鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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恋愛上手さんの人心掌握術

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「セラ、おかえり~。さっきアインラスさんから電話があったよ!」

玄関を開け部屋に入ると、リビングでくつろいでいた父がすぐにそう言った。
今日は約束通りオリアと買い物をして食事をし、着替えを取りに彼の部屋へ寄ったため、帰るのがずいぶん遅くになってしまった。

「え!本当?!」

俺はカバンを机に置いて椅子に座る。

「うん。というか、昨日も掛かったんだ。セラはいないって言ったら心配してたみたいだけど…。」

(2日続けて…何かあったのかな?いや、無いから掛けてくれたのか。)

「他に何か言ってた?」
「えっと、出れなかったことは気にしないでって。」
「そっか…。」

(なんでこうタイミングが合わないんだろう。)

父は、俺とシバがここ何日も電話をしていないことを心配しているようだ。どうしたのか聞きたいが聞けないといった表情でこちらを窺っている。

「アインラスさんの声、少し寂しそうだったよ。明日は出てあげてね。」

(出てあげるっていうか、こっちが掛けていただくっていう感じなんだけど。)

俺が一方的に彼の事が好きなのだとは知らず、父はそう言って俺を風呂へ促した。





「はぁ…。」

(今日もこんなに遅くなっちゃった…。)

俺は宿舎への道をとぼとぼ歩く。時間は夜の10時半を過ぎており、今日もシバの電話には出れないだろう。

あれから数日が経ったが、俺とシバは悲しいほどにすれ違っている。
次の日は文官棟で急遽開催された飲み会に召集された。皆、シバが帰ってこないことで仕事がスムーズに進まないようで、かなり荒れていた。
そして次の日、アックスに夕食に誘われた。攻略相手から誘われて断るなんてことはしない。何より彼の連れて行ってくれるお店はどこも美味しいのだ。隠れ家的なレストランで楽しい時間を過ごした。
またまた次の日、シュリと眼鏡先輩に誘われ、仕事終わりに街へ。俺が騎士棟へ職場体験に行っていた間に何かあったのか、2人はなかなか良いムードだった。
さらにその次の日、父とラルクが旅行を提案してきた。騎士の1人が家族とホテルを予約したらしいが、突然勤務になりラルクが代わりにどうかと言われたらしい。初めて3人で旅行するとあって俺達のテンションは上がり、帰りにはお土産をいっぱい買った。

そして今日、オリアが地元から帰りどうしても俺に会いたいと連絡してきたので、部屋へおじゃましていた。オリアとお土産を交換し合い、お互いにどうだったか話していると、あっという間に寝る時間になっていた。いつも9時に寝るという彼は慌てて布団に入り、俺もそろそろ帰ろうと荷物をまとめたのだ。

宿舎に着き、玄関の鍵を開ける。父とラルクはもう寝ているようで、リビングは一番小さい明かりが付いているだけだった。室内はシーンとしているものの、帰ってくる俺のことを考え暖房はそのままにしてあった。

(さ、明日も仕事だし、風呂に入って寝るか。)

リビングの机にオリアに貰ったお土産を並べ、寝間着を取りに部屋へ向かいかけた時、大きな電話の音が鳴った。

(え、こんな時間に誰だ?)

思いつくのはさっき別れたオリアだ。きっと忘れ物をしたか何かだろう。俺は寝ているであろう父達が起きないように、静かな声で電話に出た。

「はい。セラ・マニエラです。」
「…ッセラ?」

久しぶりに聞く低い声。俺に電話を掛けてきたのは、ずっと話したかったシバだった。俺はおどろいて思わず受話器を落としそうになる。

「シ、シバですか?」
「ああ。こんな夜遅くにすまない。」

時計を見ると、もう11時近い。父達の事を考え、小声のまま話す。

「あの、大丈夫です。父達が寝てるので、この声のままでもいいですか?」
「構わない。その、セラ…、」

いつもは俺の方が焦った声で電話を取って笑われてしまうが、今日はシバに余裕がない。もしかして何かあちらで事件でもあったのだろうかと心配になった。

「どうかしたんですか?声が…」
「セラが電話に出ないので、私の事を…その、嫌に思ったのかと。」
「いえ!お電話してくれたのにすみません。用事が重なってなかなか家に帰れなくて。」
「…いや。俺こそ謝りたかった。連絡しなくてすまなかった。」

