【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ

文字の大きさ
21 / 49

21.幼馴染の心配

しおりを挟む

 日も落ちかけてきた時刻、私とコルネリウスはというと街の中を歩いていた。最終目的地はもちろん私の自宅である。

 コルネリウスへのお願いは無事叶えられ、私は帰宅を許された。もちろんコルネリウスというコブ付きではあるのだが、その許可が取れただけでも嬉しいことで。
 
 当初、私の願いに『なぜだ』と渋るような様子を見せていたが、生活する上で必要なものが不足しているからと伝える。

『それならば、そこらの店でいくらでも買えばいい。金なら出してやる』

 どうやら私と共に古いアパートへ行くことに忌避感があるのか、そのような的外れなことを言っていた。はっきり言わないと分からないのかと思い、私は溜息と共に本音を口にした。

『女性にはいろいろ必要なものがあるんです! もし私が下着を買いに行きたいって言ったら着いてこれますか? 手枷のせいで離れられないのでそうなりますけど』

 その言葉をきっかけにコルネリウスは渋々ながらに頷いた。
 これでのぼせたことの看病に対する貸し借りはなしだと宣言し、無事現在に至る。

「それにしてもコルネリウス様。あんなふうに言ってはいけませんよ?」

「……あんなふう、とは?」

「ほら、『いくらでも買えばいい』とか『金なら出してやる』とか。そういう言葉を簡単に言うと誤解されちゃいますから」

 当たり前のような表情で口にしていた。なんだか甘やかされているようで──まるで恋人のようだと、内心ドキッとさせられていた。

「確かにコルネリウス様は貴族で騎士様でお金持ちかもしれませんが、そう易々と女性にお金を明け渡すような真似はよしてくださいね! 私みたいな悪女に騙されちゃいますから」

 手に持った袋に視線を向け、続いて隣を歩くコルネリウスの顔を覗き見る。

 屋敷から出たあと、私たちはショーウィンドウを横目に歩いていた。その中に飾られていた靴は女性らしいお洒落なデザインのもので、一瞬で目を惹かれた。普段ギルドで働く時の動きやすさを重視していた私にとって縁遠いものだった。
 飾られた靴を見て「かわいい」と独り言を呟いたのが始まりで、なんとそれを聞いてかコルネリウスは店に押し入り、これを買うと店員に宣言した。
 気がつけば何度も試し履きを強要され、お会計へ。支払いを終えたコルネリウスはその場で「……やる」と袋を突きつけてきたのだ。

 きっと一度帰宅したいと言う願いだけでは割に合わないなどと考えたのかもしれない。思いもよらないプレゼントに動揺したものの、予想外の気遣いに喜びを感じている自分がいた。戸惑った私に対し、彼は呆れたように冷たく告げる。

『俺にとっては些細な買い物だ。貧乏人はありがたく受け取っておけ』

 なんとも上から目線の物言いではあったが、私が受け取りやすいように遠回しの気遣いをしてくれたのだろう。素直ではないコルネリウスらしい言葉に思わず微笑みが溢れてしまった。

「……お……になら………れてもいい」

「……ん? なんですか」

「っ、なんでもない」

 ボソリと呟かれた声は風でかき消え、もう一度聞き返すもののコルネリウスはにべもなく顔を背ける。どうしたんだと疑問が浮かびながらも、足取りはなぜだか軽かった。

 一瞬、隣を歩くコルネリウスと小指同時が触れ合う。
 その瞬間、心臓がどくりと跳ね上がった。

 手枷の関係でそばを歩かなければならないので、ここ数日はこの距離を保って過ごし続けている。最初は気が滅入っていたが、ここ数日で少しずつ慣れていったような気がしていた。コルネリウスのふてぶてしさも素直になれない裏返しのようなもので、距離が縮まっていってると感じている。

 けれど今はこの場から逃げ出したい気持ちになった。

 二度も肌を見せ合い、普段は見せないようなところを見せ合った仲なのに。たった一瞬、小指が触れただけで何をそわそわしているのだろう。

 ちらりとコルネリウスへと視線を移せば、いつも通りの仏頂面だった。それを見た私は何かを期待していたのか、落ち込みかける自分がいることに気がついた。そのような気持ちは受け流してしまおう、そう前を向きかけたとき。

「……っ!」

 右手が温かいものに包まれた。
 それは紛れもなくコルネリウスの手で──私は彼に手を握られているのだと気がついた。

「っ、万が一にもはぐれたら大変だ。…………仕方がないから握っておく」

 言い切る彼の横顔は夕日に照らされているからか、はたまた羞恥心からくるものなのか。耳や首までも朱に染まっていた。

 しばらく無言が続いた。
 何を言えばいいのか分からず、ただひたすら足を動かして目的地まで進み続ける。

 不意に思った。
 なんの苦労もなくいつも通りのペースで歩けていること。きっとコルネリウスが私の歩幅に合わせてくれているのだと。

 手を握りしめたまま、私たちは歩いた。
 目的地である自宅は街の端であり、それなりに時間がかかった。

 見覚えのある通りに差し掛かり、古いアパートが視界に入った。けれどそれよりも目を引いたのは──。

「っ、バルテル!?」

 燃えるような赤毛にこんがりと焼けた筋肉質な男。
 幼馴染であるバルテルがなぜか私のアパートの前で待っていた。思わず声を上げたからか、彼は私に気がついたようで。

「……ステレっ!」

 駆け寄ってきたバルテルはまるで飼い主に捨てられた犬のようだった。普段の太々しさはどこへいったのか。私よりも年上で、冒険者としての実力もある男のそのような姿はちぐはぐさを感じさせるものだった。

