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椿かもめ

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急転直下2

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 もしかして自分はすでに男性恐怖症を克服しているのかもしれない。ボジェクとの触れ合いや街中を出歩いたことで自信がついていた。

 そんな心中で、ヘドヴィカは油断していたのかもしれない。

 長年根付いた病がそう簡単に治ることはないこと。
 これからくる一波乱にヘドヴィカの心はひどく掻き回されるということを。

「先刻手紙が来て、分家のベークマン伯爵が折を見て挨拶に来ると記載があった。彼は穏やかな気性で接しやすくはあるだろうが、一応伝えておく」

 街中へに赴いた翌日、ボジェクから告げられた。
 親戚であるベークマン伯爵とボジェクはそれなりに親しい仲であり、この別荘に来たときには必ず訪ねてくるらしい。ボジェクは落ち着いた様子で語っていた。

 ベークマン伯爵とは婚姻の儀の際にちらっと顔を見たくらいで、式の中で失神してしまったがゆえに正式な挨拶を交わすことはなかったななどと思い出す。
 それからずっとら屋敷にこもっていたため、結局話す機会さえなかった。

 ヘドヴィカは悠長に考えていた
 ベークマン伯爵の来訪の知らせも、ヘドヴィカ自身の男性不信の告白に関しても、自分にとって大きな障害になるという自覚がなかった。

「あの……ベークマン伯爵家からお客様が参られたのですが……」

 ボジェクが手紙を受け取った翌日のことだ。
 コリーが主であるヘドヴィカにはなしかけてきた。

「もしかして昨日旦那様がおっしゃってた件かしら?」

 ヘドヴィカ付きの使用人であるコリーももちろん新婚旅行にはついてきてくれていた。そんな彼女は今現在、困惑の最中にいるようで。ヘドヴィカの質問にぐっと言葉を詰まらせて曖昧に頷く。

 ベークマン伯爵にはきちんと挨拶が出来ていなかったため、屋敷へ来訪されたら自分に知らせて欲しいと昨日コリーに伝えていたのだ。
 コリーはヘドヴィカの様子を伺いながら、言葉を選ぶようにして視線を上に向けて考え込む。

「ええと、そうなのですが……」

「……?」

 自分付きの使用人の曖昧な口調にはヘドヴィカは首を傾げた。
 なぜ彼女がこれほどに言い淀んでいるのか、ヘドヴィカには理解ができなかったからだ。

「ええと……来訪されたのなら今度こそ挨拶に行かないとね」

「奥様! えっと、実は伯爵様ではない別の方が代理として訪ねてこられたんですが……旦那様が奥様を絶対呼ぶなとおっしゃり、部屋からも出すなと……」

「どういうことかしら」

 コリーも幼なげな顔に疑念と困惑を浮かべ、主人であるヘドヴィカの顔色を伺っていた。どうやら彼女は来訪されたら教えて欲しいと伝えていたヘドヴィカと、連れてくるなと命令するボジェクとの間で板挟みになっていたらしい。

 それでもヘドヴィカの命令を優先し、ボジェクの考えをこっそりと伝えてくれたらしい。

「その、旦那様の機嫌が非常に悪くて……今はあまり近づかない方がいいかもしれません」

「お客様が来訪されたのに? よく分からないけど、コリーがそこまでいうなんて相当ね」

 いつもはきはきと明るい彼女の表現をこれほどまでに曇らせるとは、相当ボジェクは機嫌を損ねているに違いない。

(使用人にも伝わるくらいピリついているなんて……一体何があったの? というか、伯爵様ではないって──)

 考え込むヘドヴィカだったが、突如部屋の外から怒鳴り声が届く。なにやら廊下で騒ぎがあったのか、突然の事態にヘドヴィカとコリーは目を合わせた。

(大声で騒ぐなんて喧嘩?)

 このまま何もせず部屋に引っ込んでいるわけにも行かず、ヘドヴィカは廊下へと顔を出した。
 そこにいたのは夫であるボジェクと──見知らない後ろ姿の男性だった。その男性の金色の髪が廊下の中で燦然と輝いている。

「……なんでお前がここに! 留学はどうしたんだ! 帰国はもっと後だと聞いたが! それに伯爵の代理? 一体どういうことだ!?」

「……そんなに怒らないでほしいな。ほんと、ボジェクは昔から変わらないよ。もう少し落ち着いてくれないと話もできない」
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