お断ちになった恋愛感情は現在使われておりません。

椿かもめ

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変わる関係性2

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「旦那様のお支度の準備もあるので、いつものお部屋に奥様の朝のお支度の準備をさせていただいております!」

「そ、そうなのね。それではいきましょうか」

 平然と取り繕う女主人の隣でコリーは元気よく返答する。

「はい!」

 ヘドヴィカは何も告げないまま、扉へと向かう。
 見送るボジェクは何か言いたげにちらちらと視線を寄越してきていたが、いまのヘドヴィカは上手く受け流すことなど出来ようもなく。知らぬ存ぜぬを貫いたまま、寝室を後にした。

(……こ、コリーが来てくれていて助かったわ。なんて言えばいいのかわからなかったから)

 ヘドヴィカはその場で腕を擦った。
 ひんやりとした空気が肌を突き刺し、肌寒さを感じたからだ。
 それを察したコリーは主人の肩に何かをかけてきた。

「大変失礼いたしました! お寒いですよね! ちゃんとカーディガンを用意しておりますよ」

「っ」

 視界に入ったのは、昨晩ボジェクが勝手に持ち出した純白のカーディガンだった。そう長い間ではないが、一時持ち主の手から離れたそれだったが、見る限り一切奪われた形跡もなく、無事に帰ってきたらしい。

 一瞬にして昨晩の出来事を想起させられてしまい、ヘドヴィカはその場で立ちくらんだ。
 驚いたコリーがすぐさま腰を抱えて受け止めたが、顔を真っ青にさせて「もしやお風邪を召されていらっしゃるのでは!?」と問いかけてくるので慌てて首を振って否定する。

(完全に寝不足ね)

 ボジェクにクマを指摘されたばかりだ。
 この立ちくらみが寝不足からくるものだというのは自分でもよく理解していた。

 肩にかけられたカーディガンを手のひらでなぞった。『好きだ』とヘドヴィカ本人のように抱きしめられていたが、不思議と不快な感じはしなかった。

(勝手に持ち出されたことは気になるけど、ただ抱きしめられていただけだし……気にすることじゃないわよね)

 ヘドヴィカは肌寒さをから身を守るようにカーディガンを羽織直し、自室へと足を向けた。

 支度を終えたあと、いつも通りに朝食を取るために食堂へと向かった。

「……ぁ」

 当然ながらボジェクと顔を突き合わせることになり、思わず声を漏らす。
 彼の方も決まりが悪いような面持ちで目を逸らしていた。変わり映えのしない通常通りの食事だったが、いつにも増して場は重たい。

 配膳担当の使用人らも二人の間に何かがあったことを察してか、いつも以上に緊張感に身をすくませているように見えた。
 
 無理矢理食事を口に運ぶ中、先に口を開いたのはボジェクで。

「あー、今日は……その、予定はあるのか?」

 仏頂面ではあるものの、場の空気に比べて口調は異様に明るかった。それが余計に違和感を引き立て、誰の目からもぎこちない空気が丸わかりだ。

 ヘドヴィカも彼の口調と雰囲気に流されたくちで、いつにも増して高揚気味に口走る。

「い、いいえ! 特にありませんわ! 暇を持て余しております!」

「そ、そうか。それなら──」

 ボジェクが言いかけた途端、いきなり食堂の扉が開かれた。
 反射的に視線ん向ければどうやら夫の側近らしく、「お食事中、申し訳ございません」と謝罪を口にする。
 側近の態度は落ち着いていた。その手元には手紙が握られており、ヘドヴィカに一礼したあとボジェクへと駆け寄っていく。

「おまえ! こいつは男が苦手だからいきなり立ち入ってくるなって再三言って──」

「私は大丈夫ですよ」

 どうやらヘドヴィカを心配してくれたのだろう。
 男性不信を思い遣っての言葉が嬉しく、礼を述べる。

 それでも言葉を遮られたのもあってか、ボジェクはいかにも不機嫌といった面持ちで側近を睨みつけていた。きっと慣れっこなのだろう、気にするでもなく側近の男は手に持った手紙を渡す。

 ちらりと差出人を見たボジェクは舌打ちをした。

「ちっ、またアダムか」

 昨日邂逅しかたばかりの彼がボジェクに手紙とは。
 ヘドヴィカの疑念も膨らむ中、彼はご機嫌斜めで手元のそれを開封した。
 一読したあと、嫌味を含んだ口調で「くそが」と囁く。

 鋭い目線をヘドヴィカへ移し、嫌々と言わんばかりに告げてきた。

「アダムが本日また訪ねてくるそうだ。なにか込み入った話があるらしい。……俺とお前、二人揃って待っていてほしいということだ」

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