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20.お願い
しおりを挟む眼前で目を閉じ、気持ちよさそうに眠るコルネリウス。
湯にのぼせた彼を必死なって引き上げ、服まで着せて看病している自分。
「……何やってるんだろう私。それにさっきの……」
ほとんど意識もないような状態で紡がれた彼の一言。
──嫌いじゃない。
私の聞き間違いでなければ、そう口にしていたように思う。朦朧とする中で言った言葉のため、本人からすれば戯れ事だとあとから反論されるかもしれない。だけれど。
「本当にそうだといいなぁ……」
ほどよく日焼けした肌、すっと通った鼻梁、切れ目がちな瞳、意外と長いまつ毛。
こうして寝顔を見ていると、コルネリウスという男は心底端正な顔立ちをしているように思う。虫が好かない性格だと知っているのに、見ているだけで胸の鼓動が早くなる。
「……ぅっ」
ふと、コルネリウスの口元が微かに動き、瞼がゆっくりと開かれる。宝石のような蒼い瞳が現れて、どうしてだろうこの場から逃げ出したいような気持ちになった。
私はそれを押し殺し、取り繕った面持ちで言う。
「よくお眠りになられてましたね」
わざとらしく微笑みを浮かべ、寝ぼけ眼のコルネリウスの顔を覗き込んだ。寝起きでもその眉目秀麗なさまは崩れることがなく、なぜだか敗北感を感じさせた。
今までは眠る私に対して、コルネリウスが起きている展開ばかりだった。いつもとは立場が逆転した状況に少しだけ心が浮き足立っているのか、なんと声をかけていいのか分からず。
「長風呂でのぼせて気絶した騎士様がようやくお目覚めでですね」
と、揶揄うように告げてしまった。
本心からではないのだが、ぽかんと口を開けている彼の姿を見ると、自然と心の中に小さな嗜虐心が顔を出す。
寝起きだからだろうか。いつもよりトロンとした瞳をしていたコルネリウスは「……どの口が」と言って身体を起こし、私の両頬を挟んだ。口先が勝手にぎゅっと尖り、見るもおかしな表情に変わる。
触れられた頬が熱い。
怒るところだろうが、急に近づいたその距離にぽかんと目を丸めていると、彼の方が先にその手を勢いよく離した。
「……っ、すまない。ね、寝ぼけていたようだ……」
「い、いいえ。わ、私の方こそからかってすみません。あの、お身体はもう平気ですか?」
なんとなくぎこちなさを覚えて、先ほどとは打って変わったように他人行儀に尋ねる。
今だ頬は熱を持っており、湯でのぼせたコルネリウスの熱が移ってしまったような気分に陥った。
対するコルネリウスは瞳を逸らし、シーツを握りしめていた。しばらく置いて、私の質問に答えるように「平気だ」と端的に話す。そして少しの間、口をパクパクとさせながらチラリとこちらに視線を寄越した。揺れる瞳が私を捉える。彼はそのまま喉の奥から絞り出したように言った。
「迷惑をかけてしまった。申し訳ない。あと……ここまで担いできてくれたんだろう? 重かったはずなのに。あ、ありがとう」
面と向かって謝罪と礼を告げるコルネリウスの耳は赤く染まっており、照れ臭いのだろうか、表情は強張っていた。それでもいつもの仏頂面より余程似合っていらような気がした。
反射的に私は「そんな」と否定する。くすぐったく、どこかもどかしいような気持ちにさせられた。そのまま思ったことを続ける。
「もとはと言えば、私が入浴したいって言ったのが原因ですし」
「ま、まあそれも一理あるな。お前が余計なことを言わなければ、俺も湯にのぼせるなどという無様は晒さなかっただろう」
コルネリウスは先ほどの神妙さはどこに置いてきたのだろうか、どこか傲慢な物言いで鼻を鳴らす。見覚えのあるいつもの様子にようやく調子が戻ってきたのかと安心感すら覚えた。
私は彼の言葉を無視するように肩をすくめ、胸を張って告げる。
「でも私よりも早く、勝手にのぼせたのはコルネリウス様の方ですよね? それにそんなあなたを看病して、服まで着せてベッドに運んだのは一体誰でしょうか。とっても重くて無駄に汗かいちゃいましたよ」
「……っ、それは……」
コルネリウスはというと、そのまま口籠もってしまった。どうやら口論で負けたのが悔しかったのか、借りを作ったことが不満だったのかは分からない。不機嫌とはいかないものの拗ねた様子にも見えた。
まるで思春期の子供のようだなどと感じながら、私は彼の自尊心を取り戻す方法を思考する。一度臍を曲げられると面倒だからという本音は置いておき、これを機にいくつかお願いが出来ればなと考えていた。
「あのー、コルネリウス様。一個お願いがあるんですけど、聞いていただけませんか?」
「なんだ」
「一度自宅に戻らせてください」
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