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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌
帝国議会議事録 二巻
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「それにしてもヴァルト家が遅いな、いつもは誰よりも先に議会にいるはずなのに」
ジークが唸る。
「確かに遅いですね。彼らの真面目さを考えると、余程の出来事があったのではないですか?」
ジョージがそれに続いて考え込む。
「それは私に対する当てつけか?」
苦笑しながらジークは言う。目は笑っていない。
「ふん、当然じゃろう。貴様と比べ真面目なのだからな」
それに、とウリヤノフは続ける。
「各々が代々長い付き合いなのに互いの事を良く分かってないのだな。ヴァルト家は今、後継者争いに明け暮れている。組織の力ではなく、真に己の知恵と才能を使い、候補者の中で生き残った者が次の当主となり、一族を率いるのだ」
そう。ヴァルト家は貴族と違い、完全なる実力至上主義。謀略など用いず、ただ魔術をいかに駆使して相手を叩き潰すか、それだけに重点を置いている。負けた者は一切の権限を剥奪され、次の後継者決めが行われるまで一族の会議に出席できない。候補者が死んだとしても誰も追求しない。
運が悪かっただけなのだ。
ヴァルト家では二十年に一度、当主の変更をする。仮に途中で当主が死亡した場合、世襲で子孫に受け継がれることは一切ない。いくら有能だった親から生まれても、中には親に劣るならまだしも、分家よりも脆弱な存在だったとすれば、家に傷がつくからだ。ましてや魔術が使えないなど論外。理由はどうあれ追放処分は確定事項。
候補者の選任だが、当主に就任した者の家族を本家、それ以外の四つの師家と呼ばれる分家からそれぞれ一名ずつ、計五名がお互い戦闘を行う。
だが実力至上主義ではあるものの、ただ戦うだけでなく、家同士の同盟や資金、物資、知識のやりとりがされるのは許可されている。
現に、現在の本家は師家の一つであるヴァルテシモ家と協力関係にあり、他の師家である、
ヴァルトーガ、ヴァルターニャ、ヴァルチェの三家と争っている。例え負けても、
協力関係の家が勝てば、分家でも本家に次ぐ立ち位置を得るため、基本的に孤立する家はない。
ヴァルトの歴史上においても、本家が一回師家の総攻撃に敗れたぐらいだ。
名目上は本家、師家と分けてはあるが、それは貴族における血脈の濃さではなく、実力なので、本家が師家に、師家が本家に、と言う現象はそれほど珍しい物ではない。
実際、今の本家はヴァルトを名乗っているが、二十年前に、当時本家であったヴァルト(ヴァルチェ)家の当主の息子(候補者)を倒し、譲り受けたからであり、本当の苗字はヴァルツァーである。師家がヴァルトの語尾を変化させているのは、勝ち残った本家であるヴァルトの純粋さを保つためなのだ。
余談だが、分家が師家と呼ばれてるのにはわけがあり、地方にそれぞれ拠点を構え、魔術の教えを民衆に説いているからだ。例え農民の子供であろうと適正があれば魔術の使い方を教える。
先生のような存在である事から、いつしか民衆がその一族を師家と呼ぶようになったのに由来する。
「ハハハッ! いくら力に優れていようと、一族をまとめる力が足りないから、そのような単細胞な争いになるのだ! 我らグランドル家ならば、毒殺や謀など当たり前だぞ」
「しかしジーク殿。我々ベネット商会では無駄な争いなどせずとも資金力が一族のすべてを決定します。グランドルも五十歩百歩だと思うのですが」
小ばかにするように含み笑いをしながら、ジョージは言う。
すると、
「貴様ァァァァァッ! 我らを愚弄するか! 小汚い商人風情が!」
ジークの傍で待機していた配下の一人が激昂し、ジョージに詰め寄る。
「たわけッ!今は帝国内で争っている場合ではないじゃろう!」
ウリヤノフの一喝が議会を木霊し、ジョージを殴りかからんとする拳を一瞬だけ止める。
だが、今度はウリヤノフに怒りの矛先を向け始めた。
「平民上がりの議長ごときがッッッッッッ! 我らグランドルの兵に指図するかッ! いい加減に……」
「控えろ、ここは議会だ。暴力沙汰は起こすな」
自分が仕えている主人に止められる。
「しかしジーク様…………あの老いぼれはもう」
「聞こえなったか? 控えろ」
語気を強めたジークに配下はひるむ。まるで小動物の様にふるふると震えだす。
「一つ教えてやろう。お前は私の威光には届かぬが血筋も良く、優秀だ。思ったことをすぐに実践しようとする部分も私に似ている」
だが、とジークは続ける。
「お前には先が見えていない。実践しようがそれをうまく活用できなければ意味がないのだよ。愛する弟よ」
くやしそうな表情を浮かべた後、弟と呼ばれた年若い配下は議会の出入り口から退出した。
「弟だと? なぜ従者のような身分の低い恰好をさせてるのだ?」
ウリヤノフの今までの経験談からして、一門である弟になぜそんなみすぼらしい恰好をさせるのか理解できなかった。貴族は服に気を使うからだ。
「なぜ? そんなの決まっているだろう。後継者争いで負けたからだよ。あやつは腹違いの弟でな、父上の遊びで結ばれた身分の卑しいその母親は自分の息子こそを後継者にしようとしていたのだ。結局その家族は私との争いに敗れ、全員斬首刑に処されて、あの者だけが生き残った。生かした理由? 目だ。あの穢れなき純粋な眼を初めて見て私は歓喜した。グランドルの血を引いておきながら、野心なき心の持ち主。私はそんな哀れな弟に生きる希望を授けたかったのだよ。だから貴族としてではなく、騎士としての生き方を授けた」
「しかし、それではいつか寝首をかかれますよ」
怒らせた原因であるジョージが心配そうな声で言う。
「今回の件の一番の悪がそれを言うか? 大丈夫だ。力量も私の方が上であるからな」
言い終わった直後、中央にある時計が音を四回鳴らす。もう少しで日が上り始める。
帝国議会は四時になると解散することが義務付けられている。今回はこれでお開きだ。
「ではこれにて此度の帝国議会を終了とする。ベルギウス帝国の繁栄に………」
「「「「栄光あれ!」」」」
皆で叫び、そう締めくくられた。
ジークが唸る。
「確かに遅いですね。彼らの真面目さを考えると、余程の出来事があったのではないですか?」
ジョージがそれに続いて考え込む。
「それは私に対する当てつけか?」
苦笑しながらジークは言う。目は笑っていない。
「ふん、当然じゃろう。貴様と比べ真面目なのだからな」
それに、とウリヤノフは続ける。
「各々が代々長い付き合いなのに互いの事を良く分かってないのだな。ヴァルト家は今、後継者争いに明け暮れている。組織の力ではなく、真に己の知恵と才能を使い、候補者の中で生き残った者が次の当主となり、一族を率いるのだ」
そう。ヴァルト家は貴族と違い、完全なる実力至上主義。謀略など用いず、ただ魔術をいかに駆使して相手を叩き潰すか、それだけに重点を置いている。負けた者は一切の権限を剥奪され、次の後継者決めが行われるまで一族の会議に出席できない。候補者が死んだとしても誰も追求しない。
運が悪かっただけなのだ。
ヴァルト家では二十年に一度、当主の変更をする。仮に途中で当主が死亡した場合、世襲で子孫に受け継がれることは一切ない。いくら有能だった親から生まれても、中には親に劣るならまだしも、分家よりも脆弱な存在だったとすれば、家に傷がつくからだ。ましてや魔術が使えないなど論外。理由はどうあれ追放処分は確定事項。
候補者の選任だが、当主に就任した者の家族を本家、それ以外の四つの師家と呼ばれる分家からそれぞれ一名ずつ、計五名がお互い戦闘を行う。
だが実力至上主義ではあるものの、ただ戦うだけでなく、家同士の同盟や資金、物資、知識のやりとりがされるのは許可されている。
現に、現在の本家は師家の一つであるヴァルテシモ家と協力関係にあり、他の師家である、
ヴァルトーガ、ヴァルターニャ、ヴァルチェの三家と争っている。例え負けても、
協力関係の家が勝てば、分家でも本家に次ぐ立ち位置を得るため、基本的に孤立する家はない。
ヴァルトの歴史上においても、本家が一回師家の総攻撃に敗れたぐらいだ。
名目上は本家、師家と分けてはあるが、それは貴族における血脈の濃さではなく、実力なので、本家が師家に、師家が本家に、と言う現象はそれほど珍しい物ではない。
実際、今の本家はヴァルトを名乗っているが、二十年前に、当時本家であったヴァルト(ヴァルチェ)家の当主の息子(候補者)を倒し、譲り受けたからであり、本当の苗字はヴァルツァーである。師家がヴァルトの語尾を変化させているのは、勝ち残った本家であるヴァルトの純粋さを保つためなのだ。
余談だが、分家が師家と呼ばれてるのにはわけがあり、地方にそれぞれ拠点を構え、魔術の教えを民衆に説いているからだ。例え農民の子供であろうと適正があれば魔術の使い方を教える。
先生のような存在である事から、いつしか民衆がその一族を師家と呼ぶようになったのに由来する。
「ハハハッ! いくら力に優れていようと、一族をまとめる力が足りないから、そのような単細胞な争いになるのだ! 我らグランドル家ならば、毒殺や謀など当たり前だぞ」
「しかしジーク殿。我々ベネット商会では無駄な争いなどせずとも資金力が一族のすべてを決定します。グランドルも五十歩百歩だと思うのですが」
小ばかにするように含み笑いをしながら、ジョージは言う。
すると、
「貴様ァァァァァッ! 我らを愚弄するか! 小汚い商人風情が!」
ジークの傍で待機していた配下の一人が激昂し、ジョージに詰め寄る。
「たわけッ!今は帝国内で争っている場合ではないじゃろう!」
ウリヤノフの一喝が議会を木霊し、ジョージを殴りかからんとする拳を一瞬だけ止める。
だが、今度はウリヤノフに怒りの矛先を向け始めた。
「平民上がりの議長ごときがッッッッッッ! 我らグランドルの兵に指図するかッ! いい加減に……」
「控えろ、ここは議会だ。暴力沙汰は起こすな」
自分が仕えている主人に止められる。
「しかしジーク様…………あの老いぼれはもう」
「聞こえなったか? 控えろ」
語気を強めたジークに配下はひるむ。まるで小動物の様にふるふると震えだす。
「一つ教えてやろう。お前は私の威光には届かぬが血筋も良く、優秀だ。思ったことをすぐに実践しようとする部分も私に似ている」
だが、とジークは続ける。
「お前には先が見えていない。実践しようがそれをうまく活用できなければ意味がないのだよ。愛する弟よ」
くやしそうな表情を浮かべた後、弟と呼ばれた年若い配下は議会の出入り口から退出した。
「弟だと? なぜ従者のような身分の低い恰好をさせてるのだ?」
ウリヤノフの今までの経験談からして、一門である弟になぜそんなみすぼらしい恰好をさせるのか理解できなかった。貴族は服に気を使うからだ。
「なぜ? そんなの決まっているだろう。後継者争いで負けたからだよ。あやつは腹違いの弟でな、父上の遊びで結ばれた身分の卑しいその母親は自分の息子こそを後継者にしようとしていたのだ。結局その家族は私との争いに敗れ、全員斬首刑に処されて、あの者だけが生き残った。生かした理由? 目だ。あの穢れなき純粋な眼を初めて見て私は歓喜した。グランドルの血を引いておきながら、野心なき心の持ち主。私はそんな哀れな弟に生きる希望を授けたかったのだよ。だから貴族としてではなく、騎士としての生き方を授けた」
「しかし、それではいつか寝首をかかれますよ」
怒らせた原因であるジョージが心配そうな声で言う。
「今回の件の一番の悪がそれを言うか? 大丈夫だ。力量も私の方が上であるからな」
言い終わった直後、中央にある時計が音を四回鳴らす。もう少しで日が上り始める。
帝国議会は四時になると解散することが義務付けられている。今回はこれでお開きだ。
「ではこれにて此度の帝国議会を終了とする。ベルギウス帝国の繁栄に………」
「「「「栄光あれ!」」」」
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