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貢ぎ物と変化3
しおりを挟む恐ろしくもあった。
けれど、同時にそれが悪くないと受け入れ始めている己もいた。
ヘドヴィカはその日から自分がこれからどうしていきたいのか考えていた。
透き通るような輝きを持つアメジストのネックレスを手に取りながら、ぽつりと呟く。
「私も頑張らないと」
「奥様?」
コリーが不思議そうに頭を傾げる。
いつまでも自分に言い訳して殻にこもりつづけるのはそろそろやめなければならない。
今後社交の場に顔を出さなければならない日もきっとどこかでやってくるだろう。その時に恥をかかない程度には男性に慣れておく必要がある。
(怖いわ。でも、いつまでもこのままではいけないことはずっと分かっていた)
成人の儀にも社交界名前一切参加したことがない自分が何を言っているのかと思う。けれどこれからヘドヴィカがどうしたいのかを考えた上で出た結論は──。
今後はどう行動するべきかを思い浮かべる。
マルファ医師が言っていたじゃないか──協力してもらえ、と。
「……コリー。旦那様は今、何をしていらっしゃるか分かる?」
「は、はい! ええと、何もなければ書斎にいらっしゃると思います。本当ならば新婚旅行に──っ、あっ!」
「新婚旅行?」
初耳な言葉にヘドヴィカは目を瞬く。
コリーは不要なことを言ってしまったとばかりに身の置き場のない表情をした。
(もしかして──)
ヘドヴィカは思ったことを口にする。
「本来なら私と旦那様とで、どこか旅行に行く予定だった、とか?」
コリーは俯いた。
嘘はつけない性格のようで、無言の肯定なのだと咄嗟に理解する。
(私が男性不信だってことを知らなかったから、そんな予定を立てていたのね)
なんとも言えない感情が押し寄せてくる。
ボジェクにとっても乗り気でない婚姻だと思っていた。陛下から押し付けられた婚姻で、望まない妻なのだと思っていたが。それでも婚姻後の旅行計画や毎日の贈り物など、想像と異なることが立て続けに続いている。
少しだけ胸がザワザワとして、ぎゅっと拳を握りしめて意識を散らした。
父も言っていたはずだ。
ボジェクは昔とは異なると。成長したのだと。
昔のことは置いておき、今のヘドヴィカは夫に対して偏見に満ちた目を向け、彼の感情を勝手に決めつけている節があったことをその時自覚した。
きっと胸にざわめく感覚は罪悪感に違いない。
旅行を無にしたことに対する──。
「……ちょうどいいわ。書斎に行って旦那様に直接聞くわ。話したいこともあるのだし」
ヘドヴィカはコリーを連れて書斎へ向かった。
控えめに扉を叩けば中から「入れ」と低い声が耳に届く。
コリーには外で待機してもらい、「失礼します」と足を踏み入れた。中は所狭しと本棚が並んでおり、溢れんばかりの本の山が重なっている。
この部屋には未だ一度も入室したことがなかったヘドヴィカはその光景に一瞬目を見開いた。けれどそれ以上に驚いているのはボジェクだろう。まるで寝起きの顔に水をかけられたかのように固まっていた。
きっとヘドヴィカが自ら書斎を訪ねてくるなど予想もしていなかったに違いない。ここ数日、ほとんど話しかけられることもなければ自ら口を開くこともなかったからだ。黙々と食事をし、解散してばかり。
だからこそ、一層余計驚いたのかもしれない。
ヘドヴィカは震えなかった。
苦手な男を目の前にしていたのに、吐き気も眩暈もしていない。
(やっぱり慣れたのかもしれないわね)
それならば。
変わるために何をすべきか。
ヘドヴィカは心を決め、意を決して口を開いた。
「旦那様、お願いがあるんです」
どくどくと緊張感で心臓がはじけそうだ。
それでも一歩を踏み出すために続ける。
「新婚旅行、行きませんか?」
先ほどのコリーが口を滑らせたことと絡めた提案を持ち出した。
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