鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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友達の妹と俺

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「はぁ~、今日は疲れたな。」

(本当は馬小屋に寄って帰りたいけど、そのまま帰ろうかな。)
 文官棟から出て、軽く伸びをする。
 今日は昼間に色んな感情の起伏があったからか、仕事によるものだけではない疲れを感じる。
 しかし、シバがパーティーや夕食会に参加しているから忙しいのだと知ることができ、安心した。

(俺が何かしちゃって、怒ってるのかと思ってたから。)

 できる限り寄るようにしている馬小屋だが、今日は行かなくてもいいか……と思える。
 シバの事も気がかりだったが、あのイベントの一件から、アックスの俺に対する好感度が下がったのではと、そちらも俺の悩みの1つだった。
 しかし、俺の心配をよそに彼の態度はそれからも変わらず、むしろ前より距離が近くなったように感じる。

(頭も頻繁に撫でてくるし……。とりあえずは大丈夫か。)

 攻略に関しては、後は馬小屋への訪問をメインに好感度を上げていくだけで良い。そして、職場体験をしたことで騎士棟への用事を言いつけられることが多くなった俺は、以前よりアックスに会う機会が多くなった。
 ゲームには無い展開ではあるが、せっかくのチャンスを利用しない手はない。俺は騎士棟での用事を終えると、必ずアックスを探した。
 というわけで、今日くらいは好感度アップ活動をサボってもいいか……と気持ちが大きくなっていた。



 宿舎に向かって歩いていると、「セラ―!」と聞き覚えのある大きな声がした。キョロキョロと辺りを見回すと、後ろから友人のオリアが走ってこちらに向かってくる。

「今、文官棟にセラを訪ねて行ったら、棟を出たばかりだと言われて追いかけたんだ。」
「俺に用事?昼間の書類、何かおかしいとこあったの?」

 オリアとは昼にも会って事務室で話している。
 俺が職場体験の間に使っていた席は今も空いており、次の人が使うまでは自由に使って良いと言われ、軽い記入作業はそこでするようになった。
 そして隣に座るオリアは嬉しそうに、「そこは合計を書くんだ。」「ああ、もっと丁寧に消さないか!」と横から口を出してくるのだ。
 俺に世話を焼いて満足気なオリアだったが、何かミスでもあったのだろうか。

「いや、そんな用事じゃない。明日は休みだから、泊まりに来ないかと誘いに来た。」
「今日?いいけど、一回帰って着替えとか準備してきていい?」
「ああ、一緒に行こう。」
「……ちょっと待たせるけどいい?」
「構わん。」
 オリアは俺の返事に頷くと、付いて来る……のではなく、逆に俺を引っ張るように宿舎へ向かった。

◇◇◇◇◇◇◇◇

「思ってた通り綺麗な部屋だね。」
「そうか?普通だと思うが。」

 オリアの宿舎はアックスと同じ方向にあった。しかし間取りは違っていて、今いる部屋はベッドルームとリビングのみだ。

(なんか俺が一人暮らししてた時みたい。)

 あちらの世界で大学生だった頃の部屋を思い出し、ついキョロキョロと部屋を見まわしてしまう。
 整頓された部屋は、どこに何があるのか一目で分かる。そして、部屋にある本棚に写真立てが並んでいるのが目に入った。

「これって、お母さんと妹さん?」
「そうだ。」
「あのさ、妹さんって……本当に俺に似てるんだね。」
「ずっとそう言っているだろう。」

 そこに写っている少女は、小さい頃の俺によく似ていた。髪の色も髪型もそっくり。目は切れ長なオリアと違って丸く、あどけない顔立ちだ。
 似ていると言われる度に、頭は大丈夫かと思っていたが、オリアの言う通りだ。
 9歳の少女の代わりか……と少し複雑ではあるものの、友人であるオリアの寂しさが少しでもまぎれるならと、これからも彼の好きにさせることにした。

「セラ、父親に連絡をしておいた方がいい。」
「はーい。」

 先ほどオリアと部屋へ立ち寄った時、父はまだ帰ってきていなかった。
父も何も言わずに泊まりに出たとなると心配するだろう。言われる通りに部屋の番号を回し電話を掛けた。



「セラ、寝るぞ。」
「もう?まだ9時だけど。」
「いつも何時に寝てるんだ。」
「11時くらい?深夜超える時もあるよ。」
「なッ……、だからセラは背があまり伸びないんだ。」
「背は、睡眠とは関係ないって!あと、俺は普通だから。オリアがでかいんだ。」
「きっと早く寝る習慣がついていればもっと伸びただろうに……。よし、もう寝るぞ。」
「え、ちょ……ッ」
 オリアは俺の手を引くと、ベッドルームへずんずんと進んだ。

「セラはここで寝ろ。」
 ベッドの部屋にはソファがあり、オリアはそこで寝るようだ。
 倒すと広いベッドの形になるため寝心地は悪くなさそうだが、身体の大きいオリアより俺の方が楽な姿勢で休めるだろう。

「俺がソファでいいよ。」
「いや、誘ったのは俺だ。それに明日は歩かせるからな。今日はしっかり休んでもらう必要がある。」

(明日の予定、もう決まってるのか。)

 部屋で出前を取って食べた時も、お風呂から上がってダラダラと話している時も、そんな話題は出てこなかった。
 俺はなんとなく街に行くか、運動でもさせられるものかと思っていた。
 オリアは既にソファに寝そべり、自分に掛けた毛布を広げている。申し訳なく思いながら、俺もピシッと整えられているベッドに入った。



 部屋を暗くして2人で他愛もない話をしていたが、気になっていた明日の予定を尋ねる。

「明日なんだけど、結局どこに行くの?」
「ああ、そうだったな。明日は買い物に行きたいんだが……付き合ってくれるか?」
「ははっ、もう既に決定だったんじゃないの?どこにでも付いて行きますよ、お兄様。」

 俺は笑ってそう答えたが、オリアは何も突っ込まず、静かに口を開いた。

「俺個人の用事だからな。実は、贈り物を買いたくて……セラの意見も聞きたい。」
「お母さんと妹さんに?」
「そうだ。来週末、家に帰ることにしたんだ。仕事も2日間休みを取った。」

 オリアはそう言うと、俺の方へ身体を向けたようだ。声が近くなる。

「セラが、俺をまともにしてくれたんだ。」
「えっと……俺、何もしてないけど……。」
「家族に甘えてもいいんじゃないかと言ってくれただろう。セラがいなければ、俺はこの先何年も家へは帰らなかったと思う。」
「じゃあ、オリアから連絡したんだね。」
「会いたいと言われた。俺もずっと……会いたかった。」

 オリアの話を聞き、今まで彼が何年も自分の欲を殺して生きてきたのだと分かり、なんだか目頭が熱くなった。

「じゃあ、明日はいろんなお店に連れて行くよ。」

 以前シュリと出掛けたおかげで、女性が好みそうな雑貨やお菓子、今流行りの店まで沢山知っている。

「俺に任せて!」
「はは、頼もしいな。」

 胸を張って堂々と言う俺に、オリアは笑い、そろそろ寝ようと一言言って布団を被った。

「ありがとう、セラ。」

 シーンとした部屋の中で、オリアにしては珍しい小さな声が聞こえた。
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