HALとアン

桜木 ジョー

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HALとアン

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西暦2050年



日本某所



夜の峠道、一台の乗用車、

30歳そこそこに見える男女が乗っている。



「やっと形になってきたな」

「そうね、革命が起きそうね」





カーブに差し掛かる。

対向車の大型車がセンターラインをはみ出し、

正面衝突寸前で場面は途切れる。

崖から転落し爆発炎上する乗用車。









雨の墓地。後ろ姿の年配の女性と女の子、

それに赤と青のロボットが傍らに。

墓石には男女二人の名前。



「一条春樹」享年28 

「一条 恭子」享年28















西暦2060年 現在





イエローのバイク爆走中。

操っているのは女性のようだ。

たどり着いたのは野球場。県大会決勝戦。

バイクから飛び降りると全力で球場へ向かう女性。



「おまたせ~~~!間に合った~~?」と女性。



「お~~~!早く早く!」と高校球児。

「代打代打!代打、一条アン!」



「ん?女性?登録してありますか?」

ロボット審判が慌てている。

「大丈夫です!これこれ!」

メンバー表を審判に突きつける球児。



9回裏1対4 2アウト満塁 勝った方が甲子園出場。

バッターは英知学園高校キャプテンの 堤 大輔だった。



大輔はヘルメットとバットをアンに手渡す。

大リーガーばりのルーティーンを経て

右バッターボックスに入るアン。



構えて微動だにしない彼女、

ピッチャーは突然の出来事に困惑中。



しかしここは土壇場、勝てば甲子園。

3点リードで最後のバッターは何と女性だ。



さすがは決勝まで勝ち上がる学校のエース、

すぐに落ち着きを取り戻しキャッチャーのサインを覗く。

一回で頷くとセットポジションに入る。



渾身の外角低めストレートを投げる。

初球から振りに行くアン。



ボールは快音を残しスタンド中段に吸い込まれた。

逆転満塁サヨナラホームラン。



歓喜に沸く野球部員たちをよそに悠々とダイヤモンドを一周。

ホームベースを踏むと、抱きつこうとしてくる球児たちを

スルリとかわし球場から出ていくアン。



「ありがと~~!おかげで甲子園に行ける~~!」

野球部員たちは泣いている。



「じゃぁ~ね~~ 

次バレー部、その次サッカー部に行かないといけないから~」





バイクにまたがると猛スピードで球場を去っていった。



















老婆のヒザで泣きじゃくる幼児



「お父さんとお母さんいつ帰ってくるの? ハルばぁ・・」



「アン、お父さんとお母さんは

 お空へ行ってしまったから帰ってこないんだよ・・」



「そんなの嫌だ!きっと帰ってくるもん! うぇ~~ん」





ハルばぁのヒザで泣きじゃくりながら寝てしまう幼い頃のアン。









おばあちゃんにヒザ枕をしてもらっている6歳のアン。

しわしわの手を触りながら気持ちよさそう。



「アン、あんたは頭もいいし力も強い。

 お父さんお母さんから受け継いだ、

 神様からもらったその力は、弱い人のために使うんだ。

 決して自分のためだけに使うんじゃないよ。わかったね・・」



「ハルばぁのお手々は気持ちいいねぇ~~ 

 わかったよ ハルばぁ・・ZZZ」



















アン 中学生



校庭で暴行を受けているクラスメイト男子を見かける。



「ちょっと!よってたかって3人を!

 あんたたち一体 何人いんのよ!」



女が割って入ってはやる気も失せるのか、

20人はいるだろう集団はバラけていなくなった。



「ありがとう!俺は野球部1年、堤 大輔だ。

 こいつはサッカー部の 榊 鉄郎、

 こっちはバレー部の 石川 煉。」



「あいつら帰宅部のヤンキーでしょ?

 運動部のあんたたちなら勝てたでしょ?」



「一条、いやいや20人以上だぜぇ! 

それに暴行事件は運動部じゃぁ~ね・・」



「そっか!やっぱ無理か! アハハ!」









アン、待ち伏せされ後ろから鈍器で殴られ気絶。

人気のない倉庫に連れ込まれ絶体絶命。20人の男たち。



両開きの分厚いドアが勢いよく開き、3人の人影が映る。



「おいおい!カヨワイ女の子をどうするつもりだよ!

