断罪のアベル

都沢むくどり

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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

閑話 とある詩人の創作日記 肆

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 ようやく、ようやく私は金欠の恐怖から解放された!!!

 なんと言う満足感、なんと言う幸福感!!!

 あまりの嬉しさに体がうち震える!!!

 やはりあのとき、恥を忍んで彼に話しかけて良かった。これで安泰よ。フフフフハハハハッッ!!!!

 フゥ。

 基本的に外に出ず、部屋や一階にて一日のほとんどを過ごす私にとって、最高の仕事である。

 何が言いたいかって? 肉体労働じゃないから、食費がほとんどいらないのだよ。

 黒パンが高騰したのは驚きを隠せなかったが、そもそも一日に黒パン二つと野菜くずのスープ二杯しか消費しない私にとって、宿と風呂以外そんなに金銭を使わない。私の体は低燃費なのだ。

 この前までは親からくすねたリバーファルコンの羽ペンを売却して浪費していた癖が抜けず、危うく死ぬ所だったが、私とて一人の人間。過去の過ちを見直し、同じ失敗はしないのだ!!

 ただし、本業が出来ないではないかァァァァ!


 ……………………………………………………………………………………。

 おっと、つい叫んでしまった。人混みの中で。急に辺りは静かになる。聞こえてくるのは遠くから奏でる小鳥の鳴き声のみ。

 私を変な目で見つめる少女がいた。その傍らには愛くるしい犬が座っている。あれは守護忠犬ガーディアンテリアか。国犬でベルギウス帝国のスタンダードなペットであるベルギッシュテリア。

 昔、お世話になった騎士の家でも飼われていたな。

 と、思ったところで別の事にも気づく。服装は違うが、彼女は宿で少年と食事してた少女ではないか。ただ、武器をいくつか携えている所を見ると、彼女は傭兵だろうか。成り上がり商人の娘なのだから、わざわざ自分で金稼ぎすることもなかろうに。

 こちらが黙っていると、犬を引き連れて私が泊まっている宿に向かった。あの少年に用でもあるのだろう。

 ひ弱そうな少年だがあれは芯が通っていて、剣の腕もそれなりにありそうだ。

 ベネット商会の盗賊退治の依頼でも受けたのか。

 私は力仕事はできぬ。

 ただ、これだけは言える。

 若い命だ。大事にせよ、と。

 離れていく背中に心で激励する私だった。
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