断罪のアベル

都沢むくどり

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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

平民街への帰路

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 さっきのレストランを出て、通りの中央に建っている大理石の柱に体重を預け、来るのを待つ。

 実はこの柱、方角と影を利用して時計の役割をする仕掛けとなっており、注意書きとこの状態が午後三時を示していた。単純な作りだがなかなか趣向を凝らした一品だ。使えるのは晴れの日だけだが。

「蹴るのはまずいんじゃないか?」

 弁償とかなったら困るんだが。

「向こうに非があるんだから気にする必要ないわよ」

 それにしても男勝りな度胸だな。よくあそこまで出来たもんだ。

「そういやさっきの話に戻って悪いが騎士だった時代があったんだろ。貴族になるなんて特例中の特例じゃないか?」

 本来ベルギウス帝国で騎士から貴族になるなんてありえない。国の脅威から守った英雄ぐらいだ。どんな功績でそこまで上り詰めたのか興味が沸いてきた。

「………………姉のおかげよ…………」

 それだけ言って黙り、目を伏せてしまった。沈んだ声をしている限り何かあったのだろう。これ以上の詮索は彼女を傷つける。

 人には言いたくないことは誰だってあるさ。それは仕方ないことだ。あるんだし。

 でも沈黙が気まずい。かといって、あまり人との会話は得意ではない。何か話題を……。

「なぁ、腹減ってないか?」

 伏せた瞳が上がる。

「さっきの店に入ってないから何かたべたいわ」

「なら北の地区にいかないか?」

「それってあなたの宿がある地区?」

「あぁ、平民街ならさっきの対応はないからな」

「私も堅苦しい所嫌いだし、いいわよ。店まで案内して」

「でもどっちからいくか。正規の門を通るか裏通りで戻るか」

 すると不思議そうな顔で

「裏通りしかないじゃない。あなた門を通る時の証がないでしょ?」

「証?」

 はて、通行手形みたいな代物必要だったのかな?

「貴族の家紋よ」

「無いです…………」

 結局裏通りで戻ることにした。



「曲がっても曲がっても同じ景色でよくわからん」

「慣れれば門を通るより楽よ」

「でも女の子一人でよくこんなとこ通れるな」

「さっきの見たでしょ? 変なの出てもやろうと思えば殺れるわよ」

 笑顔でそんな物騒な事を口走る。怖くはないがギャップがすごい。

「それよりあなたこそ大丈夫なの?」

「なんで?」

「さっき剣が壊れてたじゃない」

「あ…………」

 忘れてた。

「まだあることにはあるぞ」

「パッと見、他の武器は扱い下手そうだし」

 ご名答。買いたいのはやまやまだが。

「剣を買う資金が足りない……」

 明日から仕事だ。我慢すれば安い剣くらいすぐに手に入る。

「ふーん……」

 顎にすらりとした手を当て、考える仕草をする。

「でも武器は増えたぞ」

「いつの間に手に入れたのよ?」

 無理もない。剣と比べて小さいからな。

「拾った」

「どこで?」

「ここで」

 指を地面に指し示す。先ほど戦闘があった場所まで戻って来ていた。ナイフが頬を掠めた時の血が地面に点々と落ちている。

「さっき『アルマス・ウィンディオ』を使って全ての武器を叩き落としてくれただろ? あの中からめぼしいのだけ拾った」

 ナイフケースはひとつで五本収納できる。つまりあと八本収納出来るので、サイズに合うナイフを八本厳選して入れた。他にも綺麗な未使用品があったのでいくつかベルトポーチにしまったのだ。

「え、でも私見てないわよ!? いつの間にしまったの?」

「カレンが敵を睨み付けてる時、他には俺に背を向けて歩き出す瞬間に収納した」

「驚いたわ……。でもそんなパンパンにしたポーチに入れたら重くて動きづらいじゃない。バカなの?」

 そこまでバカではないぞ。そこも計算に入れてる。

「どこかで買い取りしてもらう」

 売れば良いのだ。身軽になれるし、資産も増える。一石二鳥だ。がめついわけではない。生きるためだ。旅してる期間、飯代が無くて野草をんだり、賊を倒した後、使えそうな物だけ剥いだりした経験が活かされてるのかな。

「呆れた……………………プライドは無いの?」

「旅をすれば分かるよ」

「じゃあ旅しない…………」

 表通りの光が射し込んで、視界が急激に眩しくなる。

 北ブロックに戻って来た。

 すでに夕暮れ時、朝昼と比べ、出歩いてる人も減っている。

「宿屋の一階が酒場なんだがそれでもいいか?」

「もうこの際どこでもオーケーよ、昼夕兼用ね」

 俺は朝昼夕兼用だがな。

 だがその前に。

「一回鍛冶屋よっていい?」

「いいけどすぐに戻ってよ、お腹すいたし。階段近くで待ってるから」





 すぐに鍛冶屋に駆け込む。

「すみません、買い取りはやってますかぁ?」

 中に職人が見当たらなかったので大声で呼ぶ。すると、

「ん?見ない顔だな。あたいに何か用かい?」

 女性が奥から顔をひょっこり出す。筋肉質で背が高い。俺が170cmだから180くらいだろうか。

「武器の買い取りをして頂きたいんです」

 ベルトポーチから五本、ナイフケースからそれぞれ三本引き抜いて職人に渡す。

「どれどれ、お! 良質なのが4本で二万
、他7本は普通だから一万四千、合計三万四千ウォルスだが構わないか?」

「えぇ、それで結構ですよ。それと長い剣が欲しいんですけど見せてもらって良いですか?」

「あぁ、いいぞ。今、金を持ってくるからじっくり見物しとけ」

 どかどかと足音をたてながら戻っていく。

 剣のコーナーを見るとピンからキリまで置いてあり、キリで二万ウォルスだった。だがあんまり簡単に壊れられても困る。最終的にキリから二番目の二万五千ウォルスのに決めた。

「それにしたか。頑丈だが切れ味はあんまりよくないぞ。それでいいのか?」

「はい、先ほどまで持っていた剣はすぐに壊れたので」

「会計はさっきのから差っ引くからお釣り九千ウォルスだ。」

「あ、急がないと怒られる」

 剣に夢中で忘れてた。まずいぞ!

「女か?あんま待たせると失礼だぞ。走れ」

「はい、ありがとうございます」

「毎度ありぃ。また来いよ」

 後ろで職人の声が響く。速くカレンの元に行かなくては。
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