んだ項目の「相手の好きなものを贈ろう」ってやつ。)
 それを思い出し、シバが真剣に恋愛に向き合っているのだと分かって驚いた。
「あの、いいんですか?」
「俺の為でもある。」
 俺は、少しすまなく思いながらも、「ありがとうございます。」と素直に礼を言った。

「行きたいところはあるか?」
 来週の週末に家具とカバーを送ってもらうことになり、俺とシバは家具屋を後にした。
 今の部屋で悪目立ちしていた青いソファーが、来週からはおしゃれな色と柄になる。俺はテンションが上がっていた。
「何か食べませんか?もうお昼ですし。。」
 日が高く上がっており、朝に比べると暖かくなってきた。頷いたシバは、近くの通りに何軒か店が並んでいるのだと、そこへ俺を誘った。
「何が食べたい?」
「うーん、身体が温まる物がいいです。」
「分かった。……そこの道の先に、希望通りの店がある。」
 シバは目的を決めたようで、小さい小道を指差した。

「ここだ。」
「へぇ~、この通りにこんな素敵なお店があったんですね。」
 俺が壁にツタが登る自然でオシャレな外観に見とれていると、シバが店の扉を開けた。
 店員に案内され窓際の席に着く。座って落ち着いたところで、後ろから「セラ?」と自分の名前が聞こえてきた。
「セラさん!奇遇ですね!」
 振り向くと、父とラルクが驚いた顔で俺を見ていた。

「セラがいつもお世話になっております。父のシシル・マニエラです。」
「騎士団に所属しております、ラルク・ジルオラです。」
 俺達が知り合いであることに気を利かせた店員が、大きなテーブルへ俺達を案内した。
 父達もさっき来たばかりのようで、まだ飲み物しか頼んでいない。
「シバ・アインラスだ。二人には近いうちに挨拶をしたいと思っていた。」
「良くして下さっているといつも聞いています。父としてお礼を言わせて下さい。」
「こちらこそいつも助けてもらっている。」
 ペコッと頭を下げた父にそう返したシバは、注文をしようとメニューを回した。
 ラルクは緊張しているのか、それを受け取る手が少し震えている。

 シバが選んだ店は様々な具沢山スープをメインとする店だった。
 種類や具も自分で選ぶことができ、俺は魚を食べたかったので魚介類のスープを。皆もそれぞれ好きな味を選んだ。
「ここの料理は冷めない器で出てくるし、いつでも温め直してくれるんですよ!」
 ラルクの説明に、どうしてシバがこの店を選んだのか分かった。
「ラルクさん達はどうしてここに?」
「実は今朝、朝日を見に近くの山まで行ってきたんです。そこで朝ごはんを食べて、ついでに街に降りてきた感じですね。」
「朝から用事があるとは言ってたけど、そんなに早かったんですね。」
(2人共、元気だなぁ。朝からずっと遊んでたんだ。)
 以前は力仕事をしていた父だ。見た目では分かりにくいが、体力はかなりある。
 ラルクの言葉に、父が興奮した様子で会話に入ってくる。
「朝日すっごく綺麗だったよ。山の麓まではラルクさんの馬で行ったんだけど、乗馬できるってかっこいいよね。」
父の台詞に、ラルクの頬が少し緩んでいる。
「セラも今度アックスさんに頼んでみたら?」
「私も馬に乗れます。」
 父が俺にそう提案すると、横からシバが宣言した。
 少しシーンとした空気が流れる。
(いや、元騎士だったから乗れるだろうけど……なんでここで発表するんだ。)
 俺はこの空気を変えるため、何か別の話題を考える。
 しかし父はシバの発言に目を輝かせながら、俺の方を向いた。
「え!凄いですね!じゃあセラ、アインラスさんに連れて行ってもらいなよ!」
父が明るい声で、にこにこと笑った。
「私で良ければ。」
「冬なので、空が澄んでいるんですよ。」
 父は、自分のオススメに対しシバが前のめりだと感じ、その魅力をプレゼンし始めた。俺とラルクは同じ気持ちだったのか、何とも言えない表情のまま、目線を送り合った。
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