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変わる関係性1
しおりを挟むその火照った体を持て余したヘドヴィカは息を殺すようにして寝台で目を瞑り続けた。
しばらくしてガチャリと部屋の扉が開かれたかと思うと、寝台に上がる人の気配がした。
(……旦那様ね)
目を開けていないが、なんとなくの気配でわかる。ボジェクだ。
彼がごろりと横たわったと理解する。
どくどくと自分の心臓の音がうるさかった。
先刻見た光景を思い出すだけで、なんとももどかしいような不思議な感覚が全身を駆け抜ける。息が苦しく、体も熱く、どうにかなってしまいそうだった。
このままじっとしていることが辛くなり、ヘドヴィカは寝返りを打ってボジェクに背を向けた。
それでも背後の彼が気になって仕方がない。
(気まずくて眠れそうにないわ。あんなこと聞いてしまうなんて思わなかったんだもの)
背中を丸めたまま、掛布を顔まで引き上げる。
しばらく我慢してじっと耐え忍んでいれば、背後から穏やかな寝息が聞こえ始めた。
(……っ! 人がこんなにもやもやとしているのに、この人は寝ているの!? しかたない、私も何か別のことでも考えれば寝れるかもしれないわ!)
モヤモヤとし続ける感情を無理やり押し込め、日中、目にしたばかりの美しい湖の光景を思い起こす。
風で靡く水面がまるで宝石のようで、見ているだけでも穏やかな気持ちにさせられた。
少しずつ心が凪いでいく。
ようやく火照り切った体の熱が落ち着いてきて、ヘドヴィカも今一度眠りにつくことが出来そうだと安堵した。
けれどもそう簡単には上手くいかず。またもやあの光景と声がまるでたちの悪い風邪のようにぶり返し脳内に映し出され、その度に足をばたつかせたくなる。
思考を繰り返していれば、気がついたときには夜も明けていた。
ヘドヴィカはその晩、結局眠りにつくことが叶わなかった。
「おいヘドヴィカ。お前、クマがすごいが……眠れなかったのか?」
起床一番に問いかけられ、ヘドヴィカはむっとしながら眉間を寄せた。
コリーが朝の支度のための準備をしている間、寝起きのボジェクはヘドヴィカに対して平然とした様子で問いかけてきたのだ。昨晩の事などなかったかのように。
彼はソファに腰掛け、長い足を組んでヘドヴィカへと顔を向けてくる。
ヘドヴィカは負けじと澄まし顔で口を開いた。
「そういうあなたはすっかり眠れて……って、ええと? 旦那様もあまり顔色が良くないようで──」
「そ、それは疲労がまだ回復しきれてないからだ! 昨日は日中、仕事に追われ続けていたんだぞ。普通なら三日かかる仕事を一日で終わらせたんだ。そう簡単に回復できたら苦労しない」
なぜか焦りを見せるボジェクだったが、今のヘドヴィカにとってそんなことよりも昨晩深夜の出来事の方が重大だった。言葉も上の空のまま、聞き流す。
脳裏を占めるのは彼が切なげにつぶやいた告白と思わしき言葉と、愛しいものを前にしたような表情。
過去に恋人の一人もいたことがないヘドヴィカにとってどう処理すればいいのかわからず、手に余るのは致し方ないことだろう。
コリーが来るまでまだ少し時間がありそうで、ヘドヴィカは迷ったのち、素直に昨晩のことを吐き出すことを決意した。あの時見てしまった光景、そして言葉を言葉にしようと口を開く。
「だ、旦那様……昨晩はその……結構な時間、ベッドを抜け出してましたが──」
「あ、ああ! それは……そう、仕事! さ、昨日仕上げた書類なんだが、あとになってどうしても気に入らない点があってそれを直しに行ってたんだ。ど、どうしてももやもやして寝付けなくなるから、仕方なくな!」
白々しい嘘に騙されることはない。
はっきりとあの光景と言葉が脳裏に刻まれているのだから。
覚悟を決め、ごくりと唾を飲み込んだ。
緊張で手が震える。
「実は私、見てしまったんです」
「な、なにをだ」
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