お断ちになった恋愛感情は現在使われておりません。

椿かもめ

文字の大きさ
23 / 83

貢ぎ物と変化3

しおりを挟む

 恐ろしくもあった。
 けれど、同時にそれが悪くないと受け入れ始めている己もいた。

 ヘドヴィカはその日から自分がこれからどうしていきたいのか考えていた。
  
 透き通るような輝きを持つアメジストのネックレスを手に取りながら、ぽつりと呟く。

「私も頑張らないと」

「奥様?」

 コリーが不思議そうに頭を傾げる。
 
 いつまでも自分に言い訳して殻にこもりつづけるのはそろそろやめなければならない。
 今後社交の場に顔を出さなければならない日もきっとどこかでやってくるだろう。その時に恥をかかない程度には男性に慣れておく必要がある。

(怖いわ。でも、いつまでもこのままではいけないことはずっと分かっていた)

 成人の儀にも社交界名前一切参加したことがない自分が何を言っているのかと思う。けれどこれからヘドヴィカがどうしたいのかを考えた上で出た結論は──。
 
 今後はどう行動するべきかを思い浮かべる。

 マルファ医師が言っていたじゃないか──協力してもらえ、と。

「……コリー。旦那様は今、何をしていらっしゃるか分かる?」

「は、はい! ええと、何もなければ書斎にいらっしゃると思います。本当ならば新婚旅行に──っ、あっ!」

「新婚旅行?」

 初耳な言葉にヘドヴィカは目を瞬く。
 コリーは不要なことを言ってしまったとばかりに身の置き場のない表情をした。

(もしかして──)

 ヘドヴィカは思ったことを口にする。

「本来なら私と旦那様とで、どこか旅行に行く予定だった、とか?」

 コリーは俯いた。
 嘘はつけない性格のようで、無言の肯定なのだと咄嗟に理解する。

(私が男性不信だってことを知らなかったから、そんな予定を立てていたのね)

 なんとも言えない感情が押し寄せてくる。

 ボジェクにとっても乗り気でない婚姻だと思っていた。陛下から押し付けられた婚姻で、望まない妻なのだと思っていたが。それでも婚姻後の旅行計画や毎日の贈り物など、想像と異なることが立て続けに続いている。

 少しだけ胸がザワザワとして、ぎゅっと拳を握りしめて意識を散らした。

 父も言っていたはずだ。
 ボジェクは昔とは異なると。成長したのだと。

 昔のことは置いておき、今のヘドヴィカは夫に対して偏見に満ちた目を向け、彼の感情を勝手に決めつけている節があったことをその時自覚した。

 きっと胸にざわめく感覚は罪悪感に違いない。
 旅行を無にしたことに対する──。

「……ちょうどいいわ。書斎に行って旦那様に直接聞くわ。話したいこともあるのだし」

 ヘドヴィカはコリーを連れて書斎へ向かった。
 控えめに扉を叩けば中から「入れ」と低い声が耳に届く。

 コリーには外で待機してもらい、「失礼します」と足を踏み入れた。中は所狭しと本棚が並んでおり、溢れんばかりの本の山が重なっている。

 この部屋には未だ一度も入室したことがなかったヘドヴィカはその光景に一瞬目を見開いた。けれどそれ以上に驚いているのはボジェクだろう。まるで寝起きの顔に水をかけられたかのように固まっていた。

 きっとヘドヴィカが自ら書斎を訪ねてくるなど予想もしていなかったに違いない。ここ数日、ほとんど話しかけられることもなければ自ら口を開くこともなかったからだ。黙々と食事をし、解散してばかり。
 だからこそ、一層余計驚いたのかもしれない。

 ヘドヴィカは震えなかった。
 苦手な男を目の前にしていたのに、吐き気も眩暈もしていない。

(やっぱり慣れたのかもしれないわね)

 それならば。
 変わるために何をすべきか。

 ヘドヴィカは心を決め、意を決して口を開いた。

「旦那様、お願いがあるんです」

 どくどくと緊張感で心臓がはじけそうだ。
 それでも一歩を踏み出すために続ける。

「新婚旅行、行きませんか?」

 先ほどのコリーが口を滑らせたことと絡めた提案を持ち出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

処理中です...