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第2章・任務開始
遠路はるばる、やってきました初王都!
しおりを挟む王都を囲う壁が見えてきた。
この辺りに魔物は出ないのに、砦の様にしっかりしている。
「堅牢な壁でしょ?王都に出入りする場所は4ヵ所しかなくてね。中で何か起こった時、この4ヵ所を閉鎖して、逃げられないようにするのさ」
「えっ、でも“影”に潜られたら終わりなんじゃないのか?」
「もちろん。他にも壁を乗り越えられる者には意味がない措置だけど、でも“その”時に逃げた者は無条件で追跡・確保する事が許されているんだよ」
目の前の壁が、牢獄のように見えてきた。
「ちなみに…王都は教団と騎士団の共同警備だけど、権限を持っているのは教団さ。城の警備や出入の解析は教団、街中の見回りや郊外の警備は騎士団と、かなり格差があるよ。…警備は全て教団と思った方がいいかもね」
「それじゃあ…」
「うん。ボク達が怪しまれたら、間違いなく捕まるね」
アドルフに聞いた時から危険は覚悟していたが…予想以上かもしれない。
「ほらほら、暗くならない!今は“地方から出てきた若造”だからね。これから王都で一獲千金を夢見る、希望に溢れた顔を作ってよ?」
「…どんな顔だ!」
両側が畑から整備された草原になり、街道も土から石畳に変わった。
この辺りから王都の管理区域なのだろう。
馬車は列を成したまま、ガラガラと音を立て王都の入り口へと進む。
見上げるほど高い壁は分厚く、上には見張り台もある。
壁の外と中の2ヵ所に分かれた解析小屋も大きくしっかりとした造りで、前の街と規模の違いが一目で分かった。
壁を潜る瞬間は緊張したが…それは目の前の光景に霧散した。
「凄い…!」
石造りの街並みは全体的に灰色だが、窓枠や扉など木製部分は様々な色で塗られており、また道や玄関や出窓にはたくさんの花が植えられていて、とてもカラフルだ。
道は広く綺麗に整備されており、馬車も走りやすい。
なのに建物は無秩序で、歪な形の土地が連なり隙間がないほど密集している。高さもバラバラだ。
そして…奥に小さく見えるのは…城?
「綺麗でしょ?建物は昔のままだけど、道は100年ぐらい前に整備されたんだよね。扉とか窓枠の色や花も、その時にルール付けされたみたいだよ」
「へぇ…!皆で綺麗な街並みを維持しているんだな。で、あれが城?」
「そうだよ、ちょっと遠いけどね」
「この規模の街、全てを壁で囲んでいるのか…?凄いな…」
高い建物に両側を挟まれ、でもカラフルなおかげで威圧感は感じない。
初めての街並みにキョロキョロしてると…
「もうそろそろ落ち着きなよ。田舎者みたいで恥ずかしい…って、田舎者だっけ」
「…ユーリも“初めての”王都で緊張してるのか?もっと色々見てもいいんだぞ?」
俺がニヤニヤ笑いかけてやると、珍しく苦虫を噛み潰したような顔をした。
いつもと逆だな。
「…ボクはいいよ。それより行き先は知ってるの?」
「そうだった!周りに圧倒されて、単純に街道を走ってたぞ」
「だと思った。先ずは宿だね」
ユーリは鞄から、何やら紙を取り出した。
「2本先の十字路を右に曲がって。しばらく真っ直ぐかな」
「宿屋の場所が書いてあるのか?」
「うん、事前に調べておいたんだ」
そう言うと、人差し指だけを伸ばして口の前に持っていった。所謂「しー」のポーズだ。
これも何かカラクリがあるんだな…?