 その子に触れたけりゃ、俺たち3人を

 殺してからにしてもらおうか!」



3人は袋叩きにあい大けがを負うが、

アンのことは守り抜いた。



気が付いたアン

「大輔、鉄郎、煉・・こんな大けがして・・・」

「かすり傷だぜ!こんなもん!俺たちは運動部、

 暴行事件など無かった!」



4人は大切な絆で結ばれた。



















ブレインテック株式会社 ソフトボール球場





後ろ姿の女性、

背中にはHAL ICHIJOとJAPANの文字。



「そんなんじゃ金メダル獲れないよ~~」

彼女の口癖のようだ。



ランニング中の選手二人

「一条監督って金メダリストなんでしょ?」

「そうだけど、東京オリンピックの時は試合には出てないんだって」

「ベンチには入ってたみたいだからメダル貰えたみたいね」



「そこ!ぺちゃぺちゃしゃべってないで気持ち入れて走りな!」

「オリンピックがいつ復活してもいいようにね!」



「ハイ!監督!」



2060年 一条 ハル  現在59歳。



2028年

ロサンゼルスオリンピックを最後に、金権五輪は無期限廃止された。





















アン小学生時代の商店街





「ここは車通りが多くて危なくてうるさくて、

ゆっくり買い物も出来ないよ~~~

いっその事、歩行者専用にしちゃったらどう?」



「そしたら私のような子供も、うちのハルばぁみたいなお年寄りも

安心してゆっくりここで過ごせるのに」



「ねえヤっさん!商店街の会長さんでしょ?

