断罪のアベル

都沢むくどり

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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

ファルネーの戦い 1

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 アレクスター王国によるベルギウス帝国からの独立、及び帝国に対する宣戦布告より数日後、ベルギウス帝国大将軍のユリアス・フォン・シュタインは討伐対象であるアレクスター王国の領内に到着した。

  今年で四十代になり、本来なら前線から引退してもよいのだが、彼は毎日鍛練を欠かさず、若い騎士にも負けぬほどの強靭な肉体を維持している。官僚や軍人を多く輩出した貴族のシュタイン家出身で魔術と剣術に秀でている。自身の生まれに誇りを持っており、よく家の自慢話をした結果、平民からのし上がったかつての上司、ウリヤノフ議長とは現在進行形で仲が悪い。大将軍の実権を握ったとはいえ、帝国の敵は外部だけにあらず。いくら決定的勝利を得たいと思っても他の実権獲得を虎視眈々と狙っている国内勢力を牽制するためにも、各都市に配属させている常備軍をアレクスター王国軍を潰す目的で全兵力を連れて行くわけにはいかないのが現状だ。

 とはいえ動員兵力は、通常歩兵四万、弓兵二万、通常騎兵五千に防御魔術や機動力を上げる加護を使える魔導騎兵千人の合計約六万六千の大軍である。

 (別動隊として、べネット商会の傭兵軍が後から到着するらしいが、あんなやつらあてにはならん。ハイエナの如く手柄をかっさらう腹積もりに決まっている。国ではなく金に忠誠を誓った者共が大半だ。命をかけて参戦をしない卑しい身分のドブネズミ共め)

 アレクスター王国の反逆宣言時、ユリアスは帝都ではなくそれより南方に六つ、都市を経由してたどり着くクレイ城塞に視察のため赴いていた。だが、現地まで近く、城塞に兵力が集中していたことと、彼の迅速な判断力により、短時間で大軍勢を編成、行軍を可能にしたのだ。

 ただ、問題がある。

 アレクスター王国は二つの越えることが不可能と言われる広大なヘゼル山脈とグレル山脈の間にある国で関所の様な役割を持っており、三重の壁に守られている。

 さらにそこを越えた先はドラグニア竜王国との境界だ。ベルギウス帝国とドラグニア竜王国は不戦協定を結んでいるため、双方が戦争する理由はないが、アレクスター王国が帝国に反旗を翻した以上、ベルギウスの庇護はなくなり、ドラグニア竜王国の進軍を許してしまう。直轄領ではなく、あくまでもベルギウス帝国への従属のため、ドラグニア竜王国がアレクスター王国の領土を奪っても文句を言えない。その前に、アレクスター王国を滅ぼし、事態に収拾をつけなければならない。

 アレクスター王国のせいで、たった一つの連絡ルートがなくなってしまったため、ドラグニア竜王国への手紙すらだせないのだ。

 一番の心配は、ヴァルト家の人間が一人も不参加なこと。彼らを動員出来たなら、安心であったが、彼らは今、後継者争いで外界との連絡を一切断っている。嘆いても何も始まらないのだがとても残念だ。

 勝ったとしても、被害に差が出るので、出来れば参加してほしかったとため息をつきながら馬を止めた。
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