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ボジェク7
しおりを挟む「坊ちゃま方! なぜこのようなことを!」
今日はたまたま教育係兼従者の役割を担う侍従が付き添っていた。
少し確認事項があると言って2人のそばを離れた隙にこのような事態が発生し、侍従はあたふたとしながら叱りつけてくる。
アダムに関しては傍観者で巻き込まれ損だと分かっていたが、ヘドヴィカの視線を奪っていることにすら気が付かない鈍感さが癇に障り、気を回して伝える気さえ起きなかった。
「いいですか! あなた方は自分が名門ベークマン一族の一員だということを忘れずに行動してくださいませ! さもなくば、ご当主様に報告させていただきますから。次に何かをしでかしたときはご覚悟くださいね」
庭園の隅で厳重注意を受けた二人は平然とした顔で侍従と別れた。今まさに叱責されたばかりだというのに、子供らしくないだろう。
幼色から厳しい目で監視され、叱咤を受け続けることが当たり前の名門ベークマンの二人にとっては慣れっこだった。
長かった小言から解放され、庭を歩いている途中で銀色の髪が瞬間視界に入った。すぐヘドヴィカが隠れていると察知したボジェクは足早に近づかんとするが。
けれどそれを引き留める手があり。
アダムは小声で囁いてくる。
「……あの人、まだ近くにいるよ。あんまり目立つことをしてたら今度こそ公爵様に報告されてしまう……それは君も望まないことだろう?」
たしかに父のひと言で茶会行きを禁止されてしまうことなど想像に容易い。
ボジェクは苛立ち紛れに舌打ちをし、その場で立ち止まることしかできなかった。
背後からアダムに追い越され、ヘドヴィカの心を慰めようと話しかけている。
「ヘドヴィカ嬢、先ほどはボジェクを止められなくてごめんね」
甘ったるい猫被りな声色がどうにも慣れず、気色悪くて鳥肌が立った。
ボジェクはふとヘドヴィカに目を移す。
彼女は自分とは対照的に頬を赤らめ、まるで見知らぬ令嬢らがボジェクたちに向けてくるような熱い視線を向けていた。そしてその相手は当然のごとくアダムだ。
いつもは感情的にヘドヴィカを追い詰めるばかりだったから、今のように離れた場所で客観的に視二人の様子を観察することはほとんどなかった。
だから気がついてしまった。
ヘドヴィカが向けるアダムへの感情の意味を。
「お前、もしかしてアダムのことが好きなのか?」
図星なのだとすぐに分かった。
ヘドヴィカは嘘が下手だ。
感情がすぐに表に出るから。
顔を紅潮させ、ぷるぷると震える様がアダムへの好意を肯定していた。
途端、ボジェクは混乱した。
とりあえず慣れたようにヘドヴィカを馬鹿にしなければと、口角をひくつかせながらも笑い飛ばすことに専念する。
そのときばかりは長年染みついた行動に助けられた。
そうでなければ、呆然とその場で立ち尽くし続けていただろうか。
「おいアダム! こいつ、お前のこと好きなんだって! 身の程知らずにもほどかあるっつーの! ははっ、子豚姫のくせに、アダムが好きとかこんな笑える話あるか?」
「お、おいボジェク……」
「残念だったな、ヘドヴィカ! 知ってるか、こいつ影でお前のこと子豚姫って呼びまくってるんだぜ。あと、この茶会に参加してる令嬢の中で一番『ない』ってさ!」
感情とは別に、捲し立てるように唇が勝手に動いた。
言葉を吐き続けているうちにヘドヴィカへの怒りを自覚し、次第に憎しみへと変貌した。
(……は? ヘドヴィカのくせに、なんで勝手にアダムなんかを好きになったんだ? いつだ? なぜ、どうしてだ? 何がきっかけだった? 意味わかんねぇよ、くそっ!)
今まで感じたことのないような真っ黒い感情が胸の奥深くに広がっていくような気がした。
同時に吐き気と頭痛を催し、喉がからからになっていく。
わけがわかなかった。
けれど一つだけ理解したことがある。
己の反応が叫んでいた。
──自分はヘドヴィカを傷つけたいんだ、と。
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