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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌
契約労働者アベル その2!
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時刻は昼下がり。引き受けた三つの仕事を受けた俺は買った食材片手にギルド前に戻って来た。
ツバキちゃんの言っていたとおり、
《アレクスター王国との戦争に備え、傭兵団を編成しており、猫の手を借りるほど人員が不足しているため、本日より二日間、ギルドでの作業は中止します。日頃から皆様にはお力を貸していただき、誠に恐縮ですがこれからもベネット商会との関係を末永く手を取り合って頑張りましょう ベネット商会》
と、ドアの右側に設置されている掲示板に書かれている。本来なら仕事をもらえなかった俺は、
ものすごい幸せな気分に浸っている。崇めますよ、ツバキさま。
はじめてのおつかい。
まぁ案外楽な仕事だった。ツバキちゃん顔が広そうだし、信用を受ければ安くてもいろいろ私的な仕事を回してくれそうだ。いつ依頼されるか分からない高額な案件よりも日頃から安定的に仕事の斡旋をもらえる方が嬉しい。
仕事を全て受けた理由はそれを期待しての事だ。全部こなせば、それなりの信用を勝ち取れるだろうというなんとも姑息な手段。されど、仕方ないだろう。俺は安定志向だ。一攫千金を狙うよりも一夜乞食になる確率の低い地道な作業を尊ぶ。大衆の考えであるが俺には一番しっくりくる。
そんなわけで、仲介所に戻ってツバキちゃんをベルで呼ぶが、
「また出てこない………………」
ベルを連打しないと出てこないのか? 仕方ない。連打しよう。
チリーン、チリーン、チリーン、チリーン、チリーン、チリチリチリ………………
おや? 今度はこちらに来る気配すらしない。外出中ならギルドのドア閉めとかないと危ないんじゃないか?
普段賑わっているこのギルドも今日は人がいないため、あまりの静けさに身震いしそうだ。後ろに誰かいたら怖い。誰もいないと分かっていても、確認しようと体は動く。後ろを振り返ろうとした瞬間、
急に視界が回転する。否、足を払われ腕を捕まえられて投げられた。そう理解する前に、
「かはッッ!! …………ッゥゥ」
地面に叩きつけられ、背中から強い衝撃が襲った。敵か! なら正当防衛だ。ここで武器を抜いても平気だろう。
仰向けになっている俺に何者かが鳩尾を蹴ろうと足を上げる。しかも靴の裏には小型の仕込みナイフが収納されているではないか。腹を刺されれば終わりだ。
すぐに左に転がると俺のいた場所にガッッ! という音と共に靴が刺さる。床は木製だからナイフを仕込んだ靴だと、むしろ相手の動きを一時的に封じてくれたのだ。
少々暗く、敵が見えないが小柄なのは、確認できた。
昨日と言い今日と言い、襲われすぎじゃないか? おれが何をしたっていうんだ。でも俺の命を奪うつもりなら容赦しない。ここで倒す!
剣を抜刀して突撃の構えをとり、間合いを詰めて斬ろうとすると、
「あたしが悪かった! 降参! 降参!」
斬撃の手を止めると敵の髪が数本飛ぶ。今、停止させなかったら彼女の首に大きな致命傷を与えていただろう。黒髪ロングヘアの少女。あどけない顔が怯えている。
「は…………………?」
目の前の小柄な敵の正体はツバキちゃんだった。
「……………なんで俺を襲ったんだ?」
袋に詰まった食材を渡してにらみつける。
「賊退治に行くでしょ? どれぐらい強いのか把握しておきたかったんだ」
けろっとして答える。姉に性格が似たのだろうか? ツバキちゃんも切り替えが早い。悪い意味で。
「把握するのに仕込み靴は必要ないだろう?」
「あれは普段から護身用で履いてる」
いつもナイフを靴底に入れた幼女を誰が想像するだろうか? 友達と遊ぶ時も履いてるとかヤバい。後ろ向いたら刺されそう。