その方がいいと思わない?それにみんな顔が暗いよ!」



「アンよ~~ ここは県道なんだよ。

小学生のアンに言ってもわかんねぇだろうが、

そんなに簡単じゃねぇんだわ」



「何よ!ルールは破れないんなら変えちゃえばいいのよ♪ 

決めてるのはロボットじゃなくて人間なんだから!」





5年後、

商店街の努力が実り県道は歩行者専用道路に。

子供からお年寄りまで幅広い客層が集い商店街は賑わいを取り戻す。



アンの意見でベンチを設置したり、

顧客満足度を上げることで住みやすい街にもなり、

転入者が増え、街の人口は増加に転じた。



















現在の商店街





広くない道路の両端には、ずらっと商店が立ち並んでいる。

アンがゆっくりと商店街を歩いている。



「お~!アンちゃんじゃねえか!今日はどこ行って来たんだい?」

「ヤっさん、今日はね、サヨナラホームランと決勝ゴール、

 2セットダウンからの大逆転バレーよ♪」



「そりゃすごい! リンゴ持ってきな~」

「ありがと!」慣れた手つきでキャッチ、そのままガブリ。

「店頭にはその日のおすすめを山盛りにしといてね、ヤっさん!」





あるパン屋に入るアン。店員さんを見るや否や両手で顔をそっと触り、

「笑顔よカナさん♪カナさんが笑ってれば、

 来たお客さんみんなが幸せになれるの♪」

今日は何かあったのだろう、こわばっていたカナの顔に柔らかさが戻った。



自転車屋の主人と話すアン。

「この自転車に乗れば

 どんな素晴らしいことが起きるかイメージしてみて♪」

「ひとつひとつの自転車には想いがこもっているの。

 その人にピッタリな1台が必ずあるはずよ」



「アンには適わないなぁ~ 

 小学生のころからご指導頂いてるからなぁ~ ありがとアン♪」







こうやって商店街の人たちにアドバイスするうちに、

商店街は活気に溢れ繁盛しているのだった。



「みなさ~ん!英知学園への寄付はいつでも承っておりますので

教頭の米俵先生までお願いしま~す♪ あとお嫁さんも♪」



「抜け目ないね~ アンちゃん」



商店街が笑いに包まれる。



事実、英知学園は商店街はもとより各法人会などからも

多額の寄付を受け、進学率就職率とも全国トップクラス。

運動部・文化部においても全国大会常連校となっている。



一条アンが入学してからというもの、

何事にも一生懸命なアンに触発された生徒、教師、町ごとが、

ポジティブでアクティブになってしまい、

おのずと結果がついてくるようになっている。



ちなみにアンは1年生からずっと生徒会長を務めている。















ハルばぁとアンの自宅





二人のご主人が不在の間は、ロボットたちが思い思いに過ごしている。

掃除をしているのは新入りの「テスター」だ。

イエローとブラックのツートンロボ、今のところ最新型。



二体で遊んでいるのは古株の「スレッド」と「ブルース」。

人型汎用ロボットとして最初に世に出たタイプだ。



スレッドとブルースはじゃれあってバランスを崩し壁にぶつかった。

その拍子に壁に掛けてあった額入り写真が落ちる。壊れはしなかった。



「ギャ~~! リー様の写真が落ちた~~! アンに叱られる~~! 

