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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌
遅すぎた朝飯
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「遅いわよ!!」
「悪い悪い。今日は肌寒いし一杯やろう」
剣選びですっかり日も暮れ、辺りは静寂に包まれていた。俺は平気だが、カレンの服は下がハーフスカートなので寒そうだ。
「待たせてたのはあなたなんだけど……」
ジト目で睨んでくる。
人もほとんどおらず、宿への道は朝よりも短い時間で歩ける。下り坂だから、足も疲れない。
「ただ下に降りるだけってのは楽だなぁ」
「私達これから上り坂よ?」
物理的な事を言ったつもりだが、人生論で返答してきた。話を合わせてみるか。
「とは言っても俺はしがない労働者、しかも騎士と違って定期的な収入と保障が無いんだぞ」
「確かに大変な道だけど功績があれば、騎士や貴族に仕官できるチャンスだってあるわよ、私も一枚推薦状持ってるし」
そうだった。カレンって貴族だったな。仕官できれば給料も今とは比べ物にならないくらい増えるだろう。
でも
「今はこれでいいと思ってる。」
カレンは俺の意思を何かで感じ取ったのだろうか。ただ、
「考え方は人それぞれよね。あなたはあなたの信じる道を行きなさい」
とそれだけ伝えた。
階段を全て降りてようやく宿に到着。中に入ると、朝に話した若い店員がいた。バーテンをしていたらしくカウンターテーブルで酒を振っていた。ふと、こちらに気づいた様で、
「本日はお二人様で一部屋ですか?」
相変わらず自然的な微笑。むしろ自然すぎて怖いが。ていうかなんで当たり前のように相部屋を勧めるんだ。
「カレンは飲んだ後帰宅するのか? さすがにもう暗いし」
もう夜も遅い。いくら強いと言ってもまだ少女。夜道に歩かせるのは憚られる。
「今日は泊まらせてもらうわ、もちろん別室でね」
そりゃそうだ。今日合ったばかりのみすぼらしい男と一緒の部屋なんてそれこそ俺が捕まる。もうすでに向こうも大人(十六歳以上)になっているだろうが、酒の勢いで一線を越えたなら最後、貴族の権力で首が広場に置かれるだろう………………。
カウンターもあるが迷うことなく右奥のテーブルへ。メニューを二つもらい、椅子に腰掛ける。俺は今日はじめての飯に加え、明日から初仕事なので、精をつけるため豚の一枚ステーキ、野菜のサラダにバケットとワインを頼む。カレンも同じ物を注文した。
普段ならもっと客もいるだろうがやたら少ない。二つ隣のテーブルに一人、カウンターに二人だけ。テーブルにいるのは詩人だろうか。羽が付いた三角帽子に鮮やかな緑のローブを羽織っている。何か書いてるので遠目で見ると悩みながら、書いては捨て、書いては捨ての繰返し。傑作がなかなか浮かばないんだろう。頑張れ。
カレンに視線を戻す。今日はずっと外にいた感じだ。疲れてる様で、うとうとして夢と現実の狭間で格闘中。無理やり起こすのもかわいそうだと思ったのでそっとしておくことにした。
ランプのなかで揺らめく炎を暇潰しに眺めていたら、ほどなくして料理が置かれた。
「お待たせいたしました。それではごゆっくり」
二人ともウエイトレスが去っていくのを待って食べ始める。上流階級では食事中の会話は下劣であり、同席に対して失礼だとか。ナイフとフォークを器用に使い、肉を切り分けスライスされたバケットにのせる。ただそれだけなのだが、カレンもなかなか絵になるような作法を心得てる。そのパンをゆっくりと持ち上げて口に近づけ、
勢いよくかぶりついた。
ちょっと待ってくれ。さっきまでの流れはどこに行った…………。ものすごい勢いで肉をのせ、バケットに食らいつく。
確かに顔はかわいいし、口に付いた汚れを度々布巾で拭いとっていて、汚さはそこまで感じられない。もうすでにバケットと肉は無くなっていた。
「た、食べるの……速いんだな」
食べる作業に没頭しているせいか今の言葉の返答はサラダが食べ終わる直前だった。
「お昼食べてなかったから仕方ないの、人前ではこんなことしないわ」
目の前にいますが。人前とは社交界とかそういう類いなのだろう。
「絵本に出てくるお嬢様に憧れちゃったんだろうけど。フフフッ、そんなのほとんどいないわよ」
「あぁ。でも俺はお嬢様より家庭的な人が好みのタイプだから」
「そ……そう?」
「うん」
「そう……」
ワインを半分くらい飲んでいたせいかカレンの顔はほんのりと赤くなっている。
そんなこんなで食事も終わり、ワインを飲み終えると
「んん……」
今度は深い眠りについていた。魔術の行使には沢山の力を使うからな。部屋に運んでやろう。
二人分の会計(四千ウォルス)を支払い、俺が借りた部屋の隣へ。ベットに寝かせてやり、置き手紙だけ机の上に。内容は
《部屋は内鍵だから、俺が出てくときに外から借りた鍵をかけて預かっとく。もし俺の方が先に仕事に出てたらもうその鍵は返してるから大丈夫。部屋代は返さなくてもいいぞ。何日かはこの宿を借りる予定だから何かあったら連絡をくれ。 アベル》
さて、俺も寝るか。
🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑
※飲酒表現が書かれていますが、時代が中世ヨーロッパ風な上、寿命も短い時代ですので大人の基準を下げています。もしかしたら後ほど変更するかもしれません。
