16 / 49
16.困りごと
しおりを挟む私たちの関係は少しだけいい方向へ変わってきていると思う。二度の性的な接触を経て、お互いへのぎこちなさが徐々に薄れてきているように感じていた。
それに、私とコルネリウスは手枷の関係もあってか同じ場所で寝泊まりしなければならない。そういう状況も関係しているのだろう。四六時中共に過ごすともなれば、段々と互いの存在に慣れてきていく……はずだ。
『仕方ない……これからも俺の家で過ごしてもらうしかいないな』
あの日、大聖堂から帰ってきた朝、コルネリウスにそう告げられた。それからというもの、私は彼の家で過ごすことになった。考えれば分かることだが、コルネリウスが私の住む古いアパートに住めるとは到底思えないから致し方ないことだった。
実を言うと私自身もコルネリウスの家の方が住み心地がいいことに気がついている。都心から程近く、周囲もそれなりに治安がいい。そしてなによりコンロが突然付かなくなることもなければ、床も軋まない。彼自身の性格を考えれば分かることだが、非常にが清潔で全てが新しい。
だが、共に住み、同じ時間を過ごすことになると様々な弊害があり。
『あの……コルネリウスさま。私ちょっとお手洗いに……』
『くっ、またか……』
コルネリウスは腫れ物に触るかのようにそわそわとしながら悪態をついた。だが、いつもの吐き捨てるような鋭さはなく、どこか遠慮がちに見える。
そう。何より大変だったのはお手洗いだった。
冒険者ギルドへと説明に赴く予定の朝もそうだったのだが。
『お願いしますね。耳栓をして目隠しもして……あとはこの麻袋を被っておいてください。絶対に何も見ない、聞かないでお願いします』
『わ、分かっている……』
私は何度も断りを入れ、しつこいくらいに忠告をした。そのときだけばいつもとは立場が逆転し、私が圧倒的優位で強者でもあった。彼は身の置き場ない面持ちで、私に言われた通り準備をするのだった。
逆の場合はというと。
コルネリウスも気にしてはいるが、それ以上に私が喚き立てて動揺してしまう。何も聞きたくないので積極的に耳栓、目隠し、麻袋を準備していた。
事故の後の性的な接触から2日が経っていた。私たちの日常生活の中では少しずつ遠慮というものがなくなり、無事に生活を送る事はできている。だが、解呪のための性的な接触だけはお互いに中々切り出すことができないでいた。
そんな中、話題に上がったのが風呂の問題だ。
2人で拘束され、お手洗いの次に面倒なもの。それが入浴の問題だ。
平民にとってお湯は比較的貴重なもので、余程のことがない限りは湯船に浸かることはなく、身体を拭くだけで済ます場合が多い。だが近頃では好んで湯船に浸かる人も多く、特に婦女子は美容のためにも積極的に入るものも多い。そのための大衆浴場は各地に点在していた。
そして私もその婦女子の1人で、美容を気にする年頃の乙女で。
その日は騎士団の週に一度の休日とのことだった。
私はコルネリウスの住む屋敷の中にある浴場を前にぽつりとつぶやく。
「コルネリウス様の屋敷にはこんなに大きな浴槽があるんですね……」
「ああ。あまり頻繁に利用することはないがな。清掃は使用人に任せているがこの屋敷に常駐しているわけではない。毎日入るならば自分で掃除をする必要が出てくる。俺は基本的に騎士団の駐屯地にある入浴設備を使うことが多い」
「えええ、こんないい設備があるのになんて勿体無い」
私は目を丸くして愕然とした。
人1人が足を伸ばして入ったとしても余裕でくつろげる空間。おそらく大の大人でも5人は余裕で入れるだろう。個人経営の小さめの大衆浴場であれば、この程度の大きさのものはざらにある。それを個人としては所有しているのだから、財力の底が知れない。
「いいなぁ……あの、その……少しお願いが──」
「入りたいというならば断る」
「な、なんで……」
気持ちを読み取ったのか、コルネリウスは断固として拒否の姿勢を示した。私は異議を申し立てるように言い募る。
「こんな素敵な設備があるのに宝の持ち腐れですよ! 世の女性たちの反感を買う行為です」
「何を言って──」
「いいですか? 入浴という行為は身体を清潔に保つという他に、気分転換や老廃物の排出を促す効果もあるんです。これをするのとしないのとでは肌の状態がまったくもって異なります! だから私たち女性はは時間を見つけては大衆浴場に駆け込むんです!」
鼻息を荒くして主張する私に対し、彼はどこか腰が引けている様子だった。その様子に思わず問いかける。
「なぜそんなにも嫌がるんですか?」
「それは当たり前だろう。年若い男女が混浴など……恥を知れ!」
その言葉を聞き、不意をつかれたかのように瞠目した。コルネリウスの言葉の意味が一瞬分からず、数秒遅れて理解する。彼の言い分はもっともであり、世の常識から考えれば概ね正しいだろう。けれど。
「最近では男女共に入る大衆浴場もあって、平民の間では意外と人気なんですよ」
「だ、男女共に!? なんで破廉恥な……」
「破廉恥って。でもコルネリウス様。そもそも私たち混浴以上のことすでにしていて──~っ!」
つい口が滑って余計なことを言ってしまい、思わず頬を朱に染めた。2人の間を沈黙がまたがり、なんとも言えないむず痒いような空気が漂う。私は言い間違えたと言わんばかりに、わざと咳をして切り替える。
