【完結】スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜

椿かもめ

文字の大きさ
30 / 44

30.助け

しおりを挟む

「お前だれだ?」

「センパイが嫌がってます。だから離れてください」

 鋭い視線を送る長谷川くんに梅本は嘲るような眼差しを向ける。
 それを感じ取った長谷川くんはより睨みをきかせると、梅本は少しだけ怯んだ。
 長谷川くんは元々顔が強面気味であり、多くのピアスや長めの茶髪という見た目であるためよく人から避けられると嘆いていたことがあったが、運良くそれが効いているようだ。

「センパイから……離れろって言ってるのが聞こえないのか?」

「ゔぅっ!」

 私の腰に回した手を長谷川くんは容易く捻り上げ、痛みで梅本はうめき声を上げた。

「こんなことしてただで済むと思うのか?」

「逆に嫌がる女性を連れ去ろうとするなんて警察に知られてただで済むと思うんですか? なんなら今すぐ通報しましょうか」

 怯むことなく答える長谷川くんに分が悪いと感じたのか、梅本は大きく舌打ちをする。

 そして私に卑しい視線を向けて「邪魔が入ったので、またどこかで会おう」と言い残し、去っていった。

「は、長谷川くん……本当にありがとう」 
  
 震えそうな声を押し殺し、私は頭を下げる。
 長谷川くんは梅本の後ろ姿を睨みつけたあと、私の方に視線を向けて「気にしないでください」と言う。

 相変わらずのクールな無表情だったが、いつも通りの長谷川くんで。
 私はようやく落ち着くことができた。

「それよりあいつ知り合いっすか?」

「うん……啓一郎さんの知り合いのお医者さんらしいんだけど、鉢合わせしちゃって。あんまりよくない噂があるみたいなんだけど、無碍にするのはまずくて……」

「そうなんすね……あいつ何か嫌なことでも企んでるかもしれないんで、なるべく一人では絶対近づかないようにした方がいいっすよ」

 そう言って長谷川くんは鼻を鳴らした。
 
「それにしてもまた偶然だね。今日はひとり?」

 私が質問すると長谷川くんは頷いた。
 どうやらショッピングモールに入院している妹の沙彩ちゃん用のおもちゃを買いに来たと言うことだった。

 おもちゃと言っても着せ替えができるお人形とのことで、以前から欲しがっていたらしい。

「あいつもうすぐ誕生日なんすよ。だからプレゼント用に」

「そうだったの? いいお兄ちゃんしているね」

 私がからかうような口調で告げると照れたのか少しだけ視線を彷徨わせた。
 
 沙彩ちゃんは病気と戦うためにいつでも頑張っている。
 あんなに小さいのに本当に強い子だと心から尊敬した。

「ねえ、そういえば少し前にお見舞いに行きたいって話したと思うんだけど……もしよければ明日行きたいなって思って。どうかな?」

「明日なら検査も特にないし、大丈夫だと思うっすけど……でも」

 そう言って長谷川くんは難しい顔をする。
 
「旦那さんに送り迎えとか頼むならいいと思います。さっきのやつみたいなのにまた絡まれる可能性もありますし」

「そんな……さっきのはたまたまだよ。そんな頻繁に絡まれてちゃ物騒すぎるでしょ……それに、啓一郎さんは今、出張中だから家にいないの」

 私が肩をすくめて言うと、長谷川くんは大きくため息をついた。
 どうしてそんな反応をされるのか分からない私は疑問に頭を傾ける。

「それなら俺が送り迎えします。あと、旦那さんに変な疑いをかけられたくないので一応連絡はしておいてください。きちんとさっきの男のことも伝えておくように」

 どちらが年上か分からない状況に私は困惑したが、真剣な面持ちの長谷川くんにとりあえず頷いておいた。

 それにしても長谷川くんは以前に比べて口数が多くなったなと思う。
 
「沙彩ちゃんへの手土産何がいいと思う?」

「別にそんなのいらないっすよ。センパイが来てくれるだけで沙彩めっちゃ喜ぶと思います」

 以前の反応を見るとあながち嘘でもなさそうで、私は苦笑いを浮かべた。
 どういうわけか私に対するキラキラした目を思い出し、あんな風に他人に見られたのは初めてだったなと少しだけくすぐったく思った。

「それだけじゃやっぱりアレだし……あ、甘いものとか好きかな? 食べ物で禁止されてるものとかってある?」

「いや、今のところ特にないですけど…………マジで気を遣わなくてもいいですから」

 焦る長谷川くんを置いて、出入り口付近にいた私はショッピングモールの中央へと引き返す。

 頑張っている沙彩ちゃんに何を買っていこうかなと考え、私は口元を綻ばせた。

 結局長期にわたって保存のきくクッキーの詰め合わせと、誕生日プレゼントとして女の子用のお化粧セットというものがあったのでそちらを購入。
 どちらも綺麗な包装紙でラッピングをしてもらい、私は意気揚々と持ち上げようとするが──。

「ちょっと……買いすぎたかも」
 
 これは流石に帰り道はタクシー必須だなと考えていると。

 沙彩ちゃんの誕生日プレゼントである着せ替え人形のセットをすでにラッピングしてもらっていた長谷川くんは、呆れたように私を見た。

「センパイってたまに抜けてますよね。……俺、車で来てるんで乗せてきますよ」

「……お願いしてもいい?」

「はい。明日も病院まで送るんで家の場所知るにはちょうどいいっすしね」

 私は先程助けられたときと同様に、もう一度深く頭を下げた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

処理中です...