「それが仇になったけどな」
「本格的な実践はこれが最初。魔術を使う前にこっちへ突撃して来たんだもん」
戦いは慣れてないと、いくら勉強で身に着けた知識を使おうとしても体が追い付かない。とっさの判断が命取りとなる。机上の空論では勝てないのだ。
「相手が躱すことも頭に入れとかないとな」
「次は絶対に勝つ!」
「もう勘弁してくれ…………………」
この姉妹。二人共ちょっと変わってるな。姉はおしゃべり好きでしゃべりだすとなかなか止まらないし、妹は普段クールな対応なのにいきなり熱くなって微妙に口調が変化するし。
「あ、そうだ。報酬。」
クールな口調に戻って、報酬の入っている袋を俺に渡す。
「二千ウォルスある。確認して」
二千ウォルスがぴったしあるのを確かめた。確かに肉と牛乳が高くて合計千ウォルスの買い物となったが、なぜそれを知ってるんだ。
「よく当てたな。正解だ」
「なに言ってんの。ここら辺の物価は知ってて当然でしょ」
主婦ですか。十歳なのに発想がもう奥さんだよツバキちゃん。
「別件だけど、暇だからこれからゲーム付き合ってくれない?」
人混みで疲れたから宿にいったん帰りたいんだが。
「なにやるんだ?」
「マルドラフ」
盤面をいつのまにか脇に抱えて、子犬の様に見つめてくる。
子供がやるような遊びではなく難しいルールだが、よく覚えたもんだ。感心する。
俺も昔は分からないながらもやっていたのでルールはもう理解している。久しぶりだしそんなにうまくなかったが、どれ、一戦付き合うか。
「そんなにやったことないけど一回だけならいいぞ」
「本当!? やった!」
嘘偽りのない心からの喜びを表現したような笑い顔。昨日のカレンみたいだな。
「やるからには、負けるつもりはない。行くぞ!」
「望むところだよ!」
こうして戦いの火蓋が切って落とされた。
惨敗。圧倒的な惨敗。なんでこんなに強いの? 俺が弱すぎただけなんでしょうか。
魔導師に相性抜群の錬金術師で挑んだのに……。
「仕方ない。あたしの方が上手だっただけ」
勝利の余韻がすぐ冷めたのか、またクール顔に戻っていた。
「勝負したら楽しかったけど頭使ったから疲れた。もう帰って寝る」
ものすごい考えさせられるからな。
「また対戦しよー」
帰路に踵を返して歩き始めた俺に間延びした声を後ろから届ける。
もう話す気力もなかったので右手を軽く上げて返答した。
ツバキちゃんの言っていたとおり、
《アレクスター王国との戦争に備え、傭兵団を編成しており、猫の手を借りるほど人員が不足しているため、本日より二日間、ギルドでの作業は中止します。日頃から皆様にはお力を貸していただき、誠に恐縮ですがこれからもベネット商会との関係を末永く手を取り合って頑張りましょう ベネット商会》
と、ドアの右側に設置されている掲示板に書かれている。本来なら仕事をもらえなかった俺は、
ものすごい幸せな気分に浸っている。崇めますよ、ツバキさま。
はじめてのおつかい。
まぁ案外楽な仕事だった。ツバキちゃん顔が広そうだし、信用を受ければ安くてもいろいろ私的な仕事を回してくれそうだ。いつ依頼されるか分からない高額な案件よりも日頃から安定的に仕事の斡旋をもらえる方が嬉しい。
仕事を全て受けた理由はそれを期待しての事だ。全部こなせば、それなりの信用を勝ち取れるだろうというなんとも姑息な手段。されど、仕方ないだろう。俺は安定志向だ。一攫千金を狙うよりも一夜乞食になる確率の低い地道な作業を尊ぶ。大衆の考えであるが俺には一番しっくりくる。
そんなわけで、仲介所に戻ってツバキちゃんをベルで呼ぶが、
「また出てこない………………」
ベルを連打しないと出てこないのか? 仕方ない。連打しよう。
チリーン、チリーン、チリーン、チリーン、チリーン、チリチリチリ………………
おや? 今度はこちらに来る気配すらしない。外出中ならギルドのドア閉めとかないと危ないんじゃないか?