「そこを左…」
段々道が狭くなっていく。馬をゆっくり歩かせ、場所を確認しながら進む。
「ここを右、かな?…あった!」
パッと見は周りの建物と何も変わらないので、宿屋の看板が出ていなければ見落とすだろう。完全に街に溶け込んでいた。
「馬車置き場がないぞ」
「とりあえず…今日は預け屋に行くしかないかな。ちょっと聞いてくるよ」
教えてもらった最寄りの預け屋に置き、チェックインする。
受付にいるのは、恰幅の良い女将さん。
「食事は付けるかい?ウチは食堂はないから、部屋に運ぶよ」
「じゃあ今日はお願いしようかな」
「はいよ、今晩と明日の朝だね。明日以降も追加するなら言いな」
部屋は5階で最上階…と言うと聞こえはいいが、階段で毎回上がるのはしんどいので、料金も安くなっているのだろう。
部屋もシングルで広くない…と言うか、屋根裏部屋か?トイレも各階で共同、風呂は裏庭で水のみ。
ちょっと厳しいが…貧乏を演出するにはピッタリだろう。
部屋はユーリと隣り合っており、斜めになった壁…というか屋根の窓を開ければ、登って隣の部屋にも行けそうだ。
荷物を置き部屋をチェックしていると、無断で扉が開かれた。
「…鍵ぐらいかけなよ」
「忘れてた…って、勝手に入って来るなよ!」
例に漏れず俺の言葉は聞いていないらしい。
後ろ手に鍵を閉め、椅子がないのでベッドに腰掛ける。
「これからの説明をするよ」
何の動作も音もなくユーリから闇が放出され、部屋が黒く染まった。床も壁もベッドも真っ黒、窓のガラス部分も黒く外が見えない。
「何だ!?」
「ボクの闇魔術の結界だよ。幌馬車の中の簡易版と違って、これは本式」
「こんな街中で大丈夫なのか!?」
「さっきも言ったでしょ?ここで闇魔術が使われているのは教団にも騎士団にもバレているけど、それを暴かないのが王都でのルールなのさ。それに闇魔術イコール悪事を働く訳じゃないしね」
「そりゃそうだけど…。でも場所がバレるのは不味くないのか?」
「それも含め、闇魔術が使える者は積極的に使うのが王都での暗黙のルールさ。闇魔術の使い手は多くない。皆多かれ少なかれ悪事に使ってるんだ。木を隠すなら森の中、普段から積極的に使って、悪事を埋もれさせるのさ」
確かに、砦に来る騎士も闇属性持ちはほとんどいなかった。
エルフの血を引く者にしか適正がないと聞くし、数は少ないのだろう。
「とりあえず…ボクもこれからの作戦は知らないから、今から影に潜って聞いてくるよ。キミは部屋にいて、料理を持ってくる女将にボクの不在を隠して」
「分かった」
「何か分かれば戻ってくるけど…今日は無理かもしれない。ボクがこの部屋に来るまで、キミは宿屋から出ないでね」
そう言うと影に沈んでいった。と同時に、部屋に色が戻る。
闇の結界の中に入るのは初めてで、不思議な体験だった。
「仕方ない。俺に出来ることはないし、鍛練でもするか…」
部屋の中で出来る筋力トレーニングをし、女将さんが持ってきた2人分の夕飯を食べ、水を浴びて眠りについた。
翌朝、浮かない顔のユーリが戻ってきた。
「どうしたんだ?」
「…うん、ちょっとね…」
そう言うと、いきなり俺に抱きついて来た!
「おっ、おい!何だよ!」
「はぁ~癒される…。ボクはキミみたいな何も考えていない人が好きなんだよ…」
「それ褒めてねぇ!ってか離れろ!」
「はいはい…」
離れながら結界を張る。
癇癪を起こす子供を見るような、達観した表情は止めろ!
そもそもお前のせいだろ…!
「今回のリーダー…とされている人が苦手なんだよね…」
本気で嫌なんだろうな、はぁ~っと深い溜め息を付いた。
「まあ言ってても仕方ないし、今日の予定を伝えるね。先ずは馬車を売って、当面の資金に変えるよ」
「騎士団の持ち物じゃないのか?」
「分からないけど…売るのは騎士団の息のかかった店にするから、必要なら団が買い戻すでしょ」
「それならいいか。俺達も金がないしな」
アドルフに預けたままなので、手持ちはもうかなり少ない。
この宿屋代は先に払われているらしいが、そうでなければ泊まれない程だ。
「まあ、ボクは毎晩家に帰るけどね」
「…何だと!?」
「そりゃそうでしょ。こんなトイレは共同、お湯も出ないような安宿はゴメンだよ。一応男爵だしね」
「俺は!?」
「キミはここでアリバイ作りだよ。ボクの不在はしっかり隠してよね」
何だと…!俺が水を浴びて我慢しているのに、ユーリは毎晩快適な家暮らしなのか!?
