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ボジェク9
しおりを挟む悪いことは続くもので。
母が病の末、命を落としたのだ。
ずっと闘病し続けていたが、ついに命の炎は燃え尽きてしまった。
ボジェクは涙ながらに母の亡骸を目に焼き付ける。
体が弱い人だったが、厳しさと優しさが同居する尊敬に値する人だった。そんな母のことを不器用ながらになによりも大事にしていた。
けれど、そんなボジェクの心などいざ知らず。
父は母が亡くなった数ヶ月後には新たに後妻を迎えた。 政治的な繋がりを求めた政略結婚で、父とはかなり歳が離れた女だった。きっとボジェクと並べば姉弟にしか見えないだろう。
新たな母とは折り合いが悪いとまではいかないものの、今まで以上に実家は居心地の悪いものとなった。
実家がばたついている合間を縫って、ヘドヴィカの屋敷を訪ねた。
彼女はあの日以来、茶会には参加していなかったからだ。
傷つけてしまったことは明白で、ただ謝りたかった。
アダムを連れて彼女の住む王都の屋敷を訪ねるが。
「はぁ。帰ってくれ。あの子は病で寝込んでいるんだ。いま合わせるわけにはいかない」
ヘドヴィカの兄であるフィリプは真剣な顔つきで言い切る。取りつく島もない様子に断念せざるを得なかった。
(病ってどういうことだよ。……フィリプの様子からみてまるっきし嘘ではというのは分かるが……絶対半分は私情も混じってるだろ)
幼い頃からヘドヴィカに意地悪をしている姿を見てきたフィリプは、ボジェクをあからさまに疎んでいた。ボジェクもそれを自覚している。
最愛の妹が常に幼馴染に困らされているのを見てしたのだから頷ける話だ。
それでも諦めきれないボジェクは度々屋敷を訪ね続けた。
「何度訪ねてきても合わせることはできないよ.ヘドヴィカは病なのだから。諦めてくれ」
「……また来る」
背後に佇むアダムも表情から諦めが滲み出ていた。
どうしてボジェクがここまで縋っているのか、内心など知らないアダムはきっと理解できないだろう。
最近では屋敷に行く前から腰が重そうだ。
ボジェクは一言謝りたかったのに、それさえも許してもらえないようだった。
ヘドヴィカに告白しようとするでもなく、ただ今は一目会いたい。あの紫の瞳をが恋しい。
けれどそれから数日後、ヘドヴィカは王都から領地の屋敷へと引っ越してしまったようだった。
ボジェクはそれでも諦めきれなかった。
馬車を使い、片道一日程度かけてバリーク領を訪れた。
アダムは完全に諦め、無駄足だとばかりに同行を断った。
「最近は勉学も忙しいし、そこまではできないよ。僕は伯爵家の跡取りだから尚更ね」
そう言われても無理矢理連れていくことは可能だったが、それでは今までのボジェクと変わらない。
人の気持ちを蔑ろにし、自分の意見を押し付けるだけでは駄目なのだから。
(……俺は変わらないといけない。そうでなければ、母にも顔負けができない。当然ヘドヴィカにも……)
結局何度バリーク領の屋敷を訪ねてもヘドヴィカと顔を合わせることはできず。
幾度も断られ続ける日々を経て、気がつけば5年が経っていた。
「僕は外国に留学に行くんだ。君はどうするつもりなの、ボジェク?」
「俺は──」
アダムの問いに一瞬惑う。
自分のやりたいことなど、深く考えたことはなかった。 父のことは嫌いだが、きっとこのままであればボジェクに対して、こうしろああしろと指図してくるに違いない。
己の道を見つけるべく、ボジェクもアダム同じく外国への留学を決めた。
国から経つとき、結局一度も会えずじまいのヘドヴィカのことだけが心残りだった。
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