終わりのない、閉じ込められた世界で

誘真

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拭えない違和感

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通気孔に入ると、奥は暗い…と思いきや、所々に光源がある。
そう言えば水路も明るかったわね?それどころじゃなくて気付かなかったけど。
でも水路はともかく、この通気孔はおかしいんじゃないの…?

女性が全員入ると、男性3人組(金髪)が来た。

「ボクは力仕事は出来なくてね~。ゴツい友達がやってくれるんだよ~」

そう言えば3人組は眼鏡・金髪・残りはアメフト選手か!ってぐらいゴツかったわね。

「ほら、後ろは男に任せて、レディー達は先に進もう?」

私の疑問を悟っているのだろう、目配せしながら先へ促す。
…そっちがそのつもりなら良いわよ、後で聞いてあげようじゃない。

金髪は先を知っているようで、分かれ道でも迷わず進んでいく。
後ろでは重いものをズリズリ擦る音が聞こえて、通気孔の入り口が閉じられたようだ。
これで時間稼ぎも出来るでしょ。

少し進むと何本もパイプが通る、広い空間に出た。地下の換気扇のダクトみたいね。
…こんなにダクトがあるのが不思議だけど、今はそれは置いておいて。
だってここにも光源がある。何故?

「よし、これで大丈夫だろう。この後どうするか、少し作戦を練ろう」

リーダーが腰を下ろすと男3人組(ゴツい)が、パイプの裏から水と食料を持ってきた。
え?どうしてそんな所に?さっきの小部屋なら分かるけど、ここは人が来るところではないのでは…?

でも誰も疑問に思ってないみたい。気にならないのかな…?
勇気を出して質問してみる。

「あ、あの…。ちょっとお聞きしたい事があるんですけど…」
「アジアン、どうした?」

リーダーが真面目な顔をしてこっちを向いた。
アジアン?それってさっき金髪が言ってたやつ?

「あの、私の名前はさ「言わなくていい!」

リーダーの大きな声に、身体がビクリとした。

「…すまない、追われている時に大声を出して…」
「本当に。気を付けて下さいよ。ここで時間稼ぎ出来ないと後が辛くなる…」

え?何?

「…全員分の名前を覚えている時間はない。見た目や特徴で呼び合えば十分だ。悪いが貴女は“アジアン”と呼ばせてもらう」

…まあ、確かに理にかなっている…かな?
でも大声を出してまで遮る必要ってある?しかも必死な感じだったし。
…別にいいけど。こっちだって勝手にあだ名付けてやるから。

「…分かりました。私は貴方の事を“リーダー”と呼ばせてもらいますね?」
「リーダーですって!」「マジかよ」

周りでくすくすと笑いが起こる。え?何か違った?
感じ悪いなぁと眉をひそめると「ごめんなさいね?」とリーダーの奥さん?が隣に座った。

「ウチの人、おっちょこちょいでリーダー気質じゃないの。初めて見る貴女には、しっかりしているように見えたのね」
「…そうでしたか。最初に誘導してくださったので、しっかりしてる方だなぁと」

私達の話を聞いていた「リーダー」が、ゴホンと咳払いをしながら会話に入ってきた。

「えー、私の事は「社長」と呼んでくれ。この辺で有名な会社の社長でな」
「何も出来なくてもふんぞり返ってるとことか?ウケるよね~」
「金髪男!余計な事はいうなよ!」

金髪は楽しそうな顔をして、肩をすくめる。
ってか「金髪男」って言うのね。まんまじゃん。

「それにしても…皆さん、最初からお知り合いですか?仲が良さそうですね?」
「あ…ああ、同じツアーグループだ。数日前に知り合ったのだ」
「そうなんですね」

その後、リーダー改め「社長」奥さんは「奥様」、
男3人グループは眼鏡改め「インテリ」「金髪男」「マッチョ」、
若いカップルは着ている服から「ボーダー男」「ボーダー女」、
年配のカップルは「ダンディ」「マダム」、
私は「アジアン」、
それぞれ特徴から呼び名を決めた。
確かに、これなら咄嗟の時にも呼べそうね。

って、盛大に話が逸れたわ。
何故か皆リラックスムードだし、疑問をぶつけてやる。

「あの、なぜここに電気…明かりがあるのですか?こんな所、普段は誰も通らないと思うのですが…」

皆で顔を見合せ…インテリが答えた。

「…この下に政府の地下研究室があるとの噂だ。憶測だが、秘匿している施設の抜け道として、使われているのではないか?」

ふうむ。ついさっきこの国に着いたと認識したばかりで、基礎知識はない。そうなのかも?と思うしかないか。

…というか、そもそも、ここってどこの国? 

「あの、すいません…。大変お恥ずかしいのですが、ここはどこの国でしょうか?劇場の雰囲気はヨーロッパ?かと思ったのですが…」

またも顔を見合せ…
今度は白髪のダンディさんが答えてくれた。

「ここはエーカンヌという、フランスに隣接した小さな国だよ。最近独立したんだ」
「そう…なんですか?ニュースで聞いた事がなくて…」
「元々自治権があってね。国の名前が変わっただけで、関税も貿易も通貨も言語も、対外的に何も変わらないから、アジア方面ではニュースにならなかったのだね」

確かに日本は海外のニュースをあまりしないもんな。
放送しても一瞬とかだし、何より働いているとニュースすら見れない日も普通にあるしね。

「エーカンヌ…ですか、無知ですいません…」
「いや、気にしなくていいよ」

小国なのに、規模の大きそうな地下施設とかあるんだ…?
疑問に思ってしまうが、エーカンヌの基礎知識もないので、追及する事も出来ない。
そういう物だと受け入れよう。

そして最大の謎。

「あの、国籍もバラバラなのに、全員が普通に会話出来ているのは何故でしょうか…?」
「えっ?今更~?」
「金髪男、イジワル言うな」

おおっ、初めてマッチョの声を聞いたよ。
ってか友達っぽいのに、わざわざアダ名で呼ぶんだ?

