28 / 83
急転直下2
しおりを挟むもしかして自分はすでに男性恐怖症を克服しているのかもしれない。ボジェクとの触れ合いや街中を出歩いたことで自信がついていた。
そんな心中で、ヘドヴィカは油断していたのかもしれない。
長年根付いた病がそう簡単に治ることはないこと。
これからくる一波乱にヘドヴィカの心はひどく掻き回されるということを。
「先刻手紙が来て、分家のベークマン伯爵が折を見て挨拶に来ると記載があった。彼は穏やかな気性で接しやすくはあるだろうが、一応伝えておく」
街中へに赴いた翌日、ボジェクから告げられた。
親戚であるベークマン伯爵とボジェクはそれなりに親しい仲であり、この別荘に来たときには必ず訪ねてくるらしい。ボジェクは落ち着いた様子で語っていた。
ベークマン伯爵とは婚姻の儀の際にちらっと顔を見たくらいで、式の中で失神してしまったがゆえに正式な挨拶を交わすことはなかったななどと思い出す。
それからずっとら屋敷にこもっていたため、結局話す機会さえなかった。
ヘドヴィカは悠長に考えていた
ベークマン伯爵の来訪の知らせも、ヘドヴィカ自身の男性不信の告白に関しても、自分にとって大きな障害になるという自覚がなかった。
「あの……ベークマン伯爵家からお客様が参られたのですが……」
ボジェクが手紙を受け取った翌日のことだ。
コリーが主であるヘドヴィカにはなしかけてきた。
「もしかして昨日旦那様がおっしゃってた件かしら?」
ヘドヴィカ付きの使用人であるコリーももちろん新婚旅行にはついてきてくれていた。そんな彼女は今現在、困惑の最中にいるようで。ヘドヴィカの質問にぐっと言葉を詰まらせて曖昧に頷く。
ベークマン伯爵にはきちんと挨拶が出来ていなかったため、屋敷へ来訪されたら自分に知らせて欲しいと昨日コリーに伝えていたのだ。
コリーはヘドヴィカの様子を伺いながら、言葉を選ぶようにして視線を上に向けて考え込む。
「ええと、そうなのですが……」
「……?」
自分付きの使用人の曖昧な口調にはヘドヴィカは首を傾げた。
なぜ彼女がこれほどに言い淀んでいるのか、ヘドヴィカには理解ができなかったからだ。
「ええと……来訪されたのなら今度こそ挨拶に行かないとね」
「奥様! えっと、実は伯爵様ではない別の方が代理として訪ねてこられたんですが……旦那様が奥様を絶対呼ぶなとおっしゃり、部屋からも出すなと……」
「どういうことかしら」
コリーも幼なげな顔に疑念と困惑を浮かべ、主人であるヘドヴィカの顔色を伺っていた。どうやら彼女は来訪されたら教えて欲しいと伝えていたヘドヴィカと、連れてくるなと命令するボジェクとの間で板挟みになっていたらしい。
それでもヘドヴィカの命令を優先し、ボジェクの考えをこっそりと伝えてくれたらしい。
「その、旦那様の機嫌が非常に悪くて……今はあまり近づかない方がいいかもしれません」
「お客様が来訪されたのに? よく分からないけど、コリーがそこまでいうなんて相当ね」
いつもはきはきと明るい彼女の表現をこれほどまでに曇らせるとは、相当ボジェクは機嫌を損ねているに違いない。
(使用人にも伝わるくらいピリついているなんて……一体何があったの? というか、伯爵様ではないって──)
考え込むヘドヴィカだったが、突如部屋の外から怒鳴り声が届く。なにやら廊下で騒ぎがあったのか、突然の事態にヘドヴィカとコリーは目を合わせた。
(大声で騒ぐなんて喧嘩?)
このまま何もせず部屋に引っ込んでいるわけにも行かず、ヘドヴィカは廊下へと顔を出した。
そこにいたのは夫であるボジェクと──見知らない後ろ姿の男性だった。その男性の金色の髪が廊下の中で燦然と輝いている。
「……なんでお前がここに! 留学はどうしたんだ! 帰国はもっと後だと聞いたが! それに伯爵の代理? 一体どういうことだ!?」
「……そんなに怒らないでほしいな。ほんと、ボジェクは昔から変わらないよ。もう少し落ち着いてくれないと話もできない」
187
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる