断罪のアベル

都沢むくどり

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上弦の章 帝国内乱

憔悴した彼女/現れるカノジョ

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 パンドラは手を出さないと言ってはいたが、心配だ。

 そろそろカレン達の様子を見に行くか。

「クラリーチェ」

「………………………」

 返事がない。

 呼吸はしている。

「気を失っているのか」

 クラリーチェは眠っていた。

 そのモフモフした肉体を拾い上げ、俺は彼女達がいるであろう方角へ歩を進める。

「………………………」

 大罪と断罪。

 言葉の意味だけで見れば、全く正反対の単語。

 試練は訪れ、お互いがぶつかり合いあった。

 この両者の出会いは何を意味するか?

 後々何に影響するか?

 ノアの意味深な言葉の裏は?

 執着、依存。

 ソフィーとパンドラ。

 考える事が山積みになり、まとまらなくなる。

 俺は没頭していた考えを一度やめた。

 ちょうど二人の姿が見えたからだ。

「…………………………」

「…………………………」

 カレンはどこか呆けたまま膝立ちになり、カエデさんはそんな彼女を心配そうに見守っていた。

 さて、どう声をかけるべきか。

「はぁ…………」

 ため息にカエデさんが反応した。

 ならばと俺は手招きをする。

 すると、カエデさんはカレンに気を使ってか音を立てないように歩いて来た。

「カエデさん、彼女に何があったんですか」

 自然と声は小さくなる。

「いや、それがだな…………………」

 カエデさんはひと呼吸置いて話し始める。

「先代のノスタルジア家当主、ヴィルヘルム様のご遺体をご覧になられてからあのご様子なのだ」

 見ただけで? パンドラの能力的にそういった要素はあまりなさそうだが、精神面だろうか。

「お前ごときに話すかどうか悩んだが、一応従士だからな、この際教えてやろう。カレン様のお父上はな…………………見るにも無惨なお姿で亡くなられたのだ。臓器を抉り出され、喉元から出た大量の血で作られた絨毯のシミの上に横たわるお姿をご覧になったカレン様はそれ以降、お前と関わる頃までそれはもう口を閉ざされてしまった………………」

 カレンの父親、ヴィルヘルム・ノスタルジアが殺されたのは知っていたが、そこまで凄惨だったのか。

「先程の小さい女が出した遺体。あれは顔、服、傷口からして間違えなくヴィルヘルム様だ。カレン様は錯乱してしまったんだろう。あの女の言葉やお父上のお姿、ご遺体から出るカレン、カレンと呼び続ける声、あの日に焼き付けられた、衝撃の光景をその場で掘り起こしてしまった情報の多さに…………………」

「ちょっと待ってください」

「何だ?」

 俺の質問に嫌そうな表情を浮かべるカエデさん。

 だが、今は質問を優先させよう。

「パンドラが死体を所持しているなら、死体は掘り起こされたはずです。それに、パンドラと先代の当主の関係について、カエデさんやカレンは知っていたんですか?」

「ヴィルヘルム様は生前、自分の身に何かあった時は騎士の時代だった頃から領有していたリトラル村の墓に埋まりたいと仰っていた。だから、リトラル村に埋葬していた……………」

「? リトラル村をあちこち探した事がありますが、前当主の墓は見つかりませんでしたよ?」

 ベルギウス貴族と言えば豪勢な墓が一般的だ。

 かつて散策した時、そんなのは見当たらなかったが。

「お前も来たことがあったな……………。まぁ、村人の墓場と同じ場所に埋葬されていたから当然と言えば当然か…………………」

 民と同じ墓場。

 彼にとってそれほどリトラル村は大切で、家族同然の村だったのだろう。娘にもその意志は受け継がれたが、それももうない……………………。

 結局、パンドラの能力のエサにされてしまった。

「それと、ヴィルヘルム様は何もあの女との事は口に出していなかった。パンドラと言う名前も、さっき知ったところだ」

 そう言い、手首を痛そうにしながら擦る。

「生前、帝国議会の極秘の招集で遠くまで遠征していたが、会ったとすればおそらくその時の事だろう」

 結局、パンドラの存在は闇に包まれたままだった。

 ダリア教団の存在は周知されていない。

 だとすると、帝国議会の上層部しか知らないのだろうか。

 カインについても個人的に知りたい。

 触れてはならない物のように思うが、自身も当事者である。知る権利はあるはずだ。

「とりあえずカレン様を夜明けまで休ませる。寝所にお連れするから手伝え」

「はい」

 カエデさんに従い、呆然としたカレンを連れながら歩いて戻る。

 その瞳は空虚だった。

 何も考えていない。

 カエデさんに腕を引かれながら歩くその姿に、俺は可愛そうだと感じてしまった。

 年齢に見合わぬ苦難ばかりを味わってきた彼女は、途中でおかしくなってしまうのではないか、と。




「あなたは共感こそするものの、妹さん以外には同情しない」

「……………………!」

 俯きながら歩いているカレンの口元から声が聞こえる。

 顔は角度的に見えないが、確かにノアの声だった。

 連れ歩いているカエデさんは何も気づいていないようだ。

「でも、それでいいんですよ。妹至上主義、それがあなたの自我なんですから。断罪ノ鎌を契約したのだって、使い続けるのだって、あなたが一縷の望みでも妹さんに会いたいと思うからでしょう?」

「……………………………」

「エゴを貫くなら、他者を踏み台にしても構わない。あなたの能力も断罪と言われていても、所詮は血を必要とする。まさにあなたの象徴ですね」

「チッ……………………」

「足掻きなさい、試練の中で。それがあなたの運命なんですから」

 そう言うと、それからは黙り込んでしまった。

 顔を覗いて見ると、気の抜けたカレンだった。

 ノアめ、わざわざそんなことを言うために出てきたのか。

「なんだ? 舌打ちなんかして」

「いえ、パンドラに殺されかけた事に舌打ちしてたんですよ」

 さて、これからどうなることか。

 見上げた月は、それに答えることはなかった。

🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓

 上弦の章 完

※ひとまず、アベル視点はこれで区切ります。

 いつだが、ソフィーとフレデリカが活躍すると言いましたが、フレデリカに関しては帝国議会の方で書きます。
 ソフィーは本人が活躍する気がなくとも、関所の件で後々戦略上貢献することになるということで活躍したことにします(むりやり)。

 キーワードに追加するヤンデレとメンヘラの投入は、満月の章からです。
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