不公平過ぎる!が、これも任務の内だ。俺は自分の仕事を全うしよう…。
「…それで、その後は?」
「ボク達は田舎から出稼ぎに来ている設定だからね、職業を探しているフリをするよ」
「どうやって?」
「王都には職業斡旋所があるから、先ずはそこに行こう。その後で面接に行くけど断られるのを数日繰り返すかな。で、職がなくてゴロツキになる…ってのがスタートまでの作戦だね」
「ゴロツキにならないと始まらないもんな…。でも面接で断られるってのは?どうするんだ?」
「大丈夫。既に協力をお願いしてあるから、形だけの面接で落としてもらうよ」
そんな所まで手を回しているのか…。
感心していると、急にユーリが結界を解いた。
「ん?どうした…」コンコンコンとドアがノックされる。
「朝ごはんだよ!開けとくれ!」
「はーい!ちょっと待ってね」
ユーリが扉を開くと、トレイを持った女将さんがいた。
「丁度良かった。これ2人分だからね、食べたら下に持ってきておくれ」
扉を閉めて、階段を降りる音を聞く。と、ユーリがまた結界を張った。
「外の様子が分かるのか?」
「普通は無理だけど、ボクは訓練を積んだからね。結界に近付く物があれば分かるのさ」
ユーリはベッドに、俺は床に座り朝食を頂く。
ナンのような薄いパンに、バターを塗って好みの香辛料をかけるだけ。
王都に来ても基本の食文化は変わらないようだ。
「そう言えば…周りはこんなに黒いのに、中は普通に見えるんだな」
「空間を闇で埋めている訳じゃなくて、境界線だからね。分かりやすく壁や床を境界にしているだけで、形は変えられるよ。結界の中を闇で覆えば真っ暗にも出来るけど、必要ないでしょ」
「窓も黒いけど、外からはどう見えているんだ?」
「普段通りだね。この黒は中からしか見えないよ」
「へぇ…面白いな」
食べ終わり、片付け、馬車を売りに出掛ける。
道中一緒だったので少し名残惜しいが、毎日預け屋に払うお金が確保出来ないので仕方ない。
言われるがまま馬車を走らせ、買い取り屋に着いた。
「お待ちしておりました、こちらへどうぞ」
「えっ?買い取りを…」
ユーリが馬車を降り無言でついて行くので、それに倣う。
案内されたのは質素な狭い部屋だ。
促され、ユーリと並んでソファーに座り…
と、いきなり店員が結界を張った。
「うわっ!?何だ!」
「静かにしてよ、恥ずかしい…」
「驚かせてすいません。商談をする時は、結界を張る事にしておりまして…」
店員が申し訳なさそうな顔をする。
「いや、すいません…」
「これだから田舎者は。これからもこういう事はあるから、早く慣れてよね」
「…分かったよ」
前に向き直ると、既に書類が用意されていた。
「先に話は聞いております。一見古い幌馬車ですが、荷台の幌部分に結界の魔道具が仕込まれてあるそうですね?」
「そうだよ。幕を下ろして魔力を流し込めば発動するよ」
「でしたら、これだけのお値段で買い取らせていただきます」
そこに提示されたのは…俺の年収ぐらいの金額。
「ええっ!?マジかよ!」
「まぁ妥当だろうね。ボクはこれでいいよ」
「ボロ馬車だぞ!?高過ぎないか!?」
「結界の魔道具が付いてるんだ。むしろ安いぐらいだよ?」
「そうですね、荷台がもう少し新しければもっとするのですが…。壊れると結界も張れなくなるので、使用出来る回数が少ないと判断しまして、これぐらいで」
桁の違いに呆けている俺に、ユーリがペンを渡してくる。
「ほら、売却書にサインしてよ。キミは本名のままだからさ」
「いや、そうじゃなくて、やっぱり高過ぎ…」
「大丈夫。対外的に結界が付いている事はバレていないから、ここでの取引も普通の値段だと思われてるよ。それに外に出たとき「買い叩かれた」って演技をすればいいだろ?」
渋る俺に業を煮やし、ユーリがイライラしている。
仕方がないので勢いでサインをした。
「ありがとうございます、代金はこちらに…」
店員が腰に下げている小さなポシェットに手を入れ…そこから物量に合わないだけの大金を取り出した。
「ええっ!?どうなっているんだ?」
「…闇魔術を応用した魔道具だよ。鞄の中を自分の空間に繋げて、見た目よりずっと大きくしてあるのさ」
「じゃあお前も…?」
「他の鞄と繋げたりね。昨日の宿屋の位置も、鞄に指示書が入っていたから、それを見て行ったのさ」
あの「しー」の正体は鞄の魔道具だったのか。
そしてユーリも腰に着けてる小さな鞄に大金を押し込み、残りの小金を俺に持たせた。
普通の古馬車を売った金額分ぐらいだろう。
「当面の2人の軍資金だね」
