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22.強引な口付け
しおりを挟む「んんっ!」
柔らかな温もりに肩をびくつかせる。
急な展開に思考停止した私とは裏腹に、コルネリウスはさらに口付けを深めていった。
いままでにない乱暴なそれに自然と鼻から息が漏れる。
息苦しさでコルネリウスの肩を叩けば、ようやく唇は離れていった。
生理的な涙が目に膜を張り、荒い呼吸が狭い室内に響き渡る。突然の事態に困惑しながら彼に視線を向ければ、その瞳は苛立ちを宿していた。
「……っ、はぁ、コルネリウス様怒ってるんですか?」
呼吸を整えながら尋ねれば、彼はぴくりと片眉を動かした。まるでその発言自体が腹立たしいといわんばかりの仕草に戸惑いが覚えた。
「……っきゃ!」
コルネリウスは押し黙ったままかと思えば、突然私の背中に手を回し、力の限り抱きしめてきた。痛いほどの抱擁は私の平常心を乱していく。
密着する身体からは相手の力強い鼓動が伝わってきた。それは私以上に早鐘を打っており、コルネリウスも緊張しているのかなと場違いなことを考えてしまう。
彼は甘えたがりの犬のように私に体重を預け、肩に額を当ててきた。仏頂面でいけすかない相手の、まるで弱りきったような子供のような姿に一瞬狼狽える。けれど私も彼の背と後頭部に手を回し、温もりを分け与えるように抱擁を返した。なぜかそうしたかったのだ。
私の行動にぴくりとコルネリウスの肩が揺らる。そしてしばらく互いに体を寄せ合っていれば、先に口を開いたのは彼だった。
「……あいつにまた会うのか」
ぼそりと、まるで独り言のような呟きが耳元に届く。彼の吐息が耳介を温めた。
「っ、いやだ。会わないでくれ」
彼の懇願に私は目を丸くした。
コルネリウスが苛立ちを見せたのは、バルテルのことが気に食わないからだと分かっている。二人は根本的に合わないのだろう。
かたや騎士、かたや冒険者。性格も、考え方、何もかもが正反対だ。
だからこそ彼の口から最初に出るのは罵倒か、そうでなければバルテルを幼馴染に持つ私への恨み言だと思っていた。いつもの嫌味ったらしい彼ならそうしただろう。
けれど今のコルネリウスはまるで拗ねた子供のようだ。口調は落ち着いているが、べったりと離れない行動。まるで剣術指南を受けて完膚なきまでに叩きのめされたことにヘソを曲げる少年のようだった。
こういうときはどうすればいいのだろうか。
少し思い悩んだ後、私はコルネリウスの背中をぽんぽんと優しく叩きながら穏やかな口調で言う。
「どうしてそう思うんですか?」
「それはっ……俺が気に食わないからだ」
「確かにコルネリウス様とバルテルは見るからに気が合わなさそうでしたからね」
先ほどの険悪な様子を思い浮かべながら、くすりと微笑をこぼす。私と二人で話すときはまた違った姿だった。二人が顔を合わせた途端、まるで子供の喧嘩のように白熱した言い合いになるのは見ていて面倒だし、面白くもある。
「何を笑ってる」
「二人が喧嘩をしてるのを思い出したんですよ」
そう答えれば、コルネリウスは「あいつが一方的に喧嘩を売ってくるんだ。俺のせいじゃない」と鼻で笑った。
たしかに2回ともバルテルの方から絡んでいっているようだったが、喧嘩を売られた側のコルネリウスもある意味ノリノリで買っており、いつも以上に生き生きとしているように感じられた。そんなことは面と向かって言うことはできないが。
苦笑しながら「そうですね」と頷いた。そして思っていたことを吐き出す。
「バルテルとはさっき約束しましたし、直接会って説明しようと思います。私を心配してわざわざ駆けつけてくれたんですから」
「まあ、それはそう……だが」
「それに一度実家に帰って色々話さなきゃと以前から思ってたんです。その時一緒にバルテルも混ぜて話せばいいかな、と。彼がこの呪いの件を知ってるなら、きっと父も同じでしょう。もしかして父ならこの手枷のこととか、呪いのこととか一度くらいなにか耳にしたことがあるかもしれません」
父は各地を渡り歩いてきた冒険者なだけあって、様々な魔法に精通している。呪いに関しても私以上に理解があるだろう。
加えてコルネリウスには伝えてないが、父は昔から私に対して過保護だった。きっと母から何かしらの事情は聞いているだろうが、心配性が災いして騎士団に押しかけてくるようなことになったら厄介ごとがまた増えるだけだ。頭痛の種はあらかじめ潰しておくべきに限る。そのためにも予め釘を刺しておかなければならない。
私はコルネリウスに対し、拗ねる子供を宥めるよう慈愛を込めて言葉を紡ぐ。
「だからそのときはコルネリウス様も一緒にお願いします確かにまたバルテルに会う必要があります。ですがそんなことより、今1番頼りたいのはコルネリウス様なんです。ほら、手枷のせいで私たち運命共同体でもありますから」
「…………分かった。お前がそう言うなら俺も協力してやる」
苦しいほどの抱擁は先ほどに比べると緩み、ようやく身体を弛緩させることができた。ほっと息をついていれば、コルネリウスは予想外なことを口にしだした。
「それなら俺も一つ、提案だ。……これは俺のためであり、お前のためでもあることだが」
彼から協力して欲しいなどと切り出されたことに意外だと思った。コルネリウスは戸惑う私に対して言う。
「手枷を解くために必要なのは性的な接触だったな」
「え、ええ」
その言葉にどくりと心臓が波立つ。
密室で抱き合っているこの状況で一体何を言い出すんだと、落ち着かない気持ちにさせられていた。
そんな私を置いてコルネリウスは続けた。
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