お断ちになった恋愛感情は現在使われておりません。

椿かもめ

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変わる関係性2

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 ぎょっとしたように顔を向けられ、ボジェクは隠し事をするのが下手なのかもしれないと今更ながらに理解する。

 きっと彼もヘドヴィカにはバレたくなくて、こっそり寝台から抜け出したのだ。と分かってはいるが、ヘドヴィカはあの言葉の意味を知りたかった。
 今、自分は紛れもなく彼の妻なのだから、きっと少しは知る権利くらいあるはずだ。

 無理矢理他人の気持ちを覗いたことに罪悪感もなくはないが、10年前のことを考えるとお互い様と言えなくもない。
 自分がすっきりするための質問だと分かっている。
 湧き上がる罪悪感に蓋をし、ヘドヴィカはおそるおそる尋ねた。

「昨日まで私が寝ていた部屋で、その……旦那様が私の寝室で私のカーディガンを抱きしめている光景を」

「……っ!?」

 彼はソファから跳ねるように立ち上がった。

「つぶやいていた『好きだ』という言葉も聞いてしまいました。…………ほんとう、なんですか?」

 息を呑み、硬直する。
 微動だにしない彼は、みるみるうちに顔を紅潮させていった。
 しばらくして口をぱくぱくと開閉し、突如ヘドヴィカを睨みつけてくる。

「ば、馬っ鹿じゃねぇの!? な、な、なんでそんなことこの場で言うんだよ!? お前、で、デリカシーってもんがねぇのか!」

「っ、デリカシーの有無をあなたに指摘されたくないです! 一番そういう配慮がなかったのは旦那様の方でしょう!?」

 反射的に大きな声で言い返してしまう。
 ボジェクは相変わらず首から耳の先端まで赤くしたまま、一瞬口籠った。けれどそれで終わるような人ではなく、怒りを滲ませたまま言い募る。

「そ、それはそれだっ! 今は関係ねぇだろっ! お前っ、本当に覗いてたのか! ぶ、無遠慮な女だな!」

 本気で怒っているというよりも、圧倒的な羞恥からくる激情なのだとさすがのヘドヴィカでも察することが出来た。大量に汗をかいており、顔から火が出るとはこのことだと言わんばかりの様子だ。

 だからなのだろう。10年前のあの頃は反撃することなど夢にも考えていなかったヘドヴィカも、平然と言葉を返していた。

「無遠慮って……別に見たくてみたわけじゃありません! それよりもあの言葉は何かの聞き間違いなのかが気になっていて。やっぱり私の勘違い──」

「っ、勘違いなんかじゃねぇ!」

 ボジェクは即座に否定した。
 ヘドヴィカは「え」と小さく声を漏らし、彼をじっと見つめる。ボジェクの真っ赤な瞳とかち合った。
 反射だったのだろう。勘違いじゃないと口にした彼自身が驚いているようにも見える。

 彼は居心地悪そうに口を結んだ。
 しばらくの間、ボジェクはなにかを言い渋るように沈黙を貫き続ける。
 頼りなさげに怖気付いているようにも見えた。
 いつもの自信過剰な雰囲気はどこかへ隠れてしまい、心許ないとばかりに瞳を揺らすのが印象的だ。

 ヘドヴィカの方も思考が停止していた。

(好きというのは──聞き間違いじゃない?)

 言葉の意味を追うように、じっくりと冷静になって発言をなぞっていく。そしてすべての意味を理解したとき、全身がかっと熱を帯びた。
 昨晩と同じようにひどく落ち着かない気持ちが込み上げ、勝手に呼吸が止まる。

 二人はしばらく言葉もないまま見つめあっていた。

 どちらが先に話し出すのか分からないまま、時は進み続ける。

 結局その場を動かしたのは、第三者で──。

 こんこん、と部屋の扉がノックされたのだ。

「「……っ」」

 二人して声にない声をあげ、瞬時に視線を逸らしあった。

 ヘドヴィカは混乱と動揺で頭が回らない中、とりあえず「は、入ってちょうだい」と返答する。

「失礼いたします! 奥様の朝のお支度の準備が整いました」

 入室してきたコリーはつい数秒前の空気など知る由もなく、いつも通りの明朗さでヘドヴィカの元へと歩み寄ってきた。
 
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