普段賑わっているこのギルドも今日は人がいないため、あまりの静けさに身震いしそうだ。後ろに誰かいたら怖い。誰もいないと分かっていても、確認しようと体は動く。後ろを振り返ろうとした瞬間、
急に視界が回転する。否、足を払われ腕を捕まえられて投げられた。そう理解する前に、
「かはッッ!! …………ッゥゥ」
地面に叩きつけられ、背中から強い衝撃が襲った。敵か! なら正当防衛だ。ここで武器を抜いても平気だろう。
仰向けになっている俺に何者かが鳩尾を蹴ろうと足を上げる。しかも靴の裏には小型の仕込みナイフが収納されているではないか。腹を刺されれば終わりだ。
すぐに左に転がると俺のいた場所にガッッ! という音と共に靴が刺さる。床は木製だからナイフを仕込んだ靴だと、むしろ相手の動きを一時的に封じてくれたのだ。
少々暗く、敵が見えないが小柄なのは、確認できた。
昨日と言い今日と言い、襲われすぎじゃないか? おれが何をしたっていうんだ。でも俺の命を奪うつもりなら容赦しない。ここで倒す!
剣を抜刀して突撃の構えをとり、間合いを詰めて斬ろうとすると、
「あたしが悪かった! 降参! 降参!」
斬撃の手を止めると敵の髪が数本飛ぶ。今、停止させなかったら彼女の首に大きな致命傷を与えていただろう。黒髪ロングヘアの少女。あどけない顔が怯えている。
「は…………………?」
目の前の小柄な敵の正体はツバキちゃんだった。
「……………なんで俺を襲ったんだ?」
袋に詰まった食材を渡してにらみつける。
「賊退治に行くでしょ? どれぐらい強いのか把握しておきたかったんだ」
けろっとして答える。姉に性格が似たのだろうか? ツバキちゃんも切り替えが早い。悪い意味で。
「把握するのに仕込み靴は必要ないだろう?」
「あれは普段から護身用で履いてる」
いつもナイフを靴底に入れた幼女を誰が想像するだろうか? 友達と遊ぶ時も履いてるとかヤバい。後ろ向いたら刺されそう。
「それが仇になったけどな」
「本格的な実践はこれが最初。魔術を使う前にこっちへ突撃して来たんだもん」
戦いは慣れてないと、いくら勉強で身に着けた知識を使おうとしても体が追い付かない。とっさの判断が命取りとなる。机上の空論では勝てないのだ。
「相手が躱すことも頭に入れとかないとな」
「次は絶対に勝つ!」
「もう勘弁してくれ…………………」
この姉妹。二人共ちょっと変わってるな。姉はおしゃべり好きでしゃべりだすとなかなか止まらないし、妹は普段クールな対応なのにいきなり熱くなって微妙に口調が変化するし。
「あ、そうだ。報酬。」
クールな口調に戻って、報酬の入っている袋を俺に渡す。
「二千ウォルスある。確認して」
二千ウォルスがぴったしあるのを確かめた。確かに肉と牛乳が高くて合計千ウォルスの買い物となったが、なぜそれを知ってるんだ。
「よく当てたな。正解だ」
「なに言ってんの。ここら辺の物価は知ってて当然でしょ」
主婦ですか。十歳なのに発想がもう奥さんだよツバキちゃん。
「別件だけど、暇だからこれからゲーム付き合ってくれない?」
人混みで疲れたから宿にいったん帰りたいんだが。
「なにやるんだ?」
「マルドラフ」
盤面をいつのまにか脇に抱えて、子犬の様に見つめてくる。
子供がやるような遊びではなく難しいルールだが、よく覚えたもんだ。感心する。
俺も昔は分からないながらもやっていたのでルールはもう理解している。久しぶりだしそんなにうまくなかったが、どれ、一戦付き合うか。
「そんなにやったことないけど一回だけならいいぞ」
「本当!? やった!」
嘘偽りのない心からの喜びを表現したような笑い顔。昨日のカレンみたいだな。
「やるからには、負けるつもりはない。行くぞ!」
「望むところだよ!」
こうして戦いの火蓋が切って落とされた。
惨敗。圧倒的な惨敗。なんでこんなに強いの? 俺が弱すぎただけなんでしょうか。
魔導師に相性抜群の錬金術師で挑んだのに……。
「仕方ない。あたしの方が上手だっただけ」
勝利の余韻がすぐ冷めたのか、またクール顔に戻っていた。
「勝負したら楽しかったけど頭使ったから疲れた。もう帰って寝る」
ものすごい考えさせられるからな。
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