断罪のアベル

都沢むくどり

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上弦の章 帝国内乱

帝国議会議事録 上弦 一巻

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「はぁ……………………」

 ウリヤノフは様々な問題に頭を悩ませていた。

 視界の端には憎たらしくふんぞり返りながらまるで自身が王であるかのような振る舞いをするグランドル家の当主ジーク・グランドル。

 座り方は丁寧ながらも蛇のようにいつ牙を剥くか分からないような目付きのべネット商会の頭領、ジョージ・べネット。

 この二人はまだ想定の範疇なので良いが、問題は3件。

 1つ目は、大将軍ユリアスの不戦敗。戦略的撤退ではなく戦うこともせず、おめおめと逃げた。

 真人ヒューマムが治めるなかで、いや、この大陸最大の大国と名高いあのベルギウス帝国の大将軍が、だ。

 子犬のように尻尾を巻いて撤退したのだ。

(愚か者がっっ! 保身の為に逃げ帰り、帝都にも戻らず自身の封土内に引きこもりおって!! 証拠は充分、奴を大将軍から引きずり下ろし、誅を下す!!!)

 ウリヤノフが親衛隊長から大将軍になった時代、彼は自身の命を守ろうと後ろから命令するわけではなく、常に配下の兵隊達を先導するため、自身が一番槍となっていた。

 若かりしころと相変わらずに。

 そして食べる時も、寝る時も、戦う時も兵隊と共に行動する。

 彼らと過ごした結果、ベルギウス帝国の直轄軍はウリヤノフを支持し、階級と言う枠を離れ、彼のためなら命すら惜しまない者達が続出した。

 しかし、ユリアスが大将軍の地位に収まると、激変する。

 ただ生まれの身分が高く、ユリアスに元々仕えてる者達のみが高位を独占。
 ウリヤノフが前線を退いた後にも国の盾として彼の意思を継いだ勇敢な将兵は、その心を上手いように利用され、使い捨ての駒として戦場の土へと還った者が多数。

 その中でも生き残った兵士の一部である数十名が、ユリアス敗走の報告を携えながら、先程ウリヤノフに直訴してきた。

○○○○○○○○○○○○○○○○○

 場所はウリヤノフの邸宅。

「ウリヤノフ大将軍! いえ議長!!!
我らは国の為と思い、嫌々ながらもユリアスの元で任を遂行してきました! されどこれ以上は我慢なりませぬ! 懸命に働いた者がいても、功績は血統の良いものから優先的に配分され、血統の低いものはただの消耗品として功績を生み出させる道具と成り果てました! さらに将軍を支える側近は軍の資金を勝手に使う始末!!!」

「ウリヤノフ議長! どうかかつてのように大将軍の座に着いて下され!! 国を! ベルギウスの民を!! 愛国心を守るために!!!」

 ウリヤノフを慕う若き直轄軍の兵士が嘆願する。彼ら二人はこの直訴者の代表だろう。

「よくぞ申してくれた!! 国を愛し、吾輩を信じて付いてきてくれるとは……!
このウリヤノフ、国の未来の柱となり、全てを捧げよう!!! 皆、出立の準備をせよ! 逆賊、ユリアスを討つべし! 汚れた害悪を浄化し、新たな体制の礎となるのだ!!!」

「「「「「ウリヤノフ大将軍、万歳!」」」」」

○○○○○○○○○○○○○○○○
 これにより、先程急遽開かれた評決により、ウリヤノフの大将軍復帰兼議長の歴任、ユリアスの解任及び常備軍を動かしたあげく、帝国の威厳に泥を塗るような行動から国家への大逆罪とし、ユリアス処刑が決定された。

 当のユリアスが領地に籠もったことで臨戦態勢と見なし、処刑ではなくユリアス・フォン・シュタイン一派を族滅する方針となったが。

(それにあの男がテオドール様を擁立することは目に見えているわ!)

 問題はやはりそこである。

 テオドール・ベルギウス大公。

 現在のベルギウス皇帝の腹違いの末弟であり、ジーク・グランドルから逃れるようにしてユリアスに庇護されたまだ年端も行かない皇子。

 現状ユリアスの所領内の動きが把握しきれていない事から断定できないが、大方正当化の理由としての材料になるとウリヤノフは読んでいた。

 それから2つ目の問題がウリヤノフの頭をよぎる。

 ダイダル・ダン率いる西方の遊牧民が、少都市群バライを滅ぼした。

 その知らせが丁度今朝、帝国議会に届いた時に驚愕したのは彼だけではない。

 帝都より送り込んだ常備軍、その中でも屈強な人員を選び、叩き上げのネヴィルを指揮官に構成された軍団が、この知らせが帝都に着く頃には全員死亡した可能性があると書かれていたからだ。

(ネヴィル……………………………)

 余談だが、このネヴィルの父親は彼と同名で、帝都近郊にある広大な森の一部、ネヴィル森群を探索して地図に記している。

(兵力をいかにして振り分けるか。南のドラグニア竜王国も放置できん。ユリアス、ダイダル・ダン、ドラグニア……………………)

 ここで最後の問題点が強調される。

「……………………………………」

 ウリヤノフは、空席になっている椅子を見る。

「それにしてもヴァルトの当主はどうしたのかね?」

 議長の視線の先を見て、ジークがウリヤノフに言葉を投げかける。

「ヴァルトは決まりごとに関して言えば必ず守る家柄。議長のお墨付きがある家なのに、ハハッ! これは傑作ではないか?」

「……………………………」

 返事をしないウリヤノフを諦め、今度はジョージ・ベネットに話を振る。

「ジョージ殿はどう思う?」

「襲名式に参加しなかったのです。並々ならぬ事情があったのでしょう。尤も、なぜ当主様がいきなり東に出るのかが疑問ですが」

 そう。ヴァルトである。

 襲名式を急遽取り止め、既に屋敷から出てしまった新当主、ソフィー・ヴァルツァー。

 何も言わずに出ていってしまった彼女の心を知るものは、少なくともここにはいないだろう。
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