「ごめんごめん、鋭いのにこの質問をして来ないから、もう知ってるのかと思ってさ~。大抵の人は一番に聞くでしょ?」
「大抵の人…?」
「気にしないでいいよ。えっとね、劇場に入る時に翻訳機を渡されてるんだよね。劇を自動翻訳してくれるようにさ」

金髪男が胸元からペンダントを取り出した。飾りのな
い、ドックタグのような丸い金属に18と書いてある。
私、そんなの着けてたっけ…?と首を触ると、指先にチェーンがあった。
ペンダントをよく見ようとしてもチェーンが短く、着ける時のホックや、継ぎ目も見付からない。

「私も着けていますが…これ、どうやって外すのです
か?」
「ペンダントトップに国籍とかの個人情報が入力されててね。外すと翻訳されなくなっちゃうから、最後に専用の機械で外すんだよ~」
「えっ!?これを着けているだけで、こんな早くて綺麗に翻訳されるのですか?首にかけているだけなのに!?」

最近の技術って凄いな…!と感心していると、作戦会議に移ったようだ。
男性中心に「この道を進めば~」とか「この小部屋が」とか言っているが、皆こんな地下の構造を知っているのかな…?
もちろん他国民の私は役立たず…どころか会話の意味すら分からないので眺めていると、隣にボーダー女が来た。

「作戦はあっちに任せてさ、私らは休憩しとこ。この後も多分走る事になるし…」
「犯人もこんな所まで来ます?」
「…多分ね。ここ、地下の色々な通気孔と繋がってるから、1つでも調べられたら終わりかな…」

ボーダー女はボーダー男の彼女で、アメリカから来たんだって。明日帰国予定だったのに、とんだ災難だって笑ってる。

そんな他愛もない話をしていると…
ドンッドンッという鈍い音が遠くから聞こえてきた。

「…通気孔を通ってる音だな。皆、音から遠い位置に行くぞ」

銃の音は聞こえないから、犯人に追われてる訳ではなさそうだけど。
でも来るのが逃げている人か、犯人か…。

「今から逃げても音でバレてしまう。この通気孔に隠れて様子を見よう。犯人だった時は…運がなかったと思うしかないな」

先頭は金髪男とインテリ、間に女性陣、ダンディ、社長、ボーダー男、最後にマッチョの順で通気孔に入る。
金髪男は物音を立てずに先を見に行った。
マッチョが様子見と、犯人だった時はマンホールのような鉄板で通気孔を塞いで、時間稼ぎをしてくれるみたい。

中に入ると音が分からないけど、確実に近付いて来ているのだろう、後ろから緊張感が伝わってくる。
草食動物って、いつもこんな状態で生活してるのかな…。
どうか犯人じゃありませんように…!
祈るように組んだ手が、汗で滑る。
目をキツく瞑っていると…

「…大丈夫、逃げてきた人…」
マッチョが小さく声を出した。

「良かった…」

皆詰めていた息を吐き出し、偵察に行った金髪男以外は通気孔から出る。
向こうも男女混成、国籍もバラバラで8人ぐらい?
パッと見、日本人に見える人もいる!
合流出来たら心強い!…と思ったのに。

「他にも人がいたのか!逃げろ、多分俺達は気付かれた!」
「何だって!?バリケードは?」
「一応張ってきたが、存在に気付けば強引な手を使ってでも追って来るだろう!早く行け!」
「…分かった、お互い生きて会おう」

そう言い会うと、私達はさっき隠れた通気孔へ、向こうは出てきた通気孔にバリケードを張り始めた。

「…大人数になると、動きが鈍くなる。10人がマックスと思った方がいい」

インテリはそう言うと、金髪男を追って、さっさと中に入って行った。

「さあ、グズグズしていられない。でも物音は厳禁だ。音を立てない事を一番に、丁寧に動いてくれ」

社長が次に入り、後はさっきの並びで。

狭い通気孔を四つん這いになりながら、でも物音は極力立てずに進んで行った。
普段使わない筋肉だから、ちょっと進んだだけで手も足も、それから腰も痛い。
でも命が懸かってるから、泣き言なんて言ってられない…!

その時。

ガシャガシャーン!という金属音と、何か喚いている人の声が聞こえた…!
きっと犯人だ…!

ビックリして固まってしまった私を、後ろにいた奥様が軽く叩く。
…止まってる時間が惜しい。少しでも先に逃げないと…!

犯人と思われる声が小さくなったので、違う通気孔に入ったのだろう。
ホッとしたものの、引き返してここに入って来たり、
先で繋がってる可能性だってある。
まだまだ安全とは言えない。

さっき会った人達の無事を祈りつつ、私達は先に進むしかなかった。

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