俺の相棒は規格外!?剣士なのに守られるなんて真っ平御免だ!

誘真

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第2章・任務開始

顔合わせは一触即発!?

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指定された時間が夜中なので、一度仮眠をし、黒の服に着替えてその時を待つ。
腰にはアドルフから借りた剣が。
王都に来てまだ会っていない。今日は返せるだろうか。

心なしか緊張していると…いつもと変わらないユーリが部屋に来て、即座に結界を張る。

「宿屋の人にバレずに抜け出すよ。窓から出たら、ボクにしっかり掴まって」
「掴まる?どうしてだ?」
「ボクの風魔術で屋根の上を移動するのさ。のこのこ地上を歩いていたら、見回りに捕まるよ?まあ、ボクだけなら影移動で一瞬で行けるんだけどね…」

窓をちらりと見た。

「結界を解いたら音を立てないで。カーテンと窓はきっちり閉めてね」
「分かった」

部屋に色が戻り、ユーリが静かに窓を開ける。
俺も続いて外に出て、静かにカーテンと窓を閉める。
鍵は掛けられない…と思ったら、ユーリが影を動かして締めた。
便利すぎるだろ、闇魔術…!

手招きされたので近付き…しっかり捕まるってどこに?
俺が躊躇しているのを見かねて、ユーリが首に飛び付いてきた!
屋根の上だぞ!?バランスを崩さないよう、ユーリを抱え踏みとどまる。

テメェ…!俺の怒りは通じているはずだが、ニンマリ笑って体勢を変えて…気付けは俺がユーリを横抱きに…いわゆる姫抱っこをしていた。
何だこの体勢は…!と更に怒りは募るが、身体の周りに風を感じたのでそちらに集中する。
ユーリが顔を俺の耳元に近付け…「跳んで!」

言われた通りその場でジャンプすると、風が足元に集まり、いきなり隣の屋根へ跳ばされた!
着地の音が鳴る…!と身構えたが、足元に空気の層を感じ…静かにふわっと降りた。

…心臓はバクバク鳴っている。
この一連の動作を、予告なしでいきなりやるヤツがあるか!?
殺意を込めた目で睨み付けてやるが、当の本人は全く気にしていないようで…。

怒るだけ無駄だと悟ったので、後はユーリの指示に従うだけの人形に徹した。




屋根の上をピョンふわピョンふわ跳んで行き…時間にして10分程度か?商業地区の南側、治安の悪そうな場所に着いた。

「下に降りるよ。浮遊感が強くなるけど、絶対に声を出さないでね」

声に合わせジャンプすると…今まで覚えのない感覚が。
自由落下の強い風と内蔵が上がる気持ち悪さで、無意識にユーリを強く抱き寄せる。
地面が近くなり…ヒヤッとした時、足元にさっきより分厚い空気の層を感じ、ふわっと着地した。

「上出来!絶対に声を出すと思ったよ」

落下の恐怖からまだ戻れない俺は、固まったままユーリを睨み付ける事しか出来ない。

「ほら、名残惜しいのは分かるけど、そろそろ離してよ。それともこのまま運びたいのかな~?」

 誰が!手が固まって動かないんだよ…!
大きく深呼吸し、ゆっくり手を緩める。
それを察知したユーリが俺の首から手を離し、ピョンと飛び降りた。

「はぁ~…」

固まっていた腕をグルグル回し、首を左右にバキボキ。
よし、いつも通りだ。

「お前な…先に説明しとけ!風で跳ぶなんて、初めてなんだよ!」
「ボクが自分で跳ぶつもりだったんだよ?キミが捕まらないから悪いんじゃないか」
「捕まるって、こんなチビのどこに捕まるんだ!肩か?頭か?」
「腰だよ。遠慮せずに、むぎゅっと抱き付けば良かったのに」
「…身長差という意味を知っているか?」

抱き付いて、そのままバックドロップかましてやろうか。

「はいはい、もう近くだからね。グダグダ言ってないで行くよ」
「何で俺が悪くなってるんだ…!」

俺を無視し、暗い道をスタスタと歩く。
ユーリは暗闇でも見えるだろうが、俺は違う。

「待てよ…!」

急いで追い掛けるが、曲がった先は漆黒で。
ヤバイ、何も見えない…。
俺の動揺を感じたのか、ユーリが戻ってきて手を差し出した。

「ほら、見えないんでしょ?行くよ」
「お、おう…」

手を握り返し、引かれるがまま歩く。
時々左右に振られるので、何か障害物があるのだろう。
狭い路地の壁を探りながら、慎重に足を出す。

「ここだよ」

ユーリが止まるが、何も見えない。ここに扉があるのか?
キィッと軋む音がし、手を引かれ…音が反響したので、恐らく中に入った。

「階段だから気を付けて」

足で探りながらゆっくり降りると、下に仄かな灯りが見えた。
光源が小さすぎて周囲を照らしてはいないが、光を見るだけでホッとする。
階段が終わったらしく、誘われるように光に近付くと…