シバはまだ落ち着かない声のままだ。

(焦るし謝るし、どうしたんだ一体。)

「忙しいとは聞いていましたし、心配しないでください。」
「いや、少しでも早くすれば良かった。……本当はセラの声が聞きたかったんだ。」

(どういうこと?)

シバの言っている意味が分からない。別に俺は怒っているわけではないため、シバが必死に俺にそれを伝えてくるのを不思議に思った。

「あの、気にしてませんし、無理しないでいいですよ。」
「違うんだ…私は、考えがあって電話をしなかったんだ。」

(は…?えっと、時間はあったけど何か意図があって俺と連絡を取らなかったってこと?)

「どうして電話してくれなかったんですか?」
「……あまり頻繁に連絡をしては良くないと、書いてあったんだ。」

その言葉の意味を考えてみる。書いてあったということは本か何かで読んだのだろう。そして、思いつくのはシバの部屋にある初心者用の恋愛教授本達だ。

「図書館の本、持って行ったんですか?」
「君と勉強すると約束したが、少し先に学んでおこうと思って。」

(待て待て、つまりこっそり持って行った本の中に、あまり連絡を取らない方が良いって書いてあって、それを実践したってこと?)

つまり、彼が学んでいる恋愛術の内容を俺で試したのだ。彼はすぐ実践に移してマスターしていくタイプのようで今回の事も実際に俺がどんな反応をするのか実験したのだろう。

「あの、勝手に俺で試さないでください。」
「セラ…本当にすまない。」

声が自然と低くなってしまい、またシバを謝らせてしまった。上司にこんなに謝罪をさせるのもどうかと、俺は息を一つついて冷静に言った。

「もう謝ってくださらなくて結構です。…それより理由が分かって安心しました。忙しいと聞いて心配していたので。」
「…許してくれるのか。」
「許すも何も別に怒っていません。ただ、こうやって本の事を信じて何でも試すのはどうかと思います。」
「ああ、もうしない。俺も辛かった。」

(あっちじゃ気心知れた相手もいないだろうし、友達兼部下である俺と一息つきたかったよね。)

「本当ですよ。俺こそシバに何かしちゃったのかって…悩みました。」
「俺のせいだ。余計な心配を掛けた…。」

俺は呆れて笑いまじりに言ったが、悩んだというワードに、シバの声がさらにシュンとなる。

「セラに寂しいと思ってほしかったんだ。だが君は、元気そうだ。」
「そんなこと考えてたんですか?変な駆け引きしなくても、2ヶ月会えないだけで十分寂しいと思ってます。」

俺の言葉に、シバは黙ってしまった。

(あ、俺の今の言葉でさらに罪悪感感じたのかな…?)

「シバ、その…今日は電話してくれてありがとうございます。せっかく久々に話せたので、もうこの話は終わりにしましょう?シバがこの数日どうやって過ごしてたのか知りたいです。」
「セラ…私も知りたい。」
「ふふ、じゃあ交代で話しましょう。」

シバは俺の笑い声にやっと安心したのか、落ち込んでいた声が少しだけ元に戻った。


「ちなみに、何の本を持って行ってるんですか?」
「『恋愛上手さんの人心掌握術』と書いてある。」
「……他のは試さないでくださいね。」
「もちろんだ。私に駆け引きは向いていないとよく分かった。」

その本を図書館で選んだのは他ならぬ俺であり、自分のチョイスに頭を抱えた。
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