【完結】スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜

椿かもめ

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1.新婚生活

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 午後10時半を回った頃だった。
 
 私は濡れた髪でソファに腰をかける。
 その手にはコンビニの新作アイスがあり、ちまちまと食べていた。

 夕食を終え、お風呂に入った後のだらだらと過ごすこの瞬間。
 本当に至福の時だと考えながら、テレビをつける。

 私、瑠璃川──いや、蓮見紗雪は先日入籍したばかりだった。
 結婚と同時に変わった名字にまだ慣れていない。
 ここは夫婦の新居であり、帰国と同時に購入した私の唯一のお城だった。

 つい数日前にはここ、日本ではなくフランスのパリにいたのに。

 帰国したことに対しては未だ実感は湧かない。

 5年ぶりの日本は様変わりしており、目を白黒させたものだ。
 昨日は実家に顔をだし、久しぶりに両親と再会した。

 帰国するということは既に伝えてあったが、両親の喜びようといったら。
 私が罪悪感を覚えるくらいほどの笑顔で再会を喜んでくれた。

 テレビでは面白くもないバラエティがやっている。
 街の様子も様変わりしたが、テレビ番組も知らないものばかりになっている。

 お昼の定番だった『笑ってイイぞよ!』も終わっていたし、出てくる芸能人は見たことない顔ぶればかりだった。

 ふぅ、と小さく息をつきながらアイスを齧る。
 こうしてぼーっとしていると、私が未来に向かって努力していた時期を思い出してしまう。
 そしてまた今とのギャップに落ち込んでしまうのだ。

「紗雪、髪の毛乾かさないの?」

「あ、お風呂出たんですね」

    声をかけてきたのは蓮見啓一郎。
 私の夫だった。

「うん、今ちょうど。それより紗雪、風邪ひくよ? しかもアイス食べてるし」

「はいはい、分かってますよー」

   そう言いながらもソファから動こうとしない私に困った顔を向けた啓一郎さん。

 その整った美貌に見つめられることに落ち着かず、私はつまらないバラエティに目線を向けた。

 内心、こんなかっこいい人が私のような女の旦那さんでいいのかなと不安に思う。
 啓一郎さんは高収入、高学歴、そして高身長という世の女性の多くが羨む昔で言う3高男子。
 おまけにびっくりするくらいの綺麗な顔立ち。
 自分から寄っていかなくても女はよりどりみどり、選び放題のはずだ。

 それなのに、なぜ。

 私は食べ終わったアイスの棒をゴミ箱に入れ、もう一度ソファへと戻る。
 
「もう、風邪ひくって言ったでしょ? 俺が髪の毛拭くからじっとしてて」

   知らない間に啓一郎は柔らかなタオルを手に私の背後に回っていた。
 優しく、そして丁寧な手つきで私の髪の毛の水分を拭き取る。

「そんなこと……しなくてもいいですよ。あとでやりますし」

「そう言って紗雪は結局乾かさずに寝ちゃうんだから。俺、この数日で初めて知ったよ。紗雪って結構ズボラなところあるよね」

「そんなこと……」

   図星を疲れ、私はぐっと言葉に詰まる。
 
 啓一郎さんの方こそ、意外と家庭的というか、面倒見がいいというか。

 いや、面倒見がいいのは以前からか。
 そう思っていると、どうやらタオルドライは終えたようで。

 啓一郎さんはあらかじめ準備していたドライヤーで私の髪を乾かし始める。
 自分の髪もまだ乾かしていないのに。
 
 ドライヤーの温かさで頭がふわふわしてくる。
 トリミングされる犬もこんな気持ちなのかなと思いながら、私は瞳を閉じた。

「そうそう、今日はありがとうね。俺の親戚との挨拶回り、結構大変だったでしょ?」

   ドライヤーの風音に負けないようにと、啓一郎さんは先ほどに比べてボリュームを上げて話す。

「そんな事ないですよ。みんな優しい人ばかりで少し安心しました。それに私のときも一緒に来てくれましたし」

「そう言ってもらえて助かるよ。紗雪のご両親も優しい人たちだったね。手土産を車に乗らないくらい渡された時は流石にびっくりしたけど」

   啓一郎さんはそう言って言いながら苦笑いをしたようだった。

 髪を乾かし終え、時計を見ると既に11時を回っていた。
 私は欠伸をかみ殺しながら小さく伸びをする。
 それを見た啓一郎さんは優しく微笑みながら言葉を紡いだ。

「今日はもう疲れたろうだし、もう寝ようか」

「はい……」

 その言葉に心臓がどくりと跳ねる。
 先程までの眠気はどこへ行ったのかというほどに、目が冴えてしまいそうだった。

 私は買ったばかりのダブルベッドへ潜り込んだ。
 啓一郎さんは電気を消し、私の隣へと身を横たえる。

 先程以上に心拍数が高まり、顔が赤くなってしまいそうだ。

 私は啓一郎さんに背を向け、なるべくくっつかないようにベッドの端による。
 それを見た啓一郎さんの吹き出す音が聞こえた。

「紗雪、こっちきて──」

 甘い声。
 暖かな温もり。

 私は恐る恐る寝返りを打ち、ベッドの中央へと移動する。

「かわいいね、紗雪」

 近づいた私を愛おしむように啓一郎さんは腕を回す。
 すっぽりと啓一郎さんに包まれた私の顔は真っ赤だろう。

「ほんと、食べてしまいたいよ」

「……っ」

「でも、まだ我慢する。紗雪の気持ちがついてくるまでは」

 新居に越してきてから数日経ったが、私と啓一郎さんはいまだ大人の関係にまで至っていない。
 というよりも、私たちはまだ一度も繋がったことはなかった。

 啓一郎さんの温もりを感じ、次第に安らぎを感じ始める。
 ベッドで一緒に寝るときはいつも抱いて温めてくれた。
 
 私の空っぽな心に安らぎを与えるように。

「おやすみ、紗雪」

「おやすみなさい、啓一郎さん」

 私と啓一郎さんは数日前、夫婦となった。

 ────それも恋人という関係にすらならず、いきなり。

 元々は主治医と患者。
 それだけの関係だった。


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