「…何だ?手なんか繋いで。仲良しこよしなら他でやれっつーの」

暗闇の奥から、不遜な男の声が聞こえた。
握られている手にギュッと力が入る。

「うるさいなぁ。見えないのが悪いんでしょ。どうしてこんなに暗いのさ」

ユーリとは思えない冷たい声。
そしてユーリが光に近付き手を翳すと…周囲が明るく照らされた。魔道具に魔力を注いだようだ。

部屋の奥にいたのは、緑の目をギラつかせた青年。俺より若そうだ。
座っているので体格は分からないが、騎士にしては細い。
髪の色は赤色なので火属性だが、あの暗闇で見えていたのだから、闇属性も持っているのだろう。
本物のゴロツキに見えるが…ここにいると言うことは仲間、なんだよな?

「…精鋭揃いなんじゃねぇの?まさか見えないヤツがいるなんて、予想外だよなぁ?」
「得手、不得手はあるよね。何でも自分基準で考えない方がいいよ」

俺に向かって挑発した青年を、ユーリが嗜める。

「手を繋ぐとかありえねぇだろ。任務でもそうすんのか?あ"?」
「役割分担すればいいでしょ。昼間の活動は積極的にさせるつもりだよ」
「夜はどうすんだ?オレらは夜がメインだぜ?」
「…暗闇でも見える魔道具を用意するさ」
「言ったな?人数分用意しろよ」

言葉の応酬の結界、青年に軍配が上がった。
青年がニヤリと笑い、ユーリが苦い顔をしている。

「魔道具が欲しいって、スッと言えばいいのに…。本当に可愛くない…」
「お前がやり込められるなんてな」

ムッとした顔を向けて来たが、珍しく反論はなかった。
本当に図星なんだろうな。
でも今の遣り取りから、2人が相識の間柄だという事が読み取れた。

「知り合いか?」
「…ちょっとね」
「何だ?オレらの仲が気になんのか?ヒョロっちい兄ちゃんよ」
「ヒョロ…「後で説明してやっから、全員揃うまで待ってろ」

一方的に会話を切られ、口を噤むしかない。
この青年には場を支配する能力があるようだ。
ちらりとユーリを見ると、こっちを見て肩を竦めながら首を横に振る。お手上げって事か。
もう何も話さない方がいいだろう。

壁際にある木箱に腰掛け…ユーリも隣に座った。
手持ち無沙汰に広く無機質な部屋を見回すと、左側に1階の入り口に繋がる階段があり、正面は木箱が高く積まれ、右側は青年が座っている後ろの壁に扉が2つあった。

壁や天井近くは明かりが十分じゃないが、床は黒くなっている。闇魔術で結界を張っているのだろう。

と、入り口の開く音と、人の声がした。

「うへぇ!中も暗いよ~」
「これでよかろう、鬼火」

青く落ち着いた光が階段を照らす。
そこにいたのは2人の男女。

「あれ~?僕ら、遅刻しちゃった…?」
「焦るな、時間丁度だ」

階段を降り、部屋の中央にやってきた。
ユーリが立ち上がったので、俺も続き部屋の真ん中へ行く。

「これで全員でしょ?“リーダー”」

ユーリが最初にいた青年の方を見た。
…こいつがリーダーか。何となく、納得出来る気がした。

「出だしのメンツは揃ったな。後々増えるかも知れねぇが、今はこの5人で一つのチームだ」

皆を見回す視線は鋭く、思わず目を逸らしたくなる。
全員をじっくり観察した後、口を開いた。

「全員、メンバーの把握からしねぇとな。まずは…ユィ「ユーリだよ」
「ユーリ?今回はそう名乗ってんのか?」
「何だっていいでしょ。ボクからね」

ふうっと息を吐き出し、耳を見せながら顔を上げる。

「ボクはユーリ。属性は風と闇で、魔力は最強。大抵の術は使えるし、編み出す事も出来るよ。こう見えて皆より年上だから、見た目で侮らないでね」

ちらりとリーダーを見る。が、フンッと鼻を鳴らされた。

「へぇ~エルフだ!僕よりも強そうだねぇ…」
「お前も血を引いているではないか」
「ほんのちょっとね、かなり薄いよ~」
「珍しい属性でもあんのか?紹介しろよ」

リーダーが男に向かって言う。

「僕ね。名前は長いからティムって呼んで?エルフの血は入っているけど、見た目通りの28歳だよ~。属性は水と…ちょっとだけ聖も使えるよ。ちょっとだけ、ね」

ふわっとカールした水色髪の青年…ティムは、黄緑のタレ目で優しそうな顔をしている。しかし身長は俺より高く、筋肉も多くはないがそれなりについていた。
腰に下げた剣も重そう…って、護身用の細剣だけ?

