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プロローグ
しおりを挟む俺は煙を燻らせながら一面に広がる空を見ていた。都会から少し外れたこの場所ではよく空が見渡せる。心なしか空気が澄んでいるような気さえした。
「…………ふぅ」
肺に溜まった煙を吐き出すと、ふわりと空へと登っていく。
初めて訪れたボロいアパート。
今、あいつはここで暮らしているのだという。久しぶりに会えるのだと考えると、どこか心の奥底がくすぐったかったし、気が早るのを自覚した。
数年前、あいつは俺のプライドをへし折ったはずなのに。
久しぶりに会った少女は一人の大人として成長していた。だからこその言葉だった。
あいつから離れた後もなぜかずっとあいつのことばかり考えていた。だが、それももう飽きた。
自分の気持ちがわからない。
ならば分からないなりに行動するのが俺じゃないか。自分のしたいように生きるのが、俺の生き方だ。
「…………こはる」
ぽつりと呟いた言葉は透明になって消えていく。獲物を狙う狩人のように目を細める。
これは俺にとって一世一代の大博打。
出たとこ勝負でいく所存だ。
ーー今度は絶対に逃がさない。なんとしてでも、この手のなかに収めてやる。
うじうじし続けるのは性に合わない。
俺は口元に弧を浮かべ、ゆっくりと流れる時間に身を任せていた。
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