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急転直下1
しおりを挟む(そんなに驚くこと?)
自分から手を差し出したくせに、ヘドヴィカ以上に狼狽えるボジェクがおかしいかった。
ヘドヴィカももちろん緊張しているが、彼ほどではないと断言できた。息苦しさはさほど感じていない。
ボジェクの方を見れば、顔をこわばらせながら重なった二人の手を凝視していた。その姿は引くほどを真剣なもので、別の意味でヘドヴィカは怖さを感じる。
「あの」
「……っ!」
辛抱ならなくなったヘドヴィカが先に口を開けば、彼は夢から覚めたように慌てて顔を上げる。目をぱちぱちと瞬き、混乱した面持ちだった。
その様子がどうにもおかしく、ヘドヴィカは自然と口を緩ませてしまった。
「ふふふっ! 旦那様、一体どうされたんですか? ふっ、挙動不審でおかしすぎてっ、あははっ」
「お、おい! わ、笑うなよ」
ひねたような口調で拗ねるボジェクがまたおかしい。あまり見ることができない姿は珍妙で、笑いのツボを的確に刺激してきた。
ヘドヴィカは声を上げて笑い続ける。
(ふふっ。私、笑えてるのね)
王都での食事のときのような息苦しさはどこへ行ったのか、自分が無意識のうちに声を上げて笑っていたことを自覚した。
笑われたボジェクはむっつりと口を閉じたあと、投げやりに言う。
「っ、わらってねぇでもういいから行くぞ! 屋敷は広いから、一度は案内しとかねぇといかないんだ。暗くなる前に終わらせるから、さっさと来ねぇとおいてくからな」
「ちょ、ちょっと、待って──」
重ねた手をぎゅっと掴まれ、屋敷へと向かって歩くボジェクを足早に追いかけた。こういうときは自分勝手な一面も時折垣間見えるが、昔のようにヘドヴィカを追い詰めることはない。
転ばないくらいの歩調なのが、小さな思いやりを感じさせた。
屋敷内は外観から予想がつかないほど、落ち着いた空間だった。ゆったりと過ごせるような木目の壁や柔らかなベージュの絨毯、目に優しく心が落ち着く色合いの家具。王都の屋敷とは異なり、美術品などはほとんど置かれておらず、疲れを癒すための別荘地としてうってつけだと感じた。
「広いですが、ここなら落ち着いて過ごせそうです」
ヘドヴィカは柔らかく微笑みを浮かべる。
そんな彼女の顔を見て、ボジェクは顔を背けながらもご機嫌な様子だった。
「少し肌寒いのだけは今の季節、仕方がねぇ。また倒れたら俺が困るから、暖炉のある部屋で暖かくしてるんだな。まあ部屋は好きなように使えばいいが。……ここはお前の別荘でもあるんだからな」
「……はい。ありがとうございます」
うっすらと汗をかいているボジェクの手のひらが不快ではなかった。ヘドヴィカは礼を告げ、握られた手を自分から握り返す。
(少しずつ慣れていけるはず。頑張ろう)
決意を新たに頷く。
ボジェクの内心など予想もしていないヘドヴィカはこれから別荘で過ごす一週間が楽しみだと、口角を上げたのだった。
翌日。
ヘドヴィカは街へとやってきていた。
「人……結構いるわね」
どくどくと胸が早鐘を打つのは、久しぶりに街中へと降り立つからだ。幼少期はよく王都を闊歩していたが、引きこもってからは一度も街を歩くことがなかった。
目立つ銀髪を隠すために深く帽子を被り、比較的質素なワンピースを身に纏いながら街中を見渡す。王都から外れた別荘地のため、華美なドレスは悪い意味で浮いてしまうのだ。
緊張しながら身をすくませるヘドヴィカの手を取り、ボジェクは眉根を寄せた。
「……無理してんじゃ──」
「いいえ、大丈夫です。これも人に、男性に慣れるための訓練ですから。尻込んでなんかいられません……」
意を決して一歩踏み出せば、意外と平気な自分がいた。
それからというものの、立ち並ぶ屋台や気になった店などを覗く。
(楽しい! 私、案外普通人楽しめてるわ)
約10年ぶりの街中への外出にヘドヴィカは浮き足立っていた。その足で昨日馬車の中から見た花畑を見たりして、充実した日を過ごすことができた。
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