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同衾にて1
しおりを挟む厚手の寝巻きに白いカーディガンを羽織ったヘドヴィカはコリーの入れてくれたホットミルクを口に含み、ソファにかけていた。
手元には自室の本棚にあった冒険譚の本がある。
寝る前に読書をする習慣があるがゆえだ。
「待たせたな」
廊下での会話からそう時間も経たず、ボジェクはやってきた。漆黒の髪が水気を帯びている。
以前のようなバスローブ姿ではなく、紺色の寝巻きに身を包んでいたことに一安心する。
「髪が……」
このままでは風邪をひきそうだと思い、無意識に指摘してしまった。ボジェクは「これくらい平気だ」と平然と言い切る。
けれど見ている側としてはどうしても気になってしまうのだから仕方ない。ヘドヴィカは手元の本を閉じ、デスクの上に置いた。
「旦那様、こちらへきてください」
「……? なんだ?」
ヘドヴィカは手招きし、彼を強引にソファへと座らせる。
腕を引かれたボジェクの表情は驚きの色を宿していた。
彼が形式的にとばかりに肩にかけていたタオルを手に取り、濡れ鼠な頭を拭いていく。
(綺麗な黒い髪。猫っ毛でふわふわしてるわ。私の髪と全然違うのね)
ヘドヴィカの銀髪は柔らかくはあるが、すとんと落ちてしまう程直毛だった。カールさせるのも一苦労だと使用人が口にしていたのを思い出す。
髪の水滴をしっかりと拭き取っていると、最初は抵抗を示していた彼も次第に大人しくなっていった。
撫でるようにタオルで拭き取っていれば。
「……っ、そろそろいいだろ! お前の触り方、なんかくすぐったいんだ」
「そうでしょうか? 優しく拭かれたほうが心地よくありません?」
「それはお前の好みだろう」
なぜか焦ったような口調の彼を見て、人には好みがあるから仕方ないからと納得した。
まだ若干湿っているが、大体水気は取れたはずだ。
(これくらいなら許容範囲ね)
うん、と頷いたあと満足げに口元を緩める。
彼の顔を覗き込めばなぜか機嫌を損ねしまったようで、ふいっと逸らされてしまった。耳介が赤く染まっており、くすぐったいのが相当気に入らなかったのだろうと思いつく。
さりげなく機嫌を取ろうと優しく問いかけた。
「旦那様はホットミルク飲まれますか? コリーが入れてくれたんです」
「いや、俺はいい」
「そうですか。……それならそろそろベッドに入りましょうか」
ヘドヴィカから提案すれば、彼は沈黙したままソファから立ち上がった。言葉に従うよう、彼の方が先に寝台のそばまで歩き始めた。読書用に置いていたランプを消した後、ヘドヴィカは寝台に登った。掛布をとシーツの間に足を潜らせる。
「どうされましたか?」
なせだか寝台に上がることなく、ぼんやりとヘドヴィカを見ていたボジェク。声をかけると、はっ、と顔を上げた。
まるで今まさに夢から覚めたばかりのような顔つきだ。
「ベッド、入らないんですか?」
問いかけながら、ヘドヴィカは考えこむ。
(……もしかしてやっぱり直前になって同衾するのがいやになったのでは? 隣に人がいると眠れないっていう方もいるって聞いたことがあるわ)
無理をしなくてもいい、と言葉にしようとしたそのとき。
凍りついたように固まっていたボジェクの体が動きだす。
見ればおそるおそるといった様子で寝台に上がってきたようだ。
(私の杞憂だったみたいね。でもなんだか──)
寝台に上がった途端、ボジェクはヘドヴィカを視界に入れることを厭うように背中をむき続けた。
まるで喧嘩したあとの恋人のように会話を拒否するような姿勢を見せ、当たり前だが視線を合わせようともしない。
「旦那様」
ヘドヴィカの声に一瞬肩をびくつかせた彼は沈黙を貫いた。聞こえていないとばかりに無視をされ、さすがのヘドヴィカもむっとしてしまう。
「……はぁ、もういいです!」
「……っ」
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