断罪のアベル

都沢むくどり

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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

契約労働者アベル その1!

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 コーケコッコーー。

 遠くで鶏が鳴いている。朝だ。

 軽く身支度を整え外出の準備をする。隣の部屋に念のため行ったが既にカレンはいなかった。

 階段を降りてカレンの部屋の鍵を返す。ついでに自分の二日分の宿泊代を念のため払った。今日も爽やかな微笑を浮かべる若い店員さん、いつ寝てるんだろ?

 ともかく、今日から仕事だ。粗相の無いよう頑張らなくては。

 昨日の段差のある道を素早く駆け上がる。朝イチにいけば良質な仕事に恵まれるだろう。

 ギルドに到着して、偉大? なるジョン・ベネットの石像を右折、迷うことなく仲介所へと足を進める。ジョンさんあんた、何度見ても不思議だよ。なんでそんな昼間から飲んだくれる荒くれ者のような恰好なのに、真面目そうに見えるんだよ………。


 やっぱり一番奥の受付に限る。まだ俺以外誰も仕事のとこに来ていないので手前が一番手っ取り早いんだが、いかんせん雰囲気が好きなのだ。受付が出てなかったので呼び出し用のベルを鳴らす。

 チリーン。

 ん? こちらに来る気配が全くない。念のためもう一度鳴らすか。

 チリーン。

 さっきより長く待ったが反応がゼロだ。普通担当が不在の時、手が空いている職員が対応するはずなんだが……。ここの従業員は怠慢なのか?誰か来いよ。もっと鳴らしてみよう。

 チリーン、チリーン、チリーン、チリーン、チリーン、チリチリチリ………………


「うるさいよ! 何回も鳴らさなくていいから!」

 ようやくか。あれ、ナツメさんじゃない。ツバキちゃんだ。

「今日はナツメさんいないんだね」

 さっきまで気づかなかったが周囲を眺めると受付はともかく酒場も人っ子一人いなかった。

「? 表の張り紙見てない?」

「見てない」

「だろうね………。あんた見た目バカそうだし」

 特別頭が優秀でないのは認めるが、それを本人の目の前で口走るか普通?

「南のアレクスター王国が戦争を始めたんだよ。大将軍が鎮圧に向かったんだけど、もしもの時に備え、急遽傭兵を募ることになって、それに関する業務でみんな出払ってるんだ」

「アレクスター王国が?」

 長年ベルギウス帝国の庇護のもと、王家の保護をされていたが、なぜ今さら反旗を翻したんだろう? 俺も一度訪れているが、ベルギウス帝国の文化をそのまま取り入れた国だ。昔の国王は自分たちの風習を捨てるんだからさぞ悔しかったんだろうに。
 だがそのおかげで今日まで根絶やしにされずに済んだのだ。

 自分より強い国と争うなど愚策。

 従属先のベルギウス帝国は大国。帝国と王国の単純な国土面積は五〇対一くらい。農業、工業、商業が天と地の差ほど。軍事的にもヴァルト家、グランドル家のどちらかが出陣すれば、勝ちが見えるくらいだと思う。

 しかし

「え、じゃあ仕事は……? 俺どうしたら」

「無理」

「そんな……………………」

 仕事が無いと生活できないんだが、どうしよう。都の東門近くに森があったよな。食材でも採って生き延びようか。

「あんた昨日来た時にナツメに言ってたけど本当にお金ないの?」

「もしものために前もって宿を二日分払ったからな………………。もうこれしかないんだよ、ツバキちゃん」

 なけなしの財布(五千ウォルス)をツバキちゃんに見せる。

「うわ、本当に寂しい財布ね」

 憐れむような目で、俺に視線を向ける。

「ていうか、ツバキちゃん言うな。これでも立派な従業員なんだよ!」

「いやまだ子供だろ?」

 どう見ても十歳だろ。姉であるナツメさんは二十代っぽかったけど姉妹の年が結構離れてるな。

「う~~~~ッ! 失礼だと思わないの!? 確かに私は十歳だけどもう学校を卒業してるんだからぁ!」

 さっきまでのクールさは、どこへ行ったのか。涙目になりながらこちらをキッッと見つめる。
年齢の話は禁句だったか。でもおかしい。なんで………

「!? 学校をもう卒業してるのか!? その年齢で!?!?」

 目の前にいる幼女が既に学校を出てる!? まだ熊のぬいぐるみを抱いて寝てそうな幼い子が!?

「ふふん。あたしは飛び級を重ねて国立ベルギウス大学を卒業したのよ。高い学費を親に払わせるのも嫌だったし、なにより早く社会に出て自立したかったからね」

 自信満々に貧相な胸を張る。

「でもここの就業可能年齢低すぎないか? いくらなんでもに仕事させるとか…」

 一部の仕事受注者が幼女好きだったら非力そうな彼女が危ないんじゃ?

「これでもギルドの受付嬢よ? 魔術だって使えるし、お姉ちゃんより強いんだから!」

 怖え。ここの女の人たちみんな戦えるとか、痴漢退治万全だな。

 そういえば当初の目的を忘れてた。

「話戻すようで悪いが! 頼む! 仕事をくれえ!」

 俺の渾身の土下座。この際プライドなんて関係ない! 生きるにはお金が必要なんだ!

 しかしてその効果は………………。



「無理」

「頼む!」

「だから無理!」

 どうしよう。効果がなかったよ………。

 肩を落としてため息が漏れる。

 すると、人生の瀬戸際に立たされた俺の顔を見たのか

「はぁ………。しょうがない、あげるよ。仕事」

「え!?」

「せっかくナツメが担当になったのに、あんたに餓死されたら怒られんのナツメだし。ちょっと待ってて」

 そう言うと一旦奥の方へ戻っていった。

 人情で流されたんじゃなく、ただノルマの都合上かよ! ただそのおかげでどうにかなりそうだ。
ありがたや、ツバキさま。

 ツバキちゃんが丸めた羊皮紙を三枚、片手に持って戻って来た。

「はい、これ。気に入ったやつ選んで」

 差し出された羊皮紙を開いて中をそれぞれ確認する。

《今回依頼しますのは体の傷を癒してくれる治療薬ポーションの材料であるエイドマッシュルームを採れるだけ採って下さい     報酬百ウォルス×採れた数》

《盗賊団が東門近くの森を根城にして、山菜が取れません。撃退を依頼します     報酬二万ウォルス》

《年で足が悪く買い物(牛乳一瓶、ジャガイモ五個、ニンジン三本、豚肉二切れ)に行くのもよいじゃないので代わりに行ってくれませんか?お金がないため報酬は少ないですが、何卒よろしくお願いします 報酬千ウォルス》

 さて、どうしようか。

「制限時刻はいつまでなんだ?」

「エイドマッシュルームは明後日、盗賊団退治は三日後まで、お使いは今日」

「でも大丈夫なのか? 頼んだ俺が言うのもなんだけど、履歴とか」

 本来、俺は仕事を受けられない状況にいる。ツバキちゃんが許可したのがばれたら、責任でクビになってしまうのでは?

「明後日の朝からギルドが再開するから、達成した仕事はそのときに報告して。受注もその日にしたことにするから」

 おう、この子ただ頭いいだけでなく、こういうこともするのか。

「なかなかずる賢いな」

「そのずる賢いのに仕事もらってるあんたにとやかく言う資格はない」

「はい……」

 ん?

「お使いの件は報告できないんじゃないか?」

 終了日が今日だろ? どうするんだ?

「それなら問題ない。あたしが住んでる家の、お隣のおじいちゃんとおばあちゃんからで、そもそもギルドに依頼してない。あたしは今仕事で動けないし、代わりに行ってくれると助かる。買ってくるなら代金は報酬に上乗せするから」

「わかった」

「じゃあ、どれ引き受けてくれる?」

 そりゃ当然………………………………


「全部!」
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