「…分かった」
店員が扉の前で「ありがとうございました」と頭を下げ、結界を解く。
来た道を逆に案内され、建物の入り口まで戻った。
「あんなに安いなんて…ガッカリだよ」
「古かったからな。仕方ないだろ」
誰か聞いているのか分からないが、一応“お金がない”アピールをしておく。
ゴロツキに落ちるための第一歩だ。
「とりあえず仕事を探さないとね…。ここからは歩いて行くよ」
「遠いのか?」
「ちょっとかかるから…歩きながら話そう」
ユーリは演技の為に出した紙を見ながら歩き出す。
「王都は北にある城を起点に作られている。城から扇状に出ている4本の道と、それを横切る大きな川で、6つに分けられている…だって。泊まったのは川の南側、一番右端の東地区で、一般市民が住むエリアだね。今いるのがその隣の商業地区。真ん中は教団地区で大聖堂と教団学校があって、関係者が多く暮らしているみたい」
「あれか…」
高い建物が並ぶ王都でも、道の合間から更に高い尖塔が見えていた。
どうやらあれが大聖堂らしい。
「そしてその隣が騎士団の本部や騎士学校がある騎士団地区で、一番左端が一般人の暮らす西地区だってさ。貴族が住むのは川を隔てて北地区で、ここに入るには城からの4本の道にある橋しかなく、警備が厳しく住人以外は通行禁止。つまり一般人は城にも近寄れないって事だね」
「なんだそれ!?陳情とかどうするんだ?」
「そもそも受け付けていない…かな」
教団も腐っているが、やはりそれを手を組んでいる王族も腐っているようだ。
国民を何だと思ってやがる。
「そして…注意して欲しいのは西地区、商業地区、東地区の南の方、つまり街の出入り口のある方だね。大きな道を外れると入り組んでおり、警備の目も届きにくく、治安が悪い…だってさ」
ユーリが目配せしてくる。
つまりは…ゴロツキの拠点になるという事だろう。
「ボク達が目指すのは、同じ商業地区の職業斡旋所だね。ここよりも城の方向だけど、そんなに遠くないよ」
ユーリが持っている地図を覗く。
が、田舎に地図なんてなかったし、砦の集落も歩いて覚えたてので、地図の見方が分からない。
「城は…どれだ?」
「上の北にあるでしょ…って、もしかして、地図が読めない…?」
「ああ。こんな詳細な地図は初めて見たぞ」
「嘘でしょ…!?今後の指示とかどうしよう…!」
片手で紙を持ったまま、頭を抱えている…。
どうやら作戦に影響があるらしい。
「今から覚えるから、教えてくれよ…」
「…それしかないね。一緒に頑張ろう…」
くしゃくしゃになった紙を伸ばし、2人で顔を寄せ合って、現在地を確認しながら歩いて行った。
「ここが職業斡旋所だよ!」
「やっと着いた…!」
あれから地図と格闘すること1時間…。
普通に進めば20分ぐらいで着くところを、現在地を見失ってユーリの解説を受けたり、見方を間違えて別の方向に行ったり、遠回りしてしまった。
でもおかげで、地図が読めるようになったぞ!…多少は。
「もっとかかるかと思ったけど、初めてにしては上出来じゃない?面接に行く時も、地図を見て練習だよ!」
習うより慣れろ方式のユーリ先生のおかげで、短期間で習得出来そうだ…。
職業斡旋所は周りより低く、3階建てで横に広い。
王都にしては珍しい造りだ。
「国が運営している施設だからね、土地があるから上に高くないのさ。他にも教団関連や学校や集会場は低いから、見れば分かるよ」
中に入ると横に長いカウンターがあり、人がたくさん座っていた。
カウンターの奥が斡旋受付人で、手前が俺達のように職を探しに来た人のようだ。
右手の壁には職業の内容紹介や職業学校の案内が貼ってあるが、俺達には関係なさそうなのでスルー。
左手の壁には求人情報が貼り出してあり、まずはこの中から気になる職を選ぶのだろう。
俺達はもちろん左の壁に行き、求人情報に目を通す。
「土魔術で家の基礎造り」「風魔術で高い木の伐採」なんていう魔術必須の人を選ぶ職業もあれば、「店番」「荷物運び」「子守り」等の誰でも出来そうな職業もある。
不思議なのは「食堂・火の魔道具を起動させ続ける」や「工場・水車の魔道具を動かし続ける」等の、魔石さえあれば人の魔力は必要ないのでは…?という内容の求人も多々ある事だった。
「魔石は使わないのか?」
「普通は高くて使えないからね。人を雇って人件費を払った方が遥かに安いよ」
「…俺の村の魔石は、そんなに高く買ってもらってないぞ…?」
ユーリが力なく冷笑を浮かべる。
魔石を買い取っているのはどこだ?国だったはずだが?