 直せ直せ何事もなかったように元に戻せ!」



慌てふためいている二体。額入り写真を壁に掛け直す。



「ふ~~何とか間に合った。アンはリー様の大ファンだからな~~」

リー様とは「ブルース・リー」の事である。



テレビでは終わりの見えない世界的不況と、

国内での一党独占政党と新興宗教を母体とする新政党との

連立決定記者会見を延々に流していた。

















家で夜を過ごすハルばぁとアンとロボットたち





テレビからは第五世代の新ロボットの予告CM。シルエットのみ。



「「スレッド」と「ブルース」は

 お父さんとお母さんが作ったのよね?」とアン。



「そうだよ。当時としては革命的な技術で

 反響がすごかったわね」ハルばぁが答える。



「「テスター」は政府直轄会社製なのよね。」

「そうだね・・・ロボジャパン製ね・・」

「お父さんとお母さんが事故で亡くなったりしなければ、

 もっと素敵なロボットが出来てたはずよね」

「そうだね~~ 二人の死後、

 会社は政府に乗っ取られたんだわね~~」





ハルばぁが続ける。



「そして私もそろそろ施設行きが近づいているわね~」

ぽつりと漏らすハルばぁ。





日本は60歳を迎えた人間は、完全無料でとても快適な施設

「サニーjライフ」へ入居することが法律で決まっている。

社会福祉費や年金問題を一気に解決する政策で、

ロボットがロボットを作り、老人の介護までこなす為、

基本的に経費が掛からない。

ロボットは高額だが、国民皆保険同様に国民皆ロボットとして

全てのロボットはリーズナブルなレンタルとなっている。

一家に一台は必ずロボットがいる。





「ひとりになるのはイヤだけど、ハルばぁが幸せになるなら我慢する。

長い間ハルばぁに育ててもらったし感謝してる・・」



「私もアンと離れるのはつらいけど、法律だからねぇ・・」



「直接会うのは禁止で、全て映像越しっていうのがとても不満。

だってハルばぁのしわくちゃお手々が無いと私眠れないし、

さわれないなんて信じられない!」



「40年前の新型ウィルス以降、とても危険なウィルスが

次々と現れては人命と経済を陥れてるからねぇ・・」





「でも・・さびしくなる・・・」



















アン 就寝前のルーティーン



ブルース・リーのホログラム映像に合わせて

ジークンドーの型の稽古。かなりの腕前。

ひと汗かいてシャワーを浴び、

ロボットたちとブルース・リーにキスをして就寝。

















アンとハルの別れ





政府専用車が止まっている。

ボディには「サニーjライフ」のロゴ。



抱き合い、別れを惜しむ ハルばぁとアン。

ロボットたちも寂しそうだ。



「では、そろそろ」

担当者は事務的にハルばぁを車に乗せると

余韻も残さず走り去っていった。



残されるアンと「テスター」「スレッド」「ブルース」。



アンは車が見えなくなっても一向に動こうとしなかったので、

ロボットたちに促され家に戻る。



ハルばぁの幸せを願いながらも、

寂しさと向き合わなければならないアンだった。



















家電量販店での出会い





ハルばぁと別れ1年が経ったころ、

いつもの商店街でアドバイスに精を出すアンがいた。

店長に乞われ、一通りアドバイスを終えたアンの目に

ヴェールに包まれたあるものが映る。



「店長、これ何?なにか感じるんだけど・・」

「ん?アンちゃん 気づいちゃった?今日入荷したばかりで、

 明日解禁の第五世代最新型ロボットだよ!」



店長がヴェールを外すと

今まで見たことの無い人型ロボットが姿を現した。

第四世代の「テスター」とは大きく容姿が異なる。

より人間らしいフォルムになっている。



「店長、これってもしかして女性? すてきね!」

「そう!ロボット史上初めての女性型なんだよ!」

「どうだい?うちの店には今日1台しか入荷しなかったけど、

 アンちゃん持っていくかい?」



「ワタシノナマエハ HAL デス」



充電されていないはずのロボットの口から言葉が発せられた。



もの凄いスピードで顔を見合わせる店長とアン。

ロボットは最初から名乗ることは無い。

所有者が決めて、登録してから初めて名乗るものなのだ。



「おかしいな?初期不良かな?アンちゃん辞めとこうか?今回。」

「来週もう一体入荷する予定だけどそっちにするかい?」



「いいえ!この子がいい!絶対つれて帰る!」























アンとHAL 部屋にて





「あなたハルっていうの?」

「はい。エイチ・エー・エルでHALといいます」



「誰が名付けたの?」



「それは私にも分かりません。

 すでにそのようにプログラムされていました。」



「誰に向けてかは分かりませんが、メッセージを預かっています」

「え?え? 聞かせて!」





「ロウジンタチハ ハクガイヲウケテイル セイフヲシンジルナ」





アンの顔から血の気が失せていく。



「まさか「サニーJライフ」のことじゃないでしょうね・・」

「これはハルばぁからのSOSだ!」





















HALとのトレーニング





その日からアンは、第五世代ロボットHALとトレーニングを開始する。

一人でハルばぁの救出は難しいと踏んだアンは、HALを戦力にと考えた。



知識向上と格闘技トレーニング。

自らを追い詰めて行う過酷なそれは

アンとHALをとてつもない速さで成長させていく。



アンはもともと頭脳明晰、スポーツ万能で、

ブルース・リーをこよなく愛すジークンドー使い。



そのアンから直接指導されるHALは、

最新AI搭載なだけあって最短距離で知識と強さを身につけていった。



幸せに暮らしていると信じていたハルばぁからのメッセージ。

政府への怒りと、ハルばぁ救出の目的意識は集中力をMAXにした。



15日後、アンとHALは旅の支度を整え、バイクにまたがり家を後にする。



















「サニーJライフ」に到着





ハルばぁが入居しているはずの黒基調の施設「サニーJライフ」に到着した。

受付で面会を求めると「ここには居ない」との答え。



「そんなはずないじゃない!ここにいるはずよ!ちゃんと調べて!」

「そう言われましても・・」と受付ロボットは同じ言葉を繰り返すだけ。



いつもそうやって、たらい回しにして面会者を諦めさせる手ではないのか?



「セイフヲシンジルナ」

メッセージを聞いているアンは諦めない。



「ハルさんはココにいます」HALがアンに耳打ちをする。



「OK!わかったわ。帰ります」



アンとHALはバイクに乗り引き返す。

と見せかけ、実は遠回りして施設の裏側へ。



「絶対みつけだす!ハルばぁ!待ってて!」







何重にも有刺鉄線が張り巡らされている立ち入り禁止区域。

「日本って平和ね。こっちには誰も来ないと思ってセキュリティが甘々だわ」



多少のひっかき傷を負いながらも建物の裏口へたどり着くアンとHAL。

表玄関の豪華さとは裏腹に、味気ないドアがぽつんとついている。

セキュリティは流石に設置されているようだ。



HALが指の形を変え機械に差し込むとロックが解除された。

「やるねHAL!さすが最新式ロボだわ♪」

(そんなのことが出来るようには作られてません)



