【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ

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16.困りごと

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 私たちの関係は少しだけいい方向へ変わってきていると思う。二度の性的な接触を経て、お互いへのぎこちなさが徐々に薄れてきているように感じていた。

 それに、私とコルネリウスは手枷の関係もあってか同じ場所で寝泊まりしなければならない。そういう状況も関係しているのだろう。四六時中共に過ごすともなれば、段々と互いの存在に慣れてきていく……はずだ。

『仕方ない……これからも俺の家で過ごしてもらうしかいないな』

 あの日、大聖堂から帰ってきた朝、コルネリウスにそう告げられた。それからというもの、私は彼の家で過ごすことになった。考えれば分かることだが、コルネリウスが私の住む古いアパートに住めるとは到底思えないから致し方ないことだった。

 実を言うと私自身もコルネリウスの家の方が住み心地がいいことに気がついている。都心から程近く、周囲もそれなりに治安がいい。そしてなによりコンロが突然付かなくなることもなければ、床も軋まない。彼自身の性格を考えれば分かることだが、非常にが清潔で全てが新しい。

 だが、共に住み、同じ時間を過ごすことになると様々な弊害があり。

『あの……コルネリウスさま。私ちょっとお手洗いに……』

『くっ、またか……』

 コルネリウスは腫れ物に触るかのようにそわそわとしながら悪態をついた。だが、いつもの吐き捨てるような鋭さはなく、どこか遠慮がちに見える。

 そう。何より大変だったのはお手洗いだった。
 冒険者ギルドへと説明に赴く予定の朝もそうだったのだが。

『お願いしますね。耳栓をして目隠しもして……あとはこの麻袋を被っておいてください。絶対に何も見ない、聞かないでお願いします』

『わ、分かっている……』

 私は何度も断りを入れ、しつこいくらいに忠告をした。そのときだけばいつもとは立場が逆転し、私が圧倒的優位で強者でもあった。彼は身の置き場ない面持ちで、私に言われた通り準備をするのだった。

 逆の場合はというと。
 コルネリウスも気にしてはいるが、それ以上に私が喚き立てて動揺してしまう。何も聞きたくないので積極的に耳栓、目隠し、麻袋を準備していた。


 事故の後の性的な接触から2日が経っていた。私たちの日常生活の中では少しずつ遠慮というものがなくなり、無事に生活を送る事はできている。だが、解呪のための性的な接触だけはお互いに中々切り出すことができないでいた。

 そんな中、話題に上がったのが風呂の問題だ。

 2人で拘束され、お手洗いの次に面倒なもの。それが入浴の問題だ。

 平民にとってお湯は比較的貴重なもので、余程のことがない限りは湯船に浸かることはなく、身体を拭くだけで済ます場合が多い。だが近頃では好んで湯船に浸かる人も多く、特に婦女子は美容のためにも積極的に入るものも多い。そのための大衆浴場は各地に点在していた。

 そして私もその婦女子の1人で、美容を気にする年頃の乙女で。

 その日は騎士団の週に一度の休日とのことだった。

 私はコルネリウスの住む屋敷の中にある浴場を前にぽつりとつぶやく。

「コルネリウス様の屋敷にはこんなに大きな浴槽があるんですね……」

「ああ。あまり頻繁に利用することはないがな。清掃は使用人に任せているがこの屋敷に常駐しているわけではない。毎日入るならば自分で掃除をする必要が出てくる。俺は基本的に騎士団の駐屯地にある入浴設備を使うことが多い」

「えええ、こんないい設備があるのになんて勿体無い」

 私は目を丸くして愕然とした。
 人1人が足を伸ばして入ったとしても余裕でくつろげる空間。おそらく大の大人でも5人は余裕で入れるだろう。個人経営の小さめの大衆浴場であれば、この程度の大きさのものはざらにある。それを個人としては所有しているのだから、財力の底が知れない。

「いいなぁ……あの、その……少しお願いが──」

「入りたいというならば断る」

「な、なんで……」

 気持ちを読み取ったのか、コルネリウスは断固として拒否の姿勢を示した。私は異議を申し立てるように言い募る。

「こんな素敵な設備があるのに宝の持ち腐れですよ! 世の女性たちの反感を買う行為です」

「何を言って──」

「いいですか? 入浴という行為は身体を清潔に保つという他に、気分転換や老廃物の排出を促す効果もあるんです。これをするのとしないのとでは肌の状態がまったくもって異なります! だから私たち女性はは時間を見つけては大衆浴場に駆け込むんです!」

 鼻息を荒くして主張する私に対し、彼はどこか腰が引けている様子だった。その様子に思わず問いかける。

「なぜそんなにも嫌がるんですか?」

「それは当たり前だろう。年若い男女が混浴など……恥を知れ!」

 その言葉を聞き、不意をつかれたかのように瞠目した。コルネリウスの言葉の意味が一瞬分からず、数秒遅れて理解する。彼の言い分はもっともであり、世の常識から考えれば概ね正しいだろう。けれど。

「最近では男女共に入る大衆浴場もあって、平民の間では意外と人気なんですよ」

「だ、男女共に!? なんで破廉恥な……」

「破廉恥って。でもコルネリウス様。そもそも私たち混浴以上のことすでにしていて──~っ!」

 つい口が滑って余計なことを言ってしまい、思わず頬を朱に染めた。2人の間を沈黙がまたがり、なんとも言えないむず痒いような空気が漂う。私は言い間違えたと言わんばかりに、わざと咳をして切り替える。

「……もしかして、私と2人で入るのがそんなに恥ずかしいんですか?」

「……っな、なにをっ」

「もう、そんなに隠そうとしてもばればれですよ。コルネリウス様って意外とウブなところがあるんですね」

 私の分かりやすいほどの挑発でムッとしたようで、目に見えるくらいに機嫌が悪くなった。癇に障ったのか、視線を合わせる事なく鼻で笑った。

「まさか。お前の幼児体型を見たところで、俺にはなんの影響もない。そんなことを考えるとは、ウブなのはお前のほうだろう」

「そうですか。ならお風呂、使わせてもらっても大丈夫ですよね? 私の幼児体型を見てもなんの支障もないのでしょうから」

「ああ、当たり前だ」

 コルネリウスは威勢よく頷く。そこでようやく挑発に乗ってしまったことに気づいたようだった。

 私はこの数日で理解したことがある。
 コルネリウスは意外と子供っぽく、天邪鬼で負けず嫌いな性格なのだということを。
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