焔娘の眼は紅い

殺音鬼

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序曲 小さな世界 ~オーバーチュール~

レイの行方

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「あの、…ここは?」

「目が覚めた!」
「起きた!」
「起きた起きた!」
私が起き上がり声を発すると周りにいた小人が口々に騒ぎ立てた。
「えっと…」
状況が良くのみ込めない。私ひとりが体育座りでやっと入れるぐらいの箱のような中にいた。周りには小人達が集まり私を見ている。
「これ、みんな騒ぐでない」
その中から現れたのはいかにも長老という感じの小人だった。そのしわがれた声に皆が静止した。
「この度はいきなり連れ去って申し訳なかったな、私はマイチス。ドワーフの群れの長じゃ。あの強情者、エスタルトの嫁に嫁ができたと聞いてな。少し手荒だったが挨拶しようと思ったのじゃ」
「は、はあ…、私はレイです。よろしくお願いします」
「はっはっは、そんなにかたくならんくともよいぞ。安心せい、直に来るはずじゃぞ?」
誰が…と聞く前にその答えはわかった。何故ならこの箱の天井が開いて人影が映ったからだ。

「エスタルト!」

「レイ!良かった、無事で」

エスタルトの差し出した手に触れなんとかその箱から出る。スカート1枚の私は少し恥ずかしかったがそのまま従った。
「よう、元気しとるかエスタルト」
「見た通りじゃないか、ぴんぴんしてるよ」
「そんなことよりお前の嫁さんを誘拐してすまんな、心配せんでいい、少し挨拶をしただけじゃよ」
「はぁ、いい加減にしてよ全く…」
そのやり取りを傍らで聞いていたがいきなりエスタルトがこちらに向いた。
「紹介が遅れたね、彼は…名前は知ってるかな。マイチスだ。私の元親友だよ」
「元ってどう言ういみじゃ」
「もちろん今も親友さ」
「嘘つけこの若僧」

外は少し赤く染まっていて夜が近づいていることを表していた。エスタルトは空を仰ぐ。


「さ、レイ。帰ろう、メイダに怒られてしまうな。キルトの花も摘んだし、行こうか」

「はい!」

「私の嫁がお世話になったね」
「ありがとうございました」
「いいんじゃ、また遊びにきておくれ」

「.…さようなら!」

エスタルトは家への転送呪文を唱えた。
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