「ティムの剣は?置いてきたのか?」
「あ~それね、良く間違われるんだけど、僕って術師なんだよね~」
「その体格で!?」
「男の術師は珍しいけど、エルフの血を引いていると術に長ける傾向があるからね」

ユーリが補足してくれた。

「剣はセンスがなくてね~。一応使えるけど、技を出すより適当に振り回す方が効率良いって言われちゃった」
「ティムは身長が高い分、リーチも長いのだ。技は使えなくとも侮れないぞ」

一緒に来た女がフォローする。
確かにあの長身で剣を振り回されると、こちらから攻撃は仕掛けられないだろう。後は体力勝負になりそうだ。

「術、何が使えるか教えとけ」
「ええっと、水魔術は一通り何でも出せちゃうかな~?水球や水弓の攻撃はもちろん、水壁の防御も出来るよ。でも魔力は普通の騎士レベルだから、大量とか長時間は無理だね~。聖は…回復ぐらい?凄く疲れるし、あんまり試したことがないんだよね~」
「属性と身体が合ってねぇのか…。でも回復は使えるな。後は解析が欲しい、訓練しろ」
「え~、嫌だけど…分かったよ」

リーダーに睨まれ、ティムは渋々了承した。

「で、オマエは何が出来る?」

次に振られたのは、サラサラの赤髪を高い位置でポニーテールにした女。
腰にそれなりの剣を下げているし、ティムのペアだろう。

「私の名はマリーシャ。マリーと呼んでくれ。火魔術も得意で、攻撃防御共に使える。だが魔力が多くなく、剣士となった。今はティムのおかげである程度補充は出来るが…術師として戦力になると思わないで欲しい」

マリーの凛とした黄色い目が光る。完全に前線で戦う剣士の目だ。
男勝りな話し方も、剣士として男に負けない、強い意思の表れなのかもしれない。

「…そりゃあ、剣士として使えるなら文句はないぜ?筋力強化は出来んのか?」
「喧嘩を売っているのか?私は剣士だぞ。筋力も瞬発力も、どちらも自在に上乗せ出来るに決まっているだろう?」

そう言うと、近くの木箱に向かって歩いて行き…バキッ!素手で木箱を叩き割った。

「これで文句ないだろう?」
「まあ、一般的な剣士のレベルはあるって事か」
「…今ここで手合わせ願おう。剣を抜け!」
「ちょっと、マリー!」
「勘弁してくれよ!そんな短気でこれからの任務は出来ないっつーの!」

ティムが嗜め、リーダーが天を仰ぐ。
マリーは沸点が低いようだ。こんな人がゴロツキ役なんて出来るのか…?

「…失礼した。だが私は男より強い自信がある。剣士として存分に役立とう」
「オマエの性格は分かった。はぁ、頭が痛いぜ…」

リーダーが深く溜め息をついた後、項垂れたまま俺を見た。

「で?一番ヤバそうなオマエは?」
「ヤバそうって…」

反論したいが、前髪から覗く目付きが怖すぎる。
ここは大人しく従っておこう…。

「…俺はダグラス。属性は土だが、魔術は使えない。魔力も少ない。だが騎士になる前から自己流の剣術で魔物を倒していた。それに瞬発力を上乗せすれば、誰にも負けない自信がある」

…セールスポイントが少ないのは分かっている。
属性は1つしかないし、そもそも魔術が使えない。
剣士としてペアを組んだ経験もない。
誇れるのはスピードだけだ。

「…細くて筋力は見込めない…と。魔力で瞬発力を上げて、前線を引っ掻き回すだけってか?」
「筋力を上げて、一般的な剣士として戦えるぞ!」
「少ない魔力が切れるまでの間限定で…か?ってか、オレが望むのはそんな普通の騎士じゃねぇ」

4人の顔を順番に見回し…

「今回の作戦で一番重要なのは“騎士らしくない”事だ。ガラの悪い女、なよっとした優男、ガキ、ヒョロガリ…。見た目は完璧だな」

カチンと来るが、確かに事実だ。

「各々が得意分野を生かしてゴロツキの真似をして、教団が引っ掛かるのを待つしか方法がねぇんだ」

リーダーが背筋を伸ばし、真剣な顔をする。

「オレの名はアレス。教団に顔が割れちまってて表の作戦には出れねぇ。その変わり、オマエらのゴロツキとしての役割を全力でサポートしてやる」

さっきまでとは別人のように、目に強い意志が宿る。

「1人でも捕まったら終わりだと思え。オレらは一蓮托生だ。騎士団にも切り捨てられる。だがそうならないように、全員が最善を尽くす。バレるな、逃げろ。それがチームのルールだ。分かったな?」

「おう」だとか「はい」だとか、各々バラバラに返事をして締まらない。
が、皆の目にもアレスと同じ、強い光が宿っていた。

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