「暑いわね・・空調効いてないみたい」

見つからないように慎重に歩を進めるアンHALコンビ。

たくさんの嫌な音がする方へ進むと、やっぱり予感は的中した。



ロボットがロボットを作る完全フルオートメーションシステムなんて嘘っぱち。

老人がロボットに監視され、時には殴打されながらロボット製作を

強要されている地獄絵図だ。年配者だからもともと力もない中、

パワースーツでアシストされながら動かされている。



この空調もない暑い中、倒れるお年寄りもいる。当たり前だ。

なんと倒れた彼らはロボットたちが別の場所へと運んでいくではないか。

とても介抱してくれるとは思えない、最悪のシナリオが目に浮かぶ。





HALは やはり、あらかじめ分かっているかのように進んでいく。

ロボット製作場には男性しかいなかった。女性は別の場所に違いない。

明かりが煌々とついている部屋が遠くに見える。

HALは当然のようにそこへ向かっていく。



「ストップ!HAL!」

アンの目はドア付近の両袖から出てきた2体のロボットを捉えた。

1体は「テスター」と同じ第四世代ロボット。

だがイエローとブラックの二色ではなく、サンドベージュ色。



「あなたがやっていることは不法侵入、犯罪です。直ちに引き返しなさい」



「テスターもどき!そんなことは百も承知よ!そこをどきなさい!」



「従わない場合、強硬手段に入ります」



もう一体が動き出す。こちらは見るからにヤバそうなロボット。

ホワイト基調で手足が異様に長いうえに柔らかすぎる関節部。

四つ足でまるで俊敏な猛獣のよう。言葉は発しない。





アンとHALは同時に突進した。

「テスターもどき」対アン。「ホワイトビースト」対HAL。



アンのジークンドーは冴えている。もともとのキャリアに特訓が生きている。

早々に倒すとHALの方をうかがう。

ホワイトビーストは速くて強い。HALは防戦が精一杯だ。





「行って!アン!」



アン一瞬躊躇したがドアを開け中に入る。



目の前には大勢のおばあさん達がコンピュータ操作や

マイクロ部品の組み立てをやっていた。

机に突っ伏して動けなくなっている女性も多い。

この部屋も暑い熱い!





「ハルばぁ!!!ハルばぁ!どこ!!」 アンが大声で叫び、目で追う。

遠くから元気に走ってくる老婆。

とても老婆には見えないが、齢61歳のハルばぁだ。



ものすごい勢いでぶつかるように抱き合う二人。





アンは泣きじゃくっている。

「泣くなアン!ここを見たろ?まずは脱出だ!」

「やっぱりハルばぁだったんだね!あのメッセージ!」

「そうさ!わたしゃこう見えて金メダリストでもあり

 春樹の母親だからね!ちょろいちょろい!」

「さ、あのヘンテコなロボを退治して取りあえずココから逃げるよ!」



ハルばぁはポケットに忍ばせてあった小さな鉄の部品を数個取り出すと、

ホワイトビーストに投げつけ始めた。



さすが元メダリスト、ビーストは一個当たるごとに壊れだし動きが鈍くなる。

「今だよ!」

ビーストの横をすり抜け、だいぶ傷んだHALを介助し3人は屋外へ出た。



バイクに三人乗り(違法です♪ あ、ロボはいいのか♪)施設を後にする。

「ハルばぁ♪ハルばぁ♪ 会いたかったよ~~! もっとギュッとして!」

後部座席のハルばぁもアンを強く抱きしめる。

「痛い!チカラ強すぎハルばぁ♪」

HALはロボット。人間には不可能な体勢でイエローバイクにしがみついている。



かくして ハルばぁ奪還計画は成功した。



















関係各所に訴えるが・・・





家に戻ったアンとHALとハルばぁ。

1年ぶりの再会をテスター、スレッド、ブルースを交えて盛大に祝う。



「さて、このまま黙ってるわけにはいかないよねぇ」ハルばぁが口火を切る。

「そうだね!これは一刻も早く世間に知らせてみんなを解放しなきゃ!」とアン。



「政府がやっていること。警察は動いてくれるでしょうか?」

傷をテスターに手当てしてもらいながらHALがつぶやく。



案の定、役所も警察も、まともに取り合ってくれなかった。

それよりも陰謀を知られた政府は、証拠隠滅を図りに来る。

この家も家族も危ないことは明白だった。







日曜日。



商店街にアンたちの姿があった。



「どうしたどうしたアンちゃん!ハルばぁも!

 施設に入居できたんじゃなかったのかい?」ヤっさんが話し出す。



「アン!どうした?傷だらけじゃん。何があったんだ?」

 たまたま居合わせた 堤 大輔が声をかける。



商店街の真ん中で、手を広げたアンが話し出す。



「みんな聞いて! サニーJライフは嘘っぱちなの! 

 おじいちゃんおばあちゃん達は虐待されているの!」





商店街の店主たちが続々と集まる。買い物客も集まってくる。

大輔他、アンのことをよく知っている学生たちは

携帯端末を使ってSNS生配信をしたり仲間に連絡を取り合ったり、

一気に人も集まり情報も拡散された。





「政府が相手だから役所も警察も動いてくれないの! 

 私たちで何とかしなければならないの!」





「いや~~いくらアンちゃんでも、にわかには信じられない話だなぁ~~」

 店主の何人かは懐疑的だ。



「俺はアンを信じるよ! みんな! 

 アンは嘘や戯言を言う人間じゃないだろうが!」大輔が泣いている。





その時!HALの目からホログラフィ映像が流れる。

施設潜入の一部始終だった。





「みんな見ろ!これでもアンを疑うつもりか?

 現実から逃げるなよ!祖父母や両親がひどい目にあってるんだ!」



駆け付けた鉄郎と煉、英知学園の生徒も教師も集まっている。

ハルばぁの教え子たち、ブレインテック株式会社ソフトボール部の

選手たちも皆駆け付けた。





「よし!行こう!家族を奪い返しに! 

 車出せるヤツは用意しろ!みんな相乗りで行こうぜ!」

「ヤス!お前トラック持ってたな?一度に大人数運べるだろ!」

「テツ!足りない場合はお前んとこのバイク貸しなよ!」

「もちろんだ!葬儀屋のトシんとこにはマイクロバスがあるよな!」



「みんな! ありがとう!」



「礼なら全員を奪い返して帰ってきてからだアン!」





騙され、虐げられている家族を奪い返す戦いが始まった。

群衆を乗せたそれぞれの車は、

砂ぼこりを上げながらサニーJライフを目指す。

















決戦の場所へ





施設が見えてきた。白っぽく見えている。

サニーJライフの建物は確か黒基調だったはず。

何と!白っぽく映っていたのは建物外観ではなく、

ホワイトビーストの大群だったのだ。



「あなた方の行っている行為は違法行為です。引き返しなさい」

スピーカー越しの機械的音声が繰り返し響く。



「つっこめ~~~!」



トラック、バスチームは車ごとビースト群へ突入。

ビーストをなぎ倒して前へ進む。

「家族を返せーーー!!」

倒れたビースト群と車両との狭い隙間をすりぬけ、

アン率いるバイクチームと自転車チームがさらに内部へ。



部屋のドアを開けるとそこはもぬけの殻だった。

女性部屋も同じ、誰もいない。

もっと奥から助けを呼ぶ声がする。

おじいちゃんもおばあちゃんも一緒にいるようだ。





駆け付けたアン達の目にもの凄く大きなプレス機が姿を現した。

ここは使用済みのロボットを処分する場所。

そこに大勢のお年寄りが放り込まれていた。

深さが3メートル以上あって彼らは自力で脱出できない。

なんと陰謀発覚を避けるために一気に証拠隠滅を図ろうというのだ。



「まちなさい! あなたがたが今やろうとしていることは大量殺人です!」

「いますぐそのスイッチから手を放しなさい!」



アンが一生懸命説得する。

役人と見られる二人はスイッチからは手を放したが、

少しこちらへ近づいただけだ。



一歩前へ出たおかげで光が当たり、二人の顔が見えてきた。







「は、春樹・・恭子・・・」

ハルばぁは膝から崩れ落ちた。



なんと! 主犯格はアンの両親だった!