「……もしかして、私と2人で入るのがそんなに恥ずかしいんですか?」
「……っな、なにをっ」
「もう、そんなに隠そうとしてもばればれですよ。コルネリウス様って意外とウブなところがあるんですね」
私の分かりやすいほどの挑発でムッとしたようで、目に見えるくらいに機嫌が悪くなった。癇に障ったのか、視線を合わせる事なく鼻で笑った。
「まさか。お前の幼児体型を見たところで、俺にはなんの影響もない。そんなことを考えるとは、ウブなのはお前のほうだろう」
「そうですか。ならお風呂、使わせてもらっても大丈夫ですよね? 私の幼児体型を見てもなんの支障もないのでしょうから」
「ああ、当たり前だ」
コルネリウスは威勢よく頷く。そこでようやく挑発に乗ってしまったことに気づいたようだった。
私はこの数日で理解したことがある。
コルネリウスは意外と子供っぽく、天邪鬼で負けず嫌いな性格なのだということを。
12
あなたにおすすめの小説
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~
Tubling@書籍化&コミカライズ
恋愛
2月3日に完結します^^
完結しましたら感想欄開ける予定です!
ルシェンテ王国の末の王女カタリナは、姉たちから凄惨な嫌がらせをされる日々に王女とは名ばかりの惨めな生活を送っていた。
両親は自分に無関心、兄にも煙たがられ、いっそ透明人間になれたらと思う日々。
そんな中、隣国ジグマリン王国の建国祭に国賓として訪れた際、「鬼神」と恐れられている騎士公爵レブランドと出会う。
しかし鬼とは程遠い公爵の素顔に触れたカタリナは、彼に惹かれていく。
やがて想い人から縁談の話が舞い込み、夢見心地で嫁いでいったカタリナを待っていたのは悲しい現実で…?
旦那様の為に邸を去ったけれど、お腹には天使が――――
息子の為に生きよう。
そう決意して生活する私と息子のもとへ、あの人がやってくるなんて。
再会した彼には絶対に帰らないと伝えたはずなのに、2人とも連れて帰ると言ってきかないんですけど?
私が邪魔者だったはずなのに、なんだか彼の態度がおかしくて…
愛された事のない王女がただ一つの宝物(息子)を授かり、愛し愛される喜びを知るロマンスファンタジーです。
●本編は10万字ほどで完結予定。
●最初こそシリアスですが、だんだんとほのぼのになっていきます^^
●最後はハッピーエンドです。
初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~
如月あこ
恋愛
宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。
ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。
懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。
メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。
騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)
ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。
※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)
氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~
雨宮羽那
恋愛
魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。
そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!
詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。
家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。
同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!?
「これは契約結婚のはずですよね!?」
……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……?
◇◇◇◇
恋愛小説大賞に応募しています。
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"
モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです!
※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。
※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる