女神に裏切られたので、世界を救うことをやめたいと思います

何歳

文字の大きさ
7 / 12
冒険者

薄紫の女性

しおりを挟む
 結果として俺は孤児院?の中に引きずり込まれてしまった。
 助けてくれ。どう考えても某遊園地にある某病院みたいな雰囲気がしてめっちゃ怖い。

 応接間的な部屋に引きずり込まれた挙句、目の前に座っている女性が俯きながら笑っているせいで、その雰囲気が倍増されている気もする。なんて言ったらいいかわからないが、端的に言うと心霊スポットで降霊術をやっているような雰囲気かな。
 何を言っているかわからないだろうが、俺も何を言っているかわからない。

「さて、盗賊か不審者かさっぱりですけど、この孤児院に何か用ですか?」

 すでに俺が、この孤児院に何かすることが前提として話が進んでいらっしゃる。

「一つ訂正させてくれ。俺は盗賊でも不審者でもない」

 ここで訂正できなかったら、俺は路頭に迷うだろう。いや、金がないからすでに路頭に迷ってるか。

「へぇ?では、何でこの孤児院に来たんですか?」

 やはり、女性の表情は見えない。辛うじて口元は笑っているのが確認できるのだが、それでも目が笑っているか笑っていないかは確認できない。

 女性の質問に、俺は正直に答えた。

「勇者として異世界から召喚されたけど悪魔として死刑されそうになったから脱獄したら偶然たどり着いた」

 情報は端的に。もちろん嘘はなしで。
 信用されたいからね。

「ごめん、なんだって?」

「いやだから、勇者として異世界から召喚されたけど悪魔として死刑されそうになったから脱獄したら偶然たどり着いたんだって」

「おっかしいなー。私の聞き間違いじゃなければ、『勇者』とか『悪魔』とか、『脱獄』とか危険ワードが聞こえた気がしたんだけど」

 先ほどの丁寧語が消えたあたり、こちらが素なのだろう。
 俺も堅苦しいのは好きじゃないからな。

「何をニヤニヤとしているんですか。気持ち悪い」

「失礼な」

 ひでえ。この人、俺の愛想笑いを気持ち悪いと言い切ったぞ。

「とにかく、脱獄した人間を野放しにしておくのはいけませんね……今すぐ聖騎士に引き取ってもらわないと」

 おや、どこで選択肢を間違ったのか、早くも俺の異世界ライフが終わる予感が。待て、エンディングソングを流すんじゃない。

「えーっと確かこのソファの裏に……」

 女性はそう言って、俺に背を向けた。あ、背中に虹色の石が付いてる……見る角度で色が変わるのか。
 
 じゃなくて、どうなってんだ異世界。ソファの裏に聖騎士を呼ぶボタンか何かがあるのか?だったらそのソファはかなりハイテクだな。剣と魔法が飛び交う異世界にあってもいいのかよ。
 だめだ、早く何とかしないと。

「あ、そういえば訊ねたいことがあるんだけど、一つだけいい?」

「何でしょうか?3秒以内にお願いします」

 早くね!?

 女性はソファにあるボタンを探しているのか、俺に背を向けながらそっけなく答えた。

「と、とりあえず、あなたの種族は何ですか?」

「……」

 おーっと俺氏、いきなりド直球な質問!
 これは怒られても文句が言えないレベルだぁーっ!

 しかし、効果はあったようで女性の動きが止まった。

 この世界に召喚された直後から、人の肌の色は嫌でも目に付く。

 召喚された場所にいた人間は、全てがペールオレンジ。つまり、何年か前まで『肌色』と呼ばれていた色だった。
 つまり、日焼けでもしていない限り、この世界の種族『人』は、ほとんどが『ペールオレンジ』であることがわかっている。
 だが、目の前の女性はどうだろうか。上半身は黒いポンチョのようなもので隠れているが、足は歩きやすさを重視したのか濃い青色のショートパンツを履いている。つまり、足が出ている。
 顔も先ほど確認したが、やはり薄紫色だ。

 しかし、女性は後ろ向きのまま固まっている。
 そして、故障したロボットのようにぎこちない動きで元の姿勢、俺と対面した姿勢に座り直した。

「……」

「……」

 しばらく無言の時間が過ぎたが、先に口を開いたのは女性だった。

「な、なんのことでしょうか?私は『人』ですよ?」

 苦し紛れなのか、嘘がつけないのか、明らかに嘘と分かる言葉を顔を背けながら紡いでいた。

「いや、だけど……あなたの肌、どう見ても薄紫色ですよね?」

「え、水色のはずだけ……いや、今のなし」

 女性は口を滑らしたのか、冷や汗をかきながら後ろを向いた。それは先ほどのように、聖騎士を呼ぶためではなく、さらなる追求から逃れるかのごとく素早い動きだった。

 だが、今の言葉で引っかかったものがあった。

 『水色のはず』。そう彼女は言った。

 じゃあ、俺が見ているものは一体なんだ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

処理中です...