3 / 6
3 悪意にさよなら
しおりを挟む「お前との婚約は破棄──」
「コンヤ様のフリをするなんて…… 恥を知りなさいっ!!」
腹の底からの一喝。
怒りの大声は空気を震わせ、肉食獣の如き咆哮を相手にくらわせた。
「ソ、ソンナ? いきなり何を言ってるんだ?」
「正体なら、分かっているわ。
騙るだけ時間の無駄よ」
そう言って、ソンナは相手の瞳を真っ直ぐに見つめた。
コンヤの目は、いつもならば澄んだ空の如く青く美しく輝いている。
だが、今日の彼の瞳は灰色の雲に覆われているかのようにどんよりと曇ってしまっている。
それは、どう見ても明らかな異常。
「その醜悪な気配で分からない筈がないでしょう」
「チッ!」
舌打ちをするなり、コンヤの周囲に黒く怪しい霧が噴き出していく。
「俺様の正体に気付いたとはぁ。随分と感の良い奴だなあぁ?」
獲物に巻き付く蛇のようにコンヤの周囲に漂いだしたソレには、人間的な目と口が付いており、濁った声で苛つきをぶつけてくる。
ソンナが思っていた通り、相手が偽物であるのは明白。
但し、意識の方はという言葉が付く。
何故なら、身体自体はコンヤ本人のものであるのだから。
「やっぱり、感じ取ったとおり悪霊だったわね。
しかも、質が悪い種類の」
悪霊。
それは、この世に未練を残して死んだ者の魂が邪悪な存在へと変じたもの。
ソレがコンヤ様に取り憑いて、私へ婚約破棄を言い出したのだ。
「婚約破棄だけが目的?
それとも、他に何かやりたいことでもあるのかしら」
「俺様は、お前等のように幸せで仲睦まじい奴等が妬ましいぃ。
だから、不幸にしてやろうと思ったのによおぉ」
この世の全ての幸福が忌々しいとばかりに怨み言を吐き捨て、こちらを睨みつけてきた。
悪霊は、己の抱える怨念のままに行動する。
つまり、幸福を妬んでいるのは生前に何らかの不幸があって死んだからではないか? と推測が出来てしまう。
(そうであろうとなかろうと構わない。
八つ当たりの憂さ晴らしに、私達を選んだことを後悔させてやろうじゃないの……!)
どんな事情があれ、愛する者を貶める者に容赦なんてしてやるものか。
「コンヤ様に取り憑き悪事を成そうとした不届き者よ! 私、容赦は致しませんわ!!」
胸に怒りの炎を燃やし、高々と宣戦布告。
「あぁんっ!? 出来もしないことを偉そうに言ってんじゃねえよおぉ────!
ひ弱そうなお嬢ちゃんが、どうやってこの男を助けるってんだぁ?
ゲッヒャッヒャッヒャ────!!」
「……」
相手の下卑た挑発なんて無視。
ただひたすら、コンヤ様を助けたいという思いと目の前の敵を屠る魔力を拳に込めていく。
「はあぁっ! 悪霊退散っ!!」
振りかぶって解き放ったのは、輝かしい真っ白な閃光。
それが、男の身体を貫き。
黒い霧のような怨念だけを吹き飛ばした。
「ぐっ、ぐわああああぁぁぁ──────!?」
霧状の顔が激しく歪み、苦悶の悲鳴を上げながら掻き消えていく。
「悪しき霊よ! この世から去りなさい!!」
ドブ川の如く濁りきった魂を浄化したことにより消し去った。
後には、コンヤが倒れているのみ。
ソンナは慌てて駆け寄り、力強く揺さぶり続ける。
「大丈夫ですか! しっかりして下さい!!」
手加減はちゃんとしている。
外傷も見られない。
だから、大丈夫。
そう分かってはいるものの、どうしても心配になってしまう。
「……うっ、うぅっ……」
「コンヤ様! あぁ、良かった」
「……ソンナ? 俺は、一体……」
頭痛でもするのだろうか。
額に手を当てながら、コンヤは身体を起こした。
「覚えていないのですか? 通りすがりの悪霊に取り憑かれていたのですよ」
「悪霊に……ハッ! き、君に危害は!? 何か卑劣な真似をされたのではないのか!?」
「悪さをする前に退治したので、心配なら無用ですわ」
「ソンナ……ありがとう!!」
婚約破棄なんて、なかった!!
0
あなたにおすすめの小説
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
もしもゲーム通りになってたら?
クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが
もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら?
全てがゲーム通りに進んだとしたら?
果たしてヒロインは幸せになれるのか
※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。
※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。
※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。
※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
婚約破棄された私と侯爵子息様〜刺繍も私も、貴方が離さない〜
ナナミ
恋愛
「ディアナ!お前との婚約を破棄する!」
ディアナ・コヴァー伯爵令嬢は、婚約者である伯爵子息に断罪され、婚約破棄されてしまった。
ある子爵令嬢に嫌がらせをしていたと言うことである。彼女には身に覚えのない冤罪であった。
自分は、やっていない、と言っても、婚約者は信じない。
途方に暮れるディアナ。そんな時、美形の侯爵子息であるフレット・ファンエスがやって来て……。
伯爵令嬢×美形侯爵子息の恋愛ファンタジー。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる