【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ

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29.仲の悪い二人と父

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 仕事に関しては問題なく、明日より復帰することに決まった。それよりも。

「お前、それかせ。俺が持つ」

 コルネリウスはぶっきらぼうに私の手に持った実家への土産袋を奪い取った。母はギルド長と少し世間話をした後実家に戻るということで、今は私とコルネリウス、バルテルの3人きりだ。

「ステレ、身体疲れてきてないか? 俺が担いでって──」

「それは大丈夫」

「怪我人でもないのに担ごうとするとは、さすが頭まで筋肉の男が考えることは違うな」

 バルテルの提案をあざけるようにコルネリウスは冷やかしを入れる。それに対してバルテルは言葉を正面から受け止め、苛立ち紛れに「堅物陰険野郎にいわれたくねぇ」と返した。それを聞いてコルネリウスもまた──。

 というような繰り返しの中、いい加減に飽き飽きしてきた私は二人に干渉することをやめ、黙々と実家を目指して歩いた。

 郊外にある実家は都心部に比べると自然が多い。さほど歩いているわけではないのだが、場所によってこれだけの景観の差があることがこのバルテリンク王国の特徴でもある。妖精たちが自然を好むゆえの工夫でもあるのだ。

 男二人のいざこざに巻き込まれてながら実家に到着すると、待ち受けていたのはバルテルよりもさらに巨大な男──マイク・リート、私の父だった。

 到着して私をみて早々。

「ステレー!! おかえり!! 元気にしてたか? 呪いの件聞いたぞ? 身体に支障はないか? 心臓が苦しいとかは?」

 娘を溺愛する父の質問攻撃を喰らっていた。

「お父さん、ちょっと落ち着いて!」

「なんでそんなに寂しいことをいうんだ! 久しぶりに帰ってきてくれたことを喜ぶ父を拒まないでくれ!」

 いつもと変わらないその溺愛っぷりに顔を引き攣らせていれば、父はどうやら私の後ろに佇む二人をようやく認識したらしい。途端に目を三角にして男二人を睨みつける。

「……どうやら招かれざる客もいるみたいだな。バルテル、それと君はコルネリウス殿だな。顔を見たことがある」

「……弟子が来たのにひどくないか?」

 バルテルは拗ねるように呟く。
 隣のコルネリウスは頭を下げたあとに話し出した。

「どうもご無沙汰しております、英雄マイク殿。コルネリウス・ホーエンハルトです。以前何度かご挨拶させていただいたことがあります」

 三者三様に話し始め、個性豊かな面々に取り残された私はとりあえず傍観を決めた。

 父はバルテルの存在を無視し、コルネリウスに向き合う。そして足の先から頭のてっぺんまでをじっくり観察したと思えば鋭い眼光のまま言葉を放つ。

「そうだな。その時はただの貴族の若造だと思って油断していたが……妻から話は聞いているよ。娘と共に呪いにかかったんだって?」

「ええ。ですがその呪いも昨日無事に解呪されました」

「ああ、それはこの家に入ってきたときからなんとなく分かっていた。妖精のかけた術に私が気づかぬはずがないからな。……だがそんなことより。君はこの数日間、私の可愛い娘に付き纏っていたらしいじゃないか」

 追い詰めるようにコルネリウスへと睨みを効かせる父。
 話の内容が歪められていると悟り、口を挟もうとする。だが先に否定をしたのはコルネリウスだった。

「誤解です。付き纏っていたわけではなく、そもそも呪いのせいで離れられなく──」

「そんなことはどうでもいい! 君! まさかステレに何かいかがわしいことでもしてないだろうな!」

 父の質問を受けたコルネリウスは言葉を詰まらせ口を閉じ、目線をさっと逸らした。あまりにも分かりやすい反応だった。

 それを見た父、加えてそばで様子を見ていたバルテルも喉の奥を震わせながら「どういうことだ」と矢継ぎ早に質問を繰り返す。コルネリウスは地蔵のように押し黙っていた。そうしていれば次の標的になるのはおのずと私で。

 質問を浴びさせられた私はキッ、とコルネリウスを咎めるように視線を送った。彼の馬鹿正直な反応で面倒ごとになったのは明白だ。

 コルネリウスは私の存在を忘れたようにしばらく黙り込み続けた。だが突如父に向かってその場で頭を下げる。目の前にいた父は彼の突発的な行動に瞬間戸惑いを見せる。
 だがそんなことはお構いなしに、コルネリウスは口を開いた。

「解呪のためにしたことで娘さんを傷ものにしてしまったこと、申し訳ありません」

「ちょ、コルネリウス様。一体なにをっ!」

 傷もの。
 一体彼は何を言い出しているのか。
 予測不能な事態に口を挟もうとした私を横目にコルネリウスは続けた。

「ですが俺は娘さんに対して責任を負う覚悟があります」

「責任? なんだ? 娘に対し賠償金でも払うのか? ……そんなことで私が──」

「──責任をとって俺が娶ります」

 娶る、とは。
 聞き間違えかと思った。

 空気が凍る。
 部屋に静寂が満ちた。

 事態の処理が追いつかず、私は思考を停止させる。
 空いた口が塞がらないというのはこういうことをいうのかもしれない。

 固まる私をよそに、はじめにこの空気を打ち破ったのはバルテルだった。

「お、お前、何を言ってるんだ! ふざけるなっ。娶る? 馬鹿なのか! 結婚するなんてそう簡単に口にするなんて……頭がおかしいんじゃないか!?」

「別に何もおかしくはない。俺のとった行動で彼女が傷ついたのであれば、当然俺にはその責任を負う義務があるだろう。その用意はあるしな」

「だかステレはどうだ!? 見るからに初耳だって顔してるじゃねえか! それに責任を取るためだけに愛してもない相手と結婚する!? ステレを馬鹿にすんな!」

 憤怒の形相で怒鳴りつけるバルテル。
 感情を爆発させている男とは対照に、父は予想外にも冷静だった。そう思っていたが。
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