これはフィクションなので、現実で真似してはいけませんよ。
「悪い悪い。今日は肌寒いし一杯やろう」
剣選びですっかり日も暮れ、辺りは静寂に包まれていた。俺は平気だが、カレンの服は下がハーフスカートなので寒そうだ。
「待たせてたのはあなたなんだけど……」
ジト目で睨んでくる。
人もほとんどおらず、宿への道は朝よりも短い時間で歩ける。下り坂だから、足も疲れない。
「ただ下に降りるだけってのは楽だなぁ」
「私達これから上り坂よ?」
物理的な事を言ったつもりだが、人生論で返答してきた。話を合わせてみるか。
「とは言っても俺はしがない労働者、しかも騎士と違って定期的な収入と保障が無いんだぞ」
「確かに大変な道だけど功績があれば、騎士や貴族に仕官できるチャンスだってあるわよ、私も一枚推薦状持ってるし」
そうだった。カレンって貴族だったな。仕官できれば給料も今とは比べ物にならないくらい増えるだろう。
でも
「今はこれでいいと思ってる。」
カレンは俺の意思を何かで感じ取ったのだろうか。ただ、
「考え方は人それぞれよね。あなたはあなたの信じる道を行きなさい」
とそれだけ伝えた。
階段を全て降りてようやく宿に到着。中に入ると、朝に話した若い店員がいた。バーテンをしていたらしくカウンターテーブルで酒を振っていた。ふと、こちらに気づいた様で、
「本日はお二人様で一部屋ですか?」
相変わらず自然的な微笑。むしろ自然すぎて怖いが。ていうかなんで当たり前のように相部屋を勧めるんだ。
「カレンは飲んだ後帰宅するのか? さすがにもう暗いし」
もう夜も遅い。いくら強いと言ってもまだ少女。夜道に歩かせるのは憚られる。
「今日は泊まらせてもらうわ、もちろん別室でね」
そりゃそうだ。今日合ったばかりのみすぼらしい男と一緒の部屋なんてそれこそ俺が捕まる。もうすでに向こうも大人(十六歳以上)になっているだろうが、酒の勢いで一線を越えたなら最後、貴族の権力で首が広場に置かれるだろう………………。
カウンターもあるが迷うことなく右奥のテーブルへ。メニューを二つもらい、椅子に腰掛ける。俺は今日はじめての飯に加え、明日から初仕事なので、精をつけるため豚の一枚ステーキ、野菜のサラダにバケットとワインを頼む。カレンも同じ物を注文した。
普段ならもっと客もいるだろうがやたら少ない。二つ隣のテーブルに一人、カウンターに二人だけ。テーブルにいるのは詩人だろうか。羽が付いた三角帽子に鮮やかな緑のローブを羽織っている。何か書いてるので遠目で見ると悩みながら、書いては捨て、書いては捨ての繰返し。傑作がなかなか浮かばないんだろう。頑張れ。
カレンに視線を戻す。今日はずっと外にいた感じだ。疲れてる様で、うとうとして夢と現実の狭間で格闘中。無理やり起こすのもかわいそうだと思ったのでそっとしておくことにした。
ランプのなかで揺らめく炎を暇潰しに眺めていたら、ほどなくして料理が置かれた。
「お待たせいたしました。それではごゆっくり」
二人ともウエイトレスが去っていくのを待って食べ始める。上流階級では食事中の会話は下劣であり、同席に対して失礼だとか。ナイフとフォークを器用に使い、肉を切り分けスライスされたバケットにのせる。ただそれだけなのだが、カレンもなかなか絵になるような作法を心得てる。そのパンをゆっくりと持ち上げて口に近づけ、
勢いよくかぶりついた。
ちょっと待ってくれ。さっきまでの流れはどこに行った…………。ものすごい勢いで肉をのせ、バケットに食らいつく。
確かに顔はかわいいし、口に付いた汚れを度々布巾で拭いとっていて、汚さはそこまで感じられない。もうすでにバケットと肉は無くなっていた。
「た、食べるの……速いんだな」
食べる作業に没頭しているせいか今の言葉の返答はサラダが食べ終わる直前だった。
「お昼食べてなかったから仕方ないの、人前ではこんなことしないわ」
目の前にいますが。人前とは社交界とかそういう類いなのだろう。
「絵本に出てくるお嬢様に憧れちゃったんだろうけど。フフフッ、そんなのほとんどいないわよ」
「あぁ。でも俺はお嬢様より家庭的な人が好みのタイプだから」
「そ……そう?」
「うん」
「そう……」
ワインを半分くらい飲んでいたせいかカレンの顔はほんのりと赤くなっている。
そんなこんなで食事も終わり、ワインを飲み終えると
「んん……」
今度は深い眠りについていた。魔術の行使には沢山の力を使うからな。部屋に運んでやろう。
二人分の会計(四千ウォルス)を支払い、俺が借りた部屋の隣へ。ベットに寝かせてやり、置き手紙だけ机の上に。内容は
《部屋は内鍵だから、俺が出てくときに外から借りた鍵をかけて預かっとく。もし俺の方が先に仕事に出てたらもうその鍵は返してるから大丈夫。部屋代は返さなくてもいいぞ。何日かはこの宿を借りる予定だから何かあったら連絡をくれ。 アベル》
さて、俺も寝るか。
🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑🌑
※飲酒表現が書かれていますが、時代が中世ヨーロッパ風な上、寿命も短い時代ですので大人の基準を下げています。もしかしたら後ほど変更するかもしれません。
これはフィクションなので、現実で真似してはいけませんよ。
応援ありがとうございます!
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