…また一つ、王家の闇の部分を知ってしまった…。
「とにかく、今日はここに面接に行くよ」
「“給仕”?」
「そう。これなら素人でも出来るでしょ?」
ユーリが目配せをしてくる。ここには話が通っているのだろう。
「ああ。俺にも出来そうだ」
壁から求人の張り紙を外し、カウンターへ持っていく。
「この面接を受けたいんだけど」
「こちらでしたら…直ぐにでも受けられますよ。この紙が斡旋所を通した証拠になりますので、こちらを持って直接お店に行って下さい」
「ありがとう」
求人に書いてある地図は分かりにくいので、ここまで来るのに使っていた地図にユーリが印を付けてくれた。
「大体歩いて15分かな。さて、ダグラスは何分後に着けるでしょうか?」
バカにしたようにニヤニヤ笑っているのがムカつく…けれど、直ぐに行けると思えないので黙っておく。
予感は的中し、迷いに迷って到着したのは1時間後だった…。
「…今日は良く歩くねぇ…」
「運動不足の解消に、ちょうど良いだろ?」
ユーリはバテ気味だ。騎士なのに情けない。
「すいませーん…。求人を見て来たのですが…」
中に入ると休憩中らしく、客はいない。
厨房からガチャガチャと音が鳴っているので、店主はいるのだろう。
「すいませーん!」
「悪いな!今夕方の仕込み中だ!」
「いえ!客じゃなくて面接に…」
「ああ!ちょっと待っとれ!」
少し待って…出てきたのは体格の良いオッサン。
料理人とかけ離れているので驚いたが、理由はすぐに分かった。
「元騎士だ。今でも習慣になったトレーニングを欠かせなくてな…」
力瘤を作り、俺の憧れの筋肉を見せ付けてくる。
引退後でその体格は羨まし過ぎるぞ…!
「お前達は…アレだろ。ほら…アレだ…」
そう言ってユーリを見るので、察したユーリが結界を張った。
「そうそう!これがないと、話したい事も自由に話せん。嫌な世の中だ」
「おじさんはボク達の事、聞いてるの?」
「ああ、デコボコな2人組が面接に来たら、適当に相手して帰してくれとな」
「そっか。協力してくれてありがとうね」
「いやいや、教団を止めるんだろ?俺達国民も、教団や王家には怒っている。行動に移す勇気はないが、協力は惜しまん!」
オッサンから熱い闘志を感じる。
教団や王家に対する怒りの声を直に聞いた事がなかったので、新鮮に思えた。
結界なしで言って聞かれると、不敬罪になるからな…。
その後もオッサンの作った軽食を食べながら雑談し、30分が経過した所でお礼を言って店を出た。
「…ダメだったね」
「仕方ない、他を当たるか…」
演技もバッチリだ。
今日は辻馬車を拾い、東地区の宿屋まで戻った。
次の日も辻馬車で商業地区へ行き、面接用紙を持って雑貨屋へ。
その次の日は八百屋。更に次の日は工場の魔石代わり。
…どれもダメだった、という演技を続けた。
「もうそろそろ古馬車を売った金が尽きるぞ?」
「どうしよっか…。魔道具を動かす仕事ですらダメだなんて…」
悲壮感を漂わせて宿屋に帰る。
…実際、毎日地図を睨んでいて、疲労は蓄積されている。
そろそろ作戦に動きが欲しい…と思った矢先。
ユーリが部屋に入り結界を張る。
「鞄に指令書が入っていてね。…今日の夜から、ゴロツキ始動だよ」
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