 彼はみるからに焦燥感に駆られていた。
 私の元に辿り着いたかと思うと、肩を掴み揺さぶってくる。

「おいステレ! なんかトラブルに巻き込まれて──」

 バルテルが不自然に言葉を切った。その視線は下方を向いており、目線の先を辿る。そこにはコルネリウスと繋いだ手があり。

「……っ、あっ、こ、これは……」

 思わず手を振り解き、赤らんだ顔を隠すように腕で覆う。それを見ていたバルテルは不機嫌に眉間に皺を寄せ、隣に立っていたコルネリウスへと鋭い視線を向けた。

 そういえば2人の仲は最悪だったとギルドでのことを思い出し、一触即発の雰囲気に狼狽える。
 そんな私を尻目に2人はお互い咎めるような視線を向け合った。

「……お前、ステレを誑かしてんじゃねぇぞ。騎士のくせに軽々しく俺の幼馴染に手を出しやがって」

「手を出す? お前は何を言ってるんだ。これは互いの合意の上でのことだ。第三者に口を挟まれる所以はない」

「屁理屈を!」

 彼らの勢いは私を置いて勝手に加速していく。
 すでに周りは見えていのか、『馴れ馴れしいぞ』『お前こそ』と罵り合いが続く。

 既視感のある光景に私は頭を抱えた。
 
 バルテルは私を心配してくれていらのだと理解している。
 幼い頃から家が近所ということもあって兄妹のように育ち、成人してからもよく面倒を見てくれていた。
 女癖と口が悪いところもあるが、根はいい奴で周囲からの信頼も厚い。

『ステレは臆病だから、俺が守ってやる。お前の兄ちゃんだしな!』

『バルテル兄がいれば怖くないね! ありがとう!』

 年端も行かない頃、外遊びをして迷子になった私を見つけ出してくれたのも彼だった。自分もまだ幼いというのに、日が落ちるまで懸命に汗だくになってまで探してくれたのを今でも覚えている。そんな彼は近所の子供達のリーダーでもあり、勇猛果敢で情に熱いと一目置かれていた。

 それは大人になった今も同じである。
 剣の師匠でもある父の一人娘ということもあるのだろう。私にとっては頼れる兄のような存在だった。

「はぁ、ちょっと2人とも。いい加減にしてください。ここをどこだと思ってるんですか!」

 仲裁すべく強めの口調で口を挟めば、2人はぴたりと口論をやめた。バルテルはしゅんと肩を落とし、見るからに落ち込んでいるようだった。罪悪感を覚えながらも、赤髪の幼馴染へと視線を向けて言い募る。

「今日はもう日も暮れてきてるし、一旦帰ってくれない? その様子から事情は聞いてるかもしれないけど、また後日ちゃんと説明するから」

「っ、俺はステレが心配で──」

「分かってる。バルテルお願い。言うこと聞いて」

 見るからに腑に落ちない様子だったが、最終的に「分かった」と呟いた。その背中を見送り、ようやく息をつく。

 これからコルネリウスのカバーもしなければならないと思うと頭痛がしてくるようだった。彼は押し黙ったままむっつりと口を結んでいた。私はため息をつき、一言告げる。

「一旦家に入りましょう」

 コルネリウスの腕を無理矢理引き、古びたアパートに入っていく。扉を開けて中へと足を踏み入れた。そのとき。

 不意に腕を強く掴まれ、引き寄せられる。
 近づく距離にいっきに心臓の脈が早まり、緊張感が増した。どうしたのかと口を開こうとしたのと同時、コルネリウスの唇が私の唇を強引に奪った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~

如月あこ
恋愛
 宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。  ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。  懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。  メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。    騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)  ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。 ※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~

Tubling@書籍化&コミカライズ
恋愛
2月3日に完結します^^ 完結しましたら感想欄開ける予定です! ルシェンテ王国の末の王女カタリナは、姉たちから凄惨な嫌がらせをされる日々に王女とは名ばかりの惨めな生活を送っていた。 両親は自分に無関心、兄にも煙たがられ、いっそ透明人間になれたらと思う日々。 そんな中、隣国ジグマリン王国の建国祭に国賓として訪れた際、「鬼神」と恐れられている騎士公爵レブランドと出会う。 しかし鬼とは程遠い公爵の素顔に触れたカタリナは、彼に惹かれていく。 やがて想い人から縁談の話が舞い込み、夢見心地で嫁いでいったカタリナを待っていたのは悲しい現実で…? 旦那様の為に邸を去ったけれど、お腹には天使が―――― 息子の為に生きよう。 そう決意して生活する私と息子のもとへ、あの人がやってくるなんて。 再会した彼には絶対に帰らないと伝えたはずなのに、2人とも連れて帰ると言ってきかないんですけど? 私が邪魔者だったはずなのに、なんだか彼の態度がおかしくて… 愛された事のない王女がただ一つの宝物(息子)を授かり、愛し愛される喜びを知るロマンスファンタジーです。 ●本編は10万字ほどで完結予定。 ●最初こそシリアスですが、だんだんとほのぼのになっていきます^^ ●最後はハッピーエンドです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

契約が終わったら静かにお引き取りくださいと言ったのはあなたなのに執着しないでください

紬あおい
恋愛
「あなたとは二年間の契約婚です。満了の際は静かにお引き取りください。」 そう言ったのはあなたです。 お言葉通り、今日私はここを出て行きます。 なのに、どうして離してくれないのですか!?

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

処理中です...