「なんで?なんで?お父さんお母さん! 何でよ!」







「ここの秘密を暴いたのが、わが娘だとは・・

 運命としか言いようがないな・・」



「俺たちは死んだと見せかけられ、ここに拉致されてきた」

「政府から、ロボットは世界を救う、それは一企業ではなく

 国が行った方が確実だと言われ続けた」

「確かに私もロボットの進化が世界を救うと信じているし、

 様々な問題も解決できると思い政府と手を組んだ」

「従わなければ娘の命も保証してもらえなかったしな・・・」



「しかし現実はどうだ?私たちは殺人者に成り下がった。

 もう数えきれないくらいのお年寄りを殺めてしまった」

「アン、私たちはここで死んで謝りたい。みんなをどうか逃がしてほしい」

「さっき本部からリモートでこの施設の爆破スイッチが入った。

 あと10分で全て消し飛ぶ」

「アン、母さん、すまないがみんなを連れて逃げてくれ」





「この人数じゃ無理だよ!全然人手が足りないって!」大輔が叫ぶ。



「それなら大丈夫よ。早く逃げて。」

アンの母、恭子はポケットからスイッチを取り出し迷うことなく押した。



その場にいる全てのロボットが一斉に動き出し、

お年寄りから先に運び出し始めた。



「ロボットの大原則、人間を救え」

恭子はそう言い残し、春樹と共に奥へと引き返す。

なんと屋外にいたはずのホワイトビースト群も

なだれ込むように入ってきて人間を運び出し始めた。





「これなら大丈夫だ!」大輔、鉄郎、煉は胸を撫でおろした。

「アン、ハルばぁ 一緒に逃げよう!」

三人が促すが二人の表情は怒っているように見える。



「あんたたちは皆と一緒に逃げて。お願い。」アンが静かに言った。





逃げる人々とロボットたちとは反対方向へ一条家は進む。



「春樹!恭子!これで終わりにはさせないよ!

 逃げてんじゃないよ!このバカ息子とバカ娘!」



「お父さん、お母さん!生きてて本当に良かった!

 でもハルばぁの言う通り、逃げちゃだめ。

 この施設は無数にあるうちのたった一つに過ぎない。

 この国を全部洗いなおそう!わたしたち家族で。

 たくさんの人を殺めてしまったことは消せない罪だけど、

 救える命は比較にならないほどの数よ! 

 一緒に本当に正直なロボット大国を作り直そうよ!」



「そうだなアン、母さん、その通りだ。」

「そうしたいと本気で思ったよ。けどもう時間が無い。

 お前たちまで巻き込んでしまって本当にすまない。」









サニーJライフ 大爆発・・・



轟音と共に建物は跡形もなく消し去られた。











警察と消防、自衛隊が到着。

助け出された老人たちと、ケガをしている街の人々の救出と手当てを始める。

元気な人たちは一様にアンとその家族を探している。



何も残らないはずの爆破跡に、

そこに似つかわしくない円形の塊が見える。



「なんだろなアレ」



みんなゆっくりと近づいていく。



よく見ると第三世代ロボットのスレッドとブルース、

第四世代ロボットのテスター、第五世代ロボットのHAL、

サンドベージュのテスターもどき、ホワイトビーストまでが固まって

小さなシェルターを形成していた。



6体の各世代ロボットが少しずつバラけていく。



アン、ハルばぁ、春樹、恭子、奇跡的にみな無事であった。

大きな人の輪が出来、大歓声に包まれる。







警察が近づいてくる。

両手を差し出す春樹と恭子。



「アンちゃんの言う通り、これで終わりじゃないです。

ひっくり返さなきゃいけないものが、この国にはまだまだあって、

みなさんの力が必要です。一緒に頑張りませんか? 

罪を償うのは全部終わってからでも遅くないですよね。」



「警察がそんなこと言って大丈夫なんかい?」ヤっさんが笑っている。





「大丈夫もなにも・・なあ大輔!悪いヤツは警察が捕まえないと!」

「われわれ消防も全面協力しないと、なあ鉄郎!」

「国を正しい道に戻す。これも自衛隊の仕事かもです! なあ煉!」



「親父・・・」



3人の仲間と顔を見合わせきょとんとしているアン。







涙を拭っているアンの両親、春樹と恭子。



アンとハルばぁは手をつなぎ両手を高々と天に突き上げた。





「まだまだぁ~~!! これからだぁ~~~!!」





元気印の二人の傍らでロボットたちも感慨深げ。





一条家にアンの両親が戻った日、

家族ロボットもさらに